2. 神の街トゥルスを駆け抜ける

2-1.

「おはよう、俺のステラ。今日の格好も可愛いな」


 1階に降りると邪魔にならない場所に、ラディ様が待機していた。挨拶をしてリオ様達のいる会議室へと案内して貰うと、今日もまた足を組んで座っている麗しいリオ様がいた。向かいの席には、だらっとテーブルにもたれかかっているアマデオ様がいる。

 リオ様は、私を見るなりにぃっと笑って近寄りながら、相変わらずの口説き文句らしきものを言っていた。「おはようございます」と挨拶を返せば、途端にぶれる視界。どうやらいきなり抱き上げられたらしい。私は一応10歳なんだけどな、と思いながらリオ様の左腕に乗せられた。人間って片腕で抱っこできるんだ、と謎の感心をしていると、アマデオ様も立って部屋の入口まで歩いていた。


「おはよぉ、マリアちゃん。じゃあ、早速だけど外に行こっか。ヴィルも待ちきれないみたいだし」

「おはようございます。行くのは構わないですが、人がたくさん居ましたよ。大丈夫なんですか? 初日、囲まれてませんでした?」

「それはね、大丈夫。マリアちゃんはそこに居ればモーマンタイ」


 うん? 私がリオ様に抱っこされている前提の方法なのか、と首を傾げる。どういうことですか、と問いかけようとしてやめた。何故なら、部屋を出た瞬間に勢いよく走りだしたから。尋ねるとかそれ以前の問題になってしまった。慌てて、目の前のリオ様の首に抱き着く。視界の邪魔にならないように、気を付けていたが、問題なさそうだ。

 神子の塔を出る時、いってらっしゃいと遠くに聞こえた気がした。一瞬のことだし、気のせいかもしれないけれど。


 どんどん過ぎ去っていく視界を、新鮮な気持ちで見る。感覚としては、初めて見る街を車でびゅんびゅんと走り抜けている感じだ。いや、たぶんだけどリオ様達そんな車ほどのスピードは出ていないだろうけど。特にリオ様は私を抱えるというハンデを負っている訳だし。

 速いなぁ、とのんびり見ていたら、だんだんスピードがゆっくりになって、何やら白い建物の前で立ち止まった。そのまま建物の裏手の方へとリオ様とアマデオ様は歩き出して、ラディ様だけが建物の中へと入っていった。あら? と不思議に思いながら見ていると、辿り着いたのは厩舎だった。独特の匂いにちょっと鼻をつまみながら周りを見ると、たくさんの馬や馬っぽいちょっと違う何か、何なら恐竜みたいなのまでいる。

 ここは何だろう、と不思議に思ってリオ様の顔を見たら、首を傾げてから下ろされた。いや、ここの説明がして欲しかったんだけどな、と思いながらアマデオ様を探すと、ここの職員らしきツナギを着たお兄さんと会話していた。


「リオ様、ここはどこですか?」

「貸馬屋。ここに俺達の荷馬車を預けてあって、ついでに馬を借りる。今日は遠出はしない予定だから、グリフォンやステゴサウルスにする必要はない。気になるなら今度紹介する」


 へぇ、と頷きながら納得する。なるほど、馬を貸し借りするお店か。あと馬に見えて違ったのは、グリフォンと言うらしい。よく見ると顔は鳥だし、今わさわさと翼を広げていた。恐竜はステゴサウルスと言うのだろう。前世にも同じ名前の恐竜いなかっただろうか? 絶対先達が名付けたんだろう。背中に四角いトゲのようなものがあるが、顔は小さくちょっと愛嬌がある。もっしゃもっしゃと干し草を食べている子がいるので、恐らく草食なのだろう。

 そんな風に観察していたら、リオ様に手を繋がれた。そのまま手を引かれる。ナチュラルに手を繋ぐとは、流石はイケメンだ。モテる男は対応が違う。イケメンって言えばどうにかなると思っている私も私だけど。


 手を引かれた先に、アマデオ様が荷馬車の御者席に座ってこちらに手を振っていた。荷馬車の中に入ると、いつの間にやら合流していたらしいラディ様が座っている。リオ様が私を持ちあげて荷馬車に乗せると、ひらりとリオ様も荷馬車に乗った。

 しゅっぱーつ、と気の抜けたアマデオ様の言葉と同時に、荷馬車が動き始める。思ったより揺れないな、と思いながらそれでも多少の振動に揺られていると、リオ様があぐらをかいている膝の上に私を乗せた。定位置になるんだろうか、と内心で不思議に思いながらも荷馬車は進む。


「今から、冒険者の駆け出し御用達の草原の外れに向かいます。歩いていける距離ですが、マリア様の体力が如何ほどか分からなかったので、本日は荷馬車です。クリーンはかけてありますが、普段は獲物を乗せているので綺麗でないのはご容赦くださいね」

「ああ、何で荷馬車かと思ったらそんな事情が。構いません。今、リオ様の上ですけども」

「揺れが大変そうだったからな。気にするな、俺のステラ」

「……そうですか。ありがとうございます」


 微妙な顔になってしまったと思うが、1人で荷馬車に座るよりも楽なのは確かなのでお礼は言っておく。それとは関係なく抱き寄せられた気もするけど。

 それからラディ様の説明によると、今日は私のスキルのお試しをする予定らしい。リオ様達3人とも三級冒険者だそうで、高給取りだから今すぐに働かなきゃいけないほど切羽詰まっていない。とはいえ、私も冒険者のお仕事に連れていくにしろ留守番するにしろ、自衛は出来ないと困るから早く属性魔法のレベルアップをするのが望ましいらしい。

 今、私は自分が何ができるのか把握していない状態だ。光属性はリオ様が得意だし、なんとラディ様は闇属性の使い手なので、大変ありがたいことに私は光闇の両属性の先生がいる状態だ。流石に時空属性は知らないそうだが、私だってただ手をこまねいている訳じゃない。

 なんと、神子の塔の自室の本棚の本は全部持ち出し可能だったのだ。持ち出せるもんなら持ち出してみろ、って感じだったけれど、私は時空属性魔法のランク3まで取得した。つまり、アイテムボックスの容量大で時間停止機能付きである。本をわっさーと全部入れたが、まだまだ入りそうだった。

 その持ち出した本の中に、時空属性魔法の教本もあった。最初からあったっけ? と首を傾げたが、あるなら有り難く使う。これは1人の時に読んで、練習しようと思っている。


 魔法の使い方の説明を受けながら、のんびりと森へ続く道へと進む。もう既に草原地帯に入っているのだが、荷馬車が通れる道の関係で、森の近くで降りるらしい。森に沿って少し移動したら、とうとう私のスキルのお試しである。


「こうしてみると、気配を薄く出来る闇属性の習得の方が先決なようですね。光属性のランクを上げて治癒魔法をとも考えましたが、現状ヴィル様が使えますからね」

「使っているうちにどっちも上がるだろ。飽きずにコツコツとやらねばならんしな」

「そうだよねぇ。ところでそろそろイイ感じだと思うんだけど、どこまで行くー?」

「ああ、この辺りでいいんじゃないでしょうか。適当に停めてください、アマデオ」


 どうやら目的地まで到着したらしい。目的地というには、やや適当な気もするけれど。リオ様は私を抱えたままそっと立ち上がり、私を横抱きに抱き直すと飛んで荷馬車から降りた。次いで、ラディ様も飛んで降りており、アマデオ様はときょろりと辺りを見渡すと茶色のポールに馬を結んでいた。あの茶色のポール、以前からあったのだろうか? 違和感が凄い。

 リオ様の腕を叩いて下ろしてもらいながら、アマデオ様を見ていたら、視線に気づいたアマデオ様が解説してくれた。


「これ? 土属性で建てたポール代わりだよ。森の木に繋いでもいいんだけど、たまにゴブリンとかがうろつくからね。ゴブリンは臭いし怪我したら可哀想でしょ?」

「なるほど。解説ありがとうございます」

「いいえー。まあ、普通の冒険者なら木につなぐか放牧するよ。でも慣れてないと馬は帰ってこないからね。この子達は賢いけど、念の為つないでおくんだ」


 教えてくれる人が側に付いてくれる幸運に、ほうっと息を吐いた。やっぱり本を読むだけでは、知識に偏りが出てしまう。こうしてポール代わりにする方法も思いつかないだろうし、馬の扱い方なんて実地で覚えろというヤツだろう。いや、馬に関しては本があったかもしれないが、こういうのは現場の意見が大切だ。

 私はふんふん、とアマデオ様と話している横で、リオ様が何をしているかと言えば私の髪を梳いていた。マイペースだな、この人、と半目になりそうだったが今は勉強中。気にせず、次の質問をアマデオ様に投げかけたのだった。

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