第32話 争奪戦★

「たりっ、はーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!」


 隠れるHide in Shadowからの不意打ちSneak Attack

 攻撃のために障壁を解いた “冥王” のくび筋に、“亜巨人トロールリング” を嵌めたケイコさんの必殺の刃が振るわれる!


 彼女自慢の現在世界で確認されている唯一の+2相当の逸品エクセレント――エペと呼ばれ、斬撃よりも刺突に向いた細剣の切っ先が、“冥王ネザーデーモン” の延髄を貫通! 

 喉元から突き出た!


った!」


 完璧な致命の一撃クリティカル


「まだよ!」


 しかし拳を握った僕の快哉を、レ・ミリアが否定! さらに叫ぶ!


「離れて、ケイコ!」


 突出する盗賊シーフ の敏捷性で “冥王” の背中を蹴り、跳び退るケイコさん!

 直後に彼女がいた空間を炎の鞭が薙ぎ払った!


「そんな! 延髄は人間型の魔物の死点急所だぞ!?」


 回復役ヒーラーだけに、生物の常識を破る光景に誰よりも驚愕する!


“……くくくっ、惜しかったな”


 喉首の傷と唇の端から血を溢れさせながら、“冥王” が嘲る。

 その傷口も瞬く間に泡立ち、跡形もなく消え去る。


「……致死耐性!」


 間一髪とんぼを切って着地したケイコさんの顔が、恐怖に凍り付く!

 

 致死耐性!


 それは “呪死デス”“滅消ディストラクション”“酸滅オキシジェン・デストロイ” といった魔法への耐性――即死耐性とは異なる、 物理的な致命への耐性!

 魔物の中でも持つ者は少なく、種族を超えた強大な個体のみが希に持つという!


“然り。我の隙を衝くなかなかの手並みであったが、この “冥王” には、ただのか弱い短剣の一振りにすぎぬ。おまえたちが蚊に刺されたよりも” 


 一ターンに10HPヒットポイント以上の治癒能力オートリジェネ

 完全に傷を癒やした “冥王” が、余裕の笑みを浮べる!


「あんたみたいなが、なんだってタマさんや照男さんみたいな、お爺ちゃんお婆ちゃんを誘い込んだのさ!」


 蒼ざめたながらも短剣を逆手に構えなおし、ケイコさんが訊ねる。


“我が今回の余興を思いついたのは、迷宮を訪れた聖女の気配を感じたとき。ならば争奪戦に参加せぬ道理はあるまい?”


「そ、争奪戦?」


“聖女と “僭称者役立たず” との間で行なわれている、“我らが王デーモンロード” の争奪戦よ”


 魔族の王デーモンロードの争奪戦!?

 何を言ってるんだ、こいつは!?


“然り。かつて “僭称者” と “王” の間で結ばれた盟約は、あの薄汚い老醜の魔術師が甦った今、復活した。あやつが我らより先に “我らが王” を甦らせれば、我らもまた王と共に、再び彼奴きゃつの風下に立たねばならぬ”


「ちょっと待ってよ! なんで急に、そんなぶっ飛んだトンデモ話になるわけ!? なんでそこにエバが関わってるのよ!?」


““王” の身はそこな聖女の手にあり。東の地で “僭称者” が聖女を害さんとしたのは、“王” を召喚させるため。不浄な “不死王ノーライフキング” の介入で阻まれたがな”


「そ、それじゃ、おまえたちの王様って……」


 絶句するケイコさんの代わりに、僕は無意識に訊ね返していた。


“然り、聖女の伴侶たる“運命の騎士ナイト・オブ・ディスティニー” こそ、我らすべての魔族を統べる偉大なる魔太公デーモンロード “ルシファー” なり!”


 激震が走った。

 誰も咄嗟に反応できない、真相――真実。


(あの社長さんが……エバさんの旦那さんが……魔族の王……)


「なんってこったい……あたしたちは、固定観念“僭称者” って迷いの森に入り込んで迷走した挙げ句、実は真実の城の前に辿り着いてしまってたわけ」


 顔を歪ませ、ケイコさんが苦しげに呟いた。

 そんな彼女に言い聞かせるように、エバさんが口を開く。


「なにか勘違いをしているようですね。わたしの愛する人は、あなた方の王などではありません。あなた方の王は “悪魔の石デーモン・コア” としてあの人の内に封じられているだけ。精神も心も人格も一点の曇りなく、すべて嘘偽りのないあの人自身のもの。グレイ・アッシュロードその人のものです」


“同じことよ。悪魔の石デーモンコア――覇王の卵が孵化すれば、おまえの良人は我らが王となる”


「ならばその卵、ずっとかえらせずにおきましょう!」


“王復活の栄誉を担うは我ぞ!”


 そして再び吹き荒ぶ、激闘の嵐!


“ポトルの “禁呪” で呪文を封じたからとて、我の強大さにいささかの変わりはない! レベルは20! 生命力ヒットポイントは300! 装甲値アーマークラスは-12! 一ターンに12の回復力を持ち、呪文も加護も九割を無効化。炎、冷気、石化、致死も効かぬこの “冥王” を、如何いかにせん!”


 哄笑しながら “冥王” が炎鞭を振るう!

 口にした能力が本当なら、まさしく“冥府の王” に相応しい強大さだ!


護り御壁よマツ!」


 エバさんは連続して繰り出される炎の鞭を躱し防ぐが、防戦一方だ!


“さすがよの。“魔女の護符アミュレット・オブ・アンドリーナ” の加護があるとはいえ、人の身でありながらその耐久力”


 あくまで絶対の余裕のうえで、“冥王” が感嘆する。


“このままいつまでさばききれるか見定めたくもあるが――今は我が王の復活と拝謁が何より優先される”


 “冥王” がくるりとエバさんに背を向け、僕たちに向き直った。


“聖女自身をいくら痛めつけても “運命の騎士” を召喚することはあるまい――だが、この虫けらどもならどうか”


 ヒュンッ!


「わ、わああっっっ!!!」


 いきなり標的にされ、無様に悲鳴を上げる僕!

 炎の鞭はまるでそれ自体が意思を持っているかのように、僕を追いかけ回す!


「タスク!!!」


 レミーの悲鳴!

 手に入れたばかりの新しい剣を失い、以前使っていた予備の剣を抜いてはいるが、+1程度の斬れ味では “冥王” へのストッピングパワーは期待できない!

 ケイコさんの短剣も同様だ!


“そらそら! おまえの大切な虫けらが死ぬぞ!”

 

「おやめなさい! あなたの相手はわたしです!」


 エバさんの鋭声とごえを耳に僕は転げ回り、必死に自分に言い聞かせた!


(落ち着け! パニックになるな! 冷静でいる限り、逆転への悪巧みは無限だ!)


 僕の戦棍メイスや加護は、パーティの中で一番非力!

 “冥王” どころか、“低位悪魔レッサーデーモン” にすら歯が立たない!

 頼みの “とっておき罠武器” も、めぼしいものはすべて使ってしまった!

 残ってるのは “ガス爆弾” と “スタナー” だけ!

 運良く毒にできたところで、生命力300にオートリジェネ+12の化け物の痛痒にはならない!

 “スタナー” の麻痺は単体の相手には強力無比だが、より上位の石化ストーンに耐性がある以上、効果は期待できない!


(畜生っ! せめてあのとき “強制転移テレポーター” を使わずに切り抜けていれば!)


 魔法無効化能力の激高な “冥王” にも、“強制転移” は効く!


(ああ、でもくそっ! “冥王” は時空転移に長けてる! 跳ばしたところですぐにまた戻ってくるだけか!)


 頭に浮かんだアイデアを否定したとき、今度こそ天啓が舞い降りた!

 逆転への、生還への、勝利への、起死回生の悪巧み!

 でもこの大逆転を演出するには “が必要だった!

 そしてそんな武器を持っている者は皆無いない


◆◇◆


 ――救え!


◆◇◆


 キュピーーーーーンッッッッッ!!!


 それは聖光に輝く球体だった!

 資格所有者の命に応じ、次元回廊ワームホールを通じて、僕たちを救うために現れた!

 高速回転を急激に緩めると当然のように、僕の愛する人の手中に収まる!

 柄元に象嵌された大粒の金剛石ダイヤモンドが破邪の光を放つ、聖銀の長剣ブロードソード


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669170393003


「道行くん!!!」


 エバさんがその名を叫んだとき、僕もまた叫んだ!


「レミー!!!」


 一〇〇〇〇〇パーセント正念場!

 僕は、

 “冥王” がポトル氏に魔力を封じられた時点で、任意の“転移” は可能になってる!

 エバさんたちが転移してきたのが、なによりの証!

 冠の魔力が解放され “冥王” の背後に超々々々々近距離転移テレポートしたレミーが、“退魔の聖剣エセルナード” を振り下ろす!

 迷宮湖畔を斬り裂く、魔神の絶叫!


 そして乾坤一擲の大逆転と引き換えに、僕は断末魔にうねる炎鞭に薙ぎ払われた。



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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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第二回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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