2-11.
新しく従魔になった白翔は、とても優秀だった。成体で狩りも一人前にこなしていたのだろう。ヤママバトなんか片手間に一網打尽にしたようだ。綺麗に魔法で打ち抜いているものだから、私のアイテムボックスにヤママバトのお肉が溢れんばかりに入っている。アイテムボックスの容量の使用率、2割くらいだけど。
解体が面倒くさい、と3人は唸りながらヤママバトを解体していた。私も解体を教わることにして頑張ったけど、まだ上手に出来ない。グロいからそもそも解体は出来ないかもと危惧したが、意外に平気だった。リオ様いわく、竜人族になった時に精神耐性も上がったんじゃないか、って話だ。真実は分からないが、この世界で生き抜くにはありがたい仕様だった。
白翔の能力も分かったところで、今後の話が出てきた。具体的には、今後の過ごす場所である。
「トゥルスの街も悪くはないのですが、我々のランクの仕事はありません。あまり冒険者ギルドの依頼を受けずに、うろうろしていているのは好ましくありませんので、移動も視野に入れた方がいいでしょう」
「行き先の候補は、モンタニアンだよね。3つ子や白翔にのせる鞍を作ってもらう方がいいし。それとも先にドラゴニアンに行く?」
「いや、まだ国には帰らない。情報収集が先だ。モンタニアンでいいんじゃないか?」
リオ様やラディ様の祖国、ドラゴニアン王国には色々と事情があるらしく、まだ帰るつもりはないらしい。ということで、当面の目標は西大陸中央にあるモンタニアン帝国である。
モンタニアン帝国は、人族の王族を戴く
アマデオ様には「モンタニアンで水は受け取っちゃダメだよ、ワインだから」と意味不明なことを言われた。モンタニアンの水とはイコールワインであり、ノンアルコールは認められないらしい。何じゃそりゃ、アルコールが推奨されない子どもは何を飲んでいるんだか。第一、アルコール入ってたら脱水症状も出てくる可能性があるはずだ。流石はファンタジー種族ばかりの世界。
物作りと言えばモンタニアンということで、モンタニアンに行けば大抵のものは揃うらしい。そこで、オーダーメイドの鞍を作ってしまおうという魂胆だそうだ。モンタニアンは周りに山がいっぱいあり、そのせいか魔物もたくさんいる。冒険者としてのお仕事もたくさんあるから、丁度いいんだとか。
ここまで懇切丁寧に説明されたら、行き先はモンタニアンで否やはない。そもそも、まだまだこの世界の地理が頭に入っていないので、行き先は3人任せである。
なお、治癒院での治癒魔法の練習はどうなった、という話なのだが長期滞在が見込まれるので、3人の仕事がある街の治癒院で練習の交渉しようという話になった。私としては、全部3人にお任せである。いいようにしてください、はい。
「あ、そういえばモンタニアンに行くならちょっと大回りして、精人族の里にも寄らない? ラディの番について占ってもらったらいいし、なんなら僕も占ってもらいたいなぁ」
詳しく聞いてみると、精人族の里スピリトリアンには、占星術師という占いの専門家がたくさんいるらしい。その占いの精度は高く、皆がこぞって占ってもらうらしい。リオ様やラディ様も占ってもらったことはあるのだとか。2人とも番について占ってもらったが、「今は時ではない。力を蓄えるが吉」と言われるだけで番について教えてもらえなかったらしい。「今となっては正解だったと思うがな」と、リオ様はにぃっと企み顔で言っていた。アマデオ様としては、リオ様の状況が変わったのだから、ラディ様の占いの結果も変わるんじゃないかと思っているらしい。
精人族の里スピリトリアンは、西大陸のモンタニアンの北東、神の半島アークの向こうの大山脈の奥に続く大森林の中にあるらしい。森人族がツリーハウスで暮らす一族だとしたら、精人族は普通に森の浅いところで里を築いていて、話を聞く限り合掌造りのような茅葺屋根の家で暮らしているらしい。
正確な世界地図なんてこの世界には存在しないので、リオ様達が自分達でつくったお手製の地図で、位置関係を教えてもらう。ルートとしては、神の半島アークから海を北上するルートをとって西大陸に上陸し、いくつかの街を通過して、精人族の里スピリトリアンに行く。占星術師に占ってもらってから、南西ルートをとりモンタニアンへと行って、鞍を作ってもらう。その後は、臨機応変に、ということになった。
まあ急ぐ旅でもないし、のんびり行こうという話になった。
「荷馬車を3つ子に牽いてもらえれば楽なんですけどね。ままならないものです」
「……3匹とも、馬サイズになりますよね。応急処置として馬のもの使えませんかね?」
「ふむ、言われてみればそうですね。調節したらイケるかもしれません。ちょっと試してみます」
「流石に3匹同時は無理じゃない? 馬2頭牽きの荷馬車なのに、3頭は入らないよ」
「そこは2匹で、1匹は警戒として近くを走らせればいいでしょう。ものは考えようです」
ちなみに、荷馬車を牽く役に白翔の名前が挙がらないのは、白翔は力がそこまで強くないからだ。白翔は私を乗せて飛ぶくらいは出来そうだけど、それ以上に重さのある荷馬車を牽けるほどの力がない。見た目はゾウで力強そうなのに、見かけ詐欺である。くりっとした黒いおめめで見つめられたら、まあいっかとなるのだけど。
話題の3匹はといえば、仔犬サイズですぴすぴ寝ている。いや、真珠だけは起きているけど、伏せをして2匹と一緒に大人しくしているようだ。この仔犬が、荷馬車を牽くのか。シベリアンハスキーは犬ソリの代名詞でもあったはずだから、力強く牽いてくれるとは思うが。そもそもこの子達はケルベロスであって仔犬でもなければ、ただの犬な訳でもないんだけども。魔法よりも物理攻撃の方が得意なこの子達のことなので、荷馬車を牽かせてもたぶん問題はない。
荷馬車かぁ、と3人の荷馬車を横目に見る。
「荷馬車、アイテムボックスに入りますかね? 入ったら楽ですよね?」
「船に乗る時、荷馬車も持って行くと追加料金がかかるが。無理しなくていい。法外に高い訳でもない」
「最近、時空属性魔法の鍛え方を調べてたんですけど、どうもアイテムボックス目一杯に使う方がいいらしいんです。今、アイテムボックスは2割くらいしか稼働していないので。荷馬車を入れたりしたら、時空属性魔法がランクアップしないかなぁって」
「なら、試してみるといい。壊れても気にするな。アイテムボックスを持つステラがいる今、荷馬車の意義はそこまでない」
荷馬車が入るか試してみたら、すっぽり入りました。容量の使用率はだいたい6割強。まだまだ入るらしい。アイテムボックスしゅごい。出す時に手の位置を気を付けないと、宙に出てきて落ちて壊れそうになるので注意が必要。でも、それ以外は特に不都合はないから、私がアイテムボックスに仕舞っておくことになった。貸馬屋に荷馬車を預けなくていいし、うまくいけば3匹が荷馬車を牽いてくれるから馬も借りなくてよくなると、喜ばれた。まあ維持費とかレンタル料とか、バカにならないよね、って話である。
闇属性魔法が使えないとテイムは出来ない。その闇属性魔法の使い手であるラディ様は、馬系統の魔物をテイムする気はなかったのか聞いてみたら、「存在自体を忘れていたし、殿下のお世話の他に従魔の世話まで出来ない」と言われてしまった。まあ一理ある。私は言われてホイホイ召喚してテイムしたけど、いくら下のお世話が不要でも食費はかかる。幸いなことに異世界通販という便利ギフトがあったから、食費には困らないけれど。なんせ、魔力だけで食費が賄える。
結局、注文中の召喚魔法陣が3つ届いたら、トゥルスの街を出発しようという話になった。次に向かうのは、精人族の里スピリトリアンか。楽しみだ。
何故か自分の尻尾を捕まえようとぐるぐる回り始めた柘榴を見て笑いながら、私は期待に胸を躍らせた。
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