1-9.

 さて、突然だが私のステータスカードはだいぶ様変わりした。何故なら、あのあと興奮した男3人に囲まれてあれそれ言われて、言われるがままにギフトやスキルを取得していったからである。男ってこういう設定を決めるのとか好きだよね、とちょっとげんなりしてしまった。

 お昼を抜いてまでわあわあ騒いだ結果が、以下の通りである。


* * * * * * * * * *

マリアステッラ/10/♀/竜人族

Lv.1/(残りポイント 0)

【称号】神子

【ギフト】異世界通販(食品)

【スキル】属性魔法(光1闇1時空3) 生活魔法全種

     鑑定1 料理5 魔力回復速度増加1

* * * * * * * * * *


 お気づきだろうか。そう、私の名前が決まった。決まった、というかリオ様の一声で決まってしまったというか。リオ様が「名前はマリアステッラにしろ」と唐突に言って、私がステータスカードを持ったまま「マリアステッラ?」なんて聞き返しちゃったもんだから、ステータスカードがマリアステッラと名付けしたと勘違い。はい、いいえの問いかけはあったけれど、面倒くさくなって「はい」を押してしまった。反省はしている。リオ様はご満悦でした。

 その他はまず、『最初に読む本』をパラパラとめくっていて、異世界通販って何だろうって話になった。ギフトにしてはお安いポイントだったのでゲットしてしまった。食生活、大事。もっとポイントを払えば雑貨の通販も買えたけれど、そうすると何もスキルをゲットできなくなるので、諦めた。その異世界通販で必要となるのが、魔力。魔力が通貨代わりになるらしい。そうしたら、ラディ様が「魔力回復速度増加のスキルがあったはずです」とか言い出して、それも取得することになった。これでいっぱい異世界通販でお買い物ができる。

 もうこうなると、ポイントも大分減ってしまったので慎重に。アマデオ様が、「鑑定は持ってて損はない」と言い出したので取得。リオ様は、「俺の番を戦わせることはない」と言い出したので、念の為自衛できそうでランクを上げれば治癒も出来る光属性魔法が取れる『光闇抱き合わせセット』を取得。闇属性はおまけだが、よく聞くと影に隠れたり出来るので自衛にピッタリなようだ。半端な50ポイントが残ったので、何に使うか迷ったが、男どもは簡単な調理しか出来ないというから料理をランク5で取得。私も簡単な調理しか出来ないが、ランクに引っ張られて手際が良くなるだろう、たぶん。これでポイントは完売である。


 やろうと思えばポイントも振り直せるらしいのだが、そうすると総数であるポイントが目減りしてしまう。まあ、戦えないことを除けばなかなか良い組み合わせのポイントの使い方になったんじゃないだろうか。どちらかというと商人とかそっち向けのスキル構成だ。


「疲れました……」

「もう夕方か、そんな時間なんだな」

「長時間、私を膝に乗せて足が痛くならないんですか?」

「そんな軟な鍛え方はしていない。それより俺のステラ、お腹空いてないか?」

「はい、お腹すきました……。今日は解散しませんか?」


 ぐったりとリオ様に寄り掛かりながら、くたびれた私は提案した。頭はもう今日の夕飯に意識が飛んでいる。何故かテーブルの上に急に水のピッチャーと人数分のコップは現れるし、トイレのドアが現れるし、不思議な空間だったなぁ。そのおかげで長時間、わいわいわあわあとギフトやスキルのあれそれについて騒げたのだけれど。水を飲んでも空腹は如何ともしがたい。

 だが、リオ様はまだ私を放す気がないらしい。ひしっ、と私を抱きしめると不機嫌そうに宣った。


「スキルも決めたから、もう神子の塔に用はないだろ。一緒に俺達と来ればいい」

「用はあります。『最初に読む本』に変化がないか確認と、部屋のものを何か持ち出せないか確認しないと。でないと一文無しで、洋服も何もかもない状態になってしまいます」

「服は買えばいい。一文無しでも俺が出すから問題ない」

「嫌です。今日は外に出ません。明日以降、迎えに来てください。まだ読んでない本がありますし、明日じゃなくていいですよ」

「……明日、朝一番に迎えに行く。それ以上は待たない」


 交渉成立、である。今まで来ていた服は可愛かったし、持ち出せるものなら持ち出したい。その辺のことを『最初に読む本』で書かれていた気がしないが、たぶんどこかに書いてあるだろう。色々とフォローしてくれて気の利いた本だったのだ、きっとどこかに書いてある。確信めいた予感がしていた。

 私は革のカバンに『最初に読む本』を詰め込み、準備が出来るとリオ様の顔を見上げた。すると、ちゅっと額にまた口づけられたので、うへぇとしかめっ面にならないように顔に力を入れた。事あるごとにキスしてくるのだ、そろそろ無の気持ちでキスを受け入れてしまいそうだ。私の中の照れはお亡くなりになったと思う。時々生き返るけど。


 朝と同じように、ラディ様に転移の魔法陣まで送り届けられた。リオ様は会議室にまだ居るはずだ。たぶん、人に見つかりたくないのだろう。最初にリオ様を見た時、囲まれていたもんなぁ。

 お礼を言おうと口を開いたら、ラディ様に先を越された。


「番様、本日はありがとうございました。あんなに楽しそうなヴィル様はあまり見られません。是非とも、今後もよろしくお願いいたします」

「ええ。こちらこそありがとうございました。明日、朝一番と仰ってましたが無理しない時間でいいですからね。そんなに早くにここ開かないでしょうし」

「はい。本日と同じくらいの時間で大丈夫でしたら、そのようにご案内いたします。またわたくしがここで立っておりますから、お声がけください」

「分かりました。では、早いですがおやすみなさい」


 深々と頭を下げるラディ様に別れを告げて、私は転移の魔法陣の中に入った。「5階」とはっきり発音すると同時に、視界はぶれて5階へと着いた。部屋に戻りながら、今晩の夕飯に思いを馳せた。


 ☆


 ラーメンと餃子セットをたらふく食べて、お腹いっぱいな私はベッドにぼふんと倒れ込んだ。疲れたしお腹いっぱいだからか、かなり眠たい。でもまだ寝支度していないし、確認作業も終わっていない。私は気合で上半身を起こすと、ベッドの上に放り投げていた革のカバンから『最初に読む本』を取り出した。

 ぺらぺらとめくってみるが、特に変化はない。でも、最後のページを開くと、見たことがないページがあって色々と書いてあった。どうやら服の持ち出しも出来るし、他にもたくさんのアドバイスが書かれていた。やっぱりあの場で外に出る決心をしなくて良かった。

 すっかり目の覚めた私は、ベッドから降りてスリッパを履くと、部屋中を動き回った。後で本棚の本も確認しなければいけない。忙しくなるぞ、と気合を入れた。


 翌朝、私は白い長袖に茶色の短パン、レギンス、編み上げロングブーツを履いて、ドレッサーの鏡の前で確認していた。髪は梳いたし、化粧はする必要がない。あとは、と大して中身の入っていない革の斜めかけカバンを肩から提げて、マントを着れば完成である。なかなか、冒険者がいるようなファンタジーな世界に溶け込めそうな格好なんじゃないだろうか。

 この服は、昨日部屋に戻ったらクローゼットにかかっていた。どうやら私のスキルの方向性に合わせた服を、3着入れてくれたらしい。その代わりワンピースは消えていた。昨日着ていたワンピースも脱いだら消えていた。ファンタジーである。何でもありだな、神子の塔。

 ということで、きっと商人と勘違いされているであろうスキルらしく、町人か行商人っぽい格好になったのだと思う。


 さて、と部屋を見渡す。約3週間弱、お世話になったこの部屋には愛着がそれなりにある。でも、早く早くと急かす番のリオ様が居るんだから仕方ないよね、と苦笑した。あの人はあの人でマイペースだからなぁ、流石は第二王子という権力者である。我が道を行く、って感じでそのままだと思う。

 まあ、イケメンに好かれるのは悪い気はしない。願わくば、途中で放置されないように。それならそれで、商人関連でのらりくらりと暮らすつもりだけど。


 部屋に向かって「いってきます」と元気に挨拶してから、勢いよく部屋を飛び出した。


**********

「異世界の意味は分かるが、通販ってどういう意味だ?」

「通販とは、うーん、カタログとかで選んだものを届けてもらえるものですね」

「異世界のものを届けてもらえる、ってことですか?」

「そういうことになりますね、この説明を読む限り」

「何ソレ面白い。番ちゃん、これ選んでよ。聞いたことないギフトだから絶対楽しいことになるよ」

「はあ。まあ美味しいものが食べられるなら否やはないですが」

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