09:マオリーの父親になるまでの経緯を説明
「勇者の聖剣、
「ええ、そうなんです」
勢い込んでジュモーグス王国からの行軍へ斥候、つまりスパイをしに行こうとしていたら、ちょうどハイエルフのおばあちゃんとそのお孫さんである、レイラさんとエリナさんに鉢合わせた。
私の様子を見に魔王城まで来てくれたところだった。
魔王因子を取り込んだ私の姿を見て、先代魔王陛下!? ってなったので、今までの経緯を簡単に説明していたところだ。
いきなり
認知症を患っていると思われるおばあちゃんは杖を放り投げて全速力で走って来たのだから非常に驚いた。
現在、エリナさんは終始びっくりされており、レイラさんは無表情でまじまじと私の顔を眺めている。
ニコニコ顔が印象的なレイラさんだけに、無表情で見つめ続けるのはとても居心地が悪い。
先代魔王陛下に仕えていた時の事を、何となく覚えているからだろうか。
「
あー……、これについては詳しく説明する必要があるのだろか。
出来ちゃいました、では済まないんだろうなってのは分かるんだけど、自分の身に起こった事を自分自身が信じ切れていないので、どうやって説明したものか迷ってしまう。
“よろしければ私の方から説明致しますが”
そっか、私の魔力を使う事で、アルフェを他の人にも見えるようになるんだったか。
説明してすんなりと信じてもらえるかは分からないけど、有耶無耶にするよりはいいかも知れない。
アルフェの存在自体が原因はレイラさんからのディープなキッスな訳だし。
“ただしハイエルフの2人のみへの説明に留めたいと思います。
マオリー陛下と四天王の面々のいない場所へ移動して頂きたいです”
うん、じゃあ移動しよう。
マオリーも一緒に行く、と少しだけ駄々をこねたが、すぐに戻るからと伝えて、新たに用意された筆頭宮廷魔術師用の私室へと場所を移した。
「初めまして、レイラ様、エリナ様。私はアルフェと申します」
私の目から見て、今までとアルフェの見え方が変わらないのだが、エリナさんが小さく驚きの声を漏らした事で、あぁ他の人に見える状態になったんだなと推測出来た。
アルフェは空中に浮かんだ状態で、ワンピースのスカートの裾を摘まんでお辞儀、カーテシーをしている。
「私はレイラ様から魔力・魔術・知識をこの方へ転写された際に生まれた存在です。
ご存じの通り、人族の脳とハイエルフの脳では構造が違う為、レイラ様の知識を司る司書のような存在としてマスターの補佐を務めております」
補佐というよりも私が指図を受けているだけのような気がしなくもない。
“…………”
いや、そこは否定してほしいところだし、無言をテレパシーで伝えられるという器用な事は別にする必要はないよね。
「へぇ、そんな事が出来るとは……。
あっ、おばあちゃん!」
レイラさんが手を伸ばしてアルフェを捕まえようとしているのをエリナさんが止めている。
「大丈夫です、私に実体はございませんので」
あ、そうなんだ。私の魔力で作られたホログラム的な存在なのかな。
「私を消したければ、マスターからそう指示を受けるか、もしくはマスターもろとも消し去る必要がございます」
さらっと恐ろしい事を言うな。別に用事が終わればまた私にだけ見える状態に戻るんだろうに。
「マスターと呼ばれているのですね。
あっ、そう言えばまだお名前を伺っておりませんでしたね」
「最初からバタバタし続けてましたからね。
ただ、この姿になってしまい、そしてマオリーの父親になると決めたので、元々持っていた名前は捨てました。
今はテーヴァス・イニティウム・ゲオルガングと名乗っています」
「まぁ! 初代魔王陛下のお名前ではないですか……。
思い切った事をされましたね」
ええ、してやられましたよ。
「私が提案し、マスターが自ら名乗られました」
いや、あれは完全にしてやられたと思っている。
「名前などどうとでもなりますし、今のお姿も元々のお姿に戻す事も出来ます。
マスターにとっては何も問題はございません」
「お姿を戻せるというのは、昨日の人のお姿に戻れるという事ですか?」
肯定しつつ、姿を人間へ戻す。
細胞レベルで魔力が浸透しているから出来るんだとか何とかアルフェが説明しているが、私自身は出来るから出来るんだという程度の理解しかしていない。
元は夢だと思っており、そして夢ではなく現実であると説明された後、今までの人生自体が他人の夢のようなものであると分かった今、私に残されるのはマオリーの事だけだ。
私は異世界召喚でオリジナルの私から複製された存在。
妻も娘も、私のオリジナルの妻と娘なのだ。
いや娘とはDNAでは繋がっていないけどね。妻の連れ子だし。
でも生まれる前から知っているし、自分の娘であると心から思っている。いや、思っていたんだが……。
家族を思う気持ちは当然まだあるが、その感情を持ち続けても虚しいだけなのではないだろか。
この気持ちすらもオリジナルの私のモノであり、私が思っているのはコピーされた気持ちなのではないか。
そういった葛藤から、血が繋がっている訳でもなく、赤子の頃から面倒を見ている訳でもないが、マオリーは本当の娘のように大事な存在へとなってしまったのだと思う。
“血は繋がっていますよ”
魔王因子を取り込んだ為にそうなのかも知れないが、血を分けたという感覚はないからな。
本当の娘のような存在ではあるが、本当の娘だとは思えない。マオリーはあくまで先代魔王の娘である。
おっと、そう言えば。マオリーがいない今、しっかりと確認しておこう。
「マオリーの母親はどうしているんだ?」
恐らく先代魔王と共に亡くなったのだろうと思うが、せめて母親だけでも生きていてほしいという思いから、どうしているんだという聞き方になった。
「現在国元にお帰りになって、静養中です」
国元というと、他国の姫君だったのかな?
マオリーだけを残して故郷に帰ったのか……。
私の表情が曇ったのを察したのか、エリナさんが説明してくれる。
「先代魔王陛下を目の前で亡くされて……、報復をする為に魔法を使われまして、勇者パーティーを退却させるまで追い込んだのですが、その影響でお身体が……」
何やら事情があるらしい。
あまり深く事情を知るのは憚られたので、暗い現状よりも明るい未来の話をしようと思う。
「魔王城へ向けてジュモーグス王国の軍隊が進行中らしいので、ちょっと行って殲滅して来ます」
エリナさんに全力で止められた。
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