3.船旅にて海賊船は沈む

3-1.

 さて、神の半島アークには2つの港がある。北東と南東にひとつずつだ。それぞれ、北東の港は北の港町ポルタリア行き、南東の港は南の港町ナビニア行きと、東の大陸行きの3択だ。私達は西の大陸の北東方面の精人族の里スピリトリアンを目指したいので、北東の港から北の港町ポルタリア経由で移動する。

 本来ならば、北の港町ポルタリアから精人族の里スピリトリアンを目指すには、大森林が横たわっていて直接は向かえない。精人族の里スピリトリアンは、大森林の中でも西の大陸中央にあるモンタニアン帝国側にあるので、そちらから近付いた方が楽にたどり着ける。

 ただ、私達は私のおかげで食料に不安がないため、3匹の訓練を兼ねて大森林を突っ切る選択をすることにした。大森林なんて大きな森を通り抜けるなんて、方向が分からなくなって迷うのがオチじゃ、と不安になっていたら笑い飛ばされた。この大森林より大きな森林で暮らしていた森人族のアマデオ様がいる限り、大森林で迷子になることはないそうだ。だいたいの方角しか分からないから、多少のブレはあれどたどり着けないことはないだろう、とのこと。いざとなったら、森を抜けてから再度精人族の里スピリトリアンを探せばいいということだった。

 計画が雑過ぎるが、大丈夫だろうか。でもこの世界、食料の問題さえクリアすれば、風呂はクリーンがあるし、結界魔法も存在するからあまり困らない。まあクリーンはともかく、結界魔法の使い手は珍しいから、結界魔法が込められた魔道具で何とかするらしいけど。リオ様達も、リオ様が結界魔法の使い手とはいえ、万が一を考えて結界魔法の魔道具も持っているらしい。移動手段だって自分の足、という誰しも持ちうる最大のものがあるのだから、問題がない。文句を言う前に黙って歩け、ということである。だから本当に、食料さえあれば何とかなっちゃうのだ。


 ということで、船のチケットを買って、北東の港にやってきた。港には町も村もなく、ただ大きな宿舎のような建物がひとつと、あとは桟橋があるだけだった。私達が買った船のチケットは、今日の夜出航予定だ。朝早くに着いて、午前中に人と荷物を降ろし、午後に人と荷物を乗せて、夜に出発というスケジュールらしい。

 私達は午前中早くに宿を出たので、午後一番に港に着いた。チケットを乗組員に見せると、船内の1室を案内される。4人部屋を確保してあったのだが、案内されたその1室はベッドが4つあるのみの簡素な部屋だった。ちょっと狭い気がしないでもないが、いくら大きな船とはいえ人をたくさん乗せないと元を取れないのだろうし、こんなものだろう。

 この船は、北の港町ポルタリアまで1週間ほどで辿り着く予定だ。途中で寄港する港はない。真っ直ぐ向かって、ちょうど1週間である。退屈な1週間となりそうだ。


「皆さんがアーク神の半島に来る時は、何をしていたんですか? 暇ですよね?」

「鍛錬するか寝てた」

「船を一通り確認した後は、本国へ宛てた手紙など雑事をこなしてました」

「手持ちの薬草の整理とか、ちょっとした調薬とかしてたよぉ。でも最終的に、飽きてカードゲームしたじゃないか」


 なに硬派気取ってるの、という痛烈なアマデオ様の言葉で、リオ様が気まずそうな顔をしていた。ラディ様は変わった様子はないから、たぶんリオ様に合わせて口を噤んだだけだろう。もしかしたら、ただのポーカーフェイスかもしれないけど。

 カードゲームってなあに、と首を傾げたら、トランプを差し出された。紛うことなきトランプである。ここにもいたんだね、先達。トランプの柄も、絵札はキングにクイーン、ジャック、エース。ちょっとキングの絵札の気合の入れ方が違うような気もしたいけど、だいたい私が知っているトランプと一緒だった。

 遊び方は、と聞いたら七並べやポーカーとのこと。大富豪は? と聞いたら何ソレ、と。長寿で娯楽に溢れていそうな竜人族や森人族なのに、知らないのか、と首を傾げながらルールを説明。ローカルルールはたくさんあるけど、階段、革命、8切り、スペードの3くらいでいいだろう。いや、この3人は頭がいいから都落ちも入れよう。あとはあがり禁止札のルールを説明して、やりながら説明すればいい。


 流れで始まった大富豪は、どんどん白熱していった。3人とも頭がいいから、すぐにルールや醍醐味を理解してしまって、私は大貧民か貧民をうろうろしていた。


「久しぶりに面白いゲームに出会ったな。回数を重ねるごとに有利不利が開いていくのは愉快だ」

「そこに革命が放り込まれる訳だね。革命って言葉が物騒だけど、まさに大逆転できるいいチャンスだよね」

「皆様が楽しそうでようございました」


 ちなみに、大富豪が多かったのはラディ様である。富豪と貧民を行き来していたのが、リオ様とアマデオ様。そのアマデオ様が大貧民に陥った時、革命をしてのし上がっていた。「おや、都落ちですか」と言っていたラディ様はにこにこしていたけど、その笑顔はどこかそら寒かった。


 そうして大騒ぎしていたら、時間は大分経っていたらしい。客室から見た空はオレンジ色に染まっていた。ということで、夕食の時間である。

 この船には食堂なんて高尚なものはない。基本的に客室で各自食事をとってください、万が一食料が足りなければ少量なら販売しています、という形を取っているらしい。だから客室を出て船の中を散歩するのはいいが、あまり他の人の近くに寄るとトラブルになることもあるんだとか。これは本格的に客室に缶詰めだな、と苦笑いした。とはいえまだ読んでいない本がたくさんあるし、私が持っている本をリオ様達に貸してもいい。トランプもあるし暇つぶしには事欠かなさそうである。

 話がそれたが、夕食の時間である。今日の夕食は、ラディ様リクエストのハンバーガーになった。何でかって? 大富豪をやっている際に、夕食のリクエスト権を賭けることになったからである。ラディ様は、「手を汚さず楽に食べられるもの」とリクエストした。じゃあハンバーガーだ、となった。もちろん異世界通販で買った。ケーキもあるし知っていたけど既製品も売っているんだよね、異世界通販。

 皆でテリヤキバーガーをひとつずつ、他3人はそれだけじゃ足りないからダブルチーズバーガーとフィッシュバーガーを追加で渡しておいた。3匹と白翔にも、同じものを渡しておいた。あの子達、本当に雑食だ。あとはフライドポテトをつければ完璧である。どこのバーガーかって? 地球で有名なチェーン店のものである。買えるんだね、そういう有名店のもの。


「うまぁ、こんなの食べたことない。何が違うんだろう、ソース?」

「東大陸の森人族が作っている調味料に似ているような……。もちろん色々と混ぜ合わせてあるので、一概には言えませんが」

「美味しいですよね、前の私も好んで食べていたメーカーですよ」

「俺のステラ、もう1つテリヤキが食べたい」


 食欲を爆発させているリオ様を始め、大好評のようだ。次は別の有名チェーン店にしてみよう。また違った味が楽しめる。いや、流石に連続してハンバーガーは嫌なので、明日は違うものにしたいけど。

 この船に乗る準備をした時、食料はどうするかでラディ様とぶつかった。船では調理できない、という前提の元、干し肉とか黒パンとか日持ちするものをラディ様は用意しようとしていたんだけど、私が断固拒否。成長期にそれしか食べなかったら、身体を壊す。どうせ船の中じゃ魔力はあまりあるんだから、異世界通販しましょうと言ったのだ。でも、万が一を考えて食料を用意しておくべき、とラディ様が言うので、なら干し肉は買っていいけどパンは丸パンにしてくれ、と交渉。1回だけ食べたけど黒パン美味しくなかったんだよね、あれを1週間はキツい。

 ちなみに、丸パンは1週間後でも余っていたら、私のアイテムボックスに入れることになっている。丸パンはそこまで長持ちしないからだ。最初からアイテムボックスに入れておけばいいという話なのだが、そこは私に頼り切りは心配になっちゃうラディ様なので。北の港町ポルタリアでの買い出し、どうするつもりなんだろう。下手したら何日も大森林にこもる予定なのに。


 甘いものをねだり始めた3匹に、ちょっとだけよ、とマフィンを与えながらオレンジ色の空に夜の帳が降りるのをゆっくり眺めた。白翔? さっきワイン瓶をあげて一気飲みしていました。

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