第31話 地底湖畔の決斗★

 ドンンッ!!!!!!!


 激震が走った!

 天井が崩れ、バラバラと落ちてくる大小の破砕片から、ポトルさんが魔法の障壁を出現させてあたしたちを守る!


「な、なに!? 地震!?」


「そんな……この振動は……」


 エバが立ち上がり、狼狽の表情で見上げる!

 こののこんな顔は本当にレア! もしかしたら初めてかも!


「なんなの、エバ!?」


「この振動は “対滅アカシック・アナイアレイター” ――最大最強の攻撃呪文です!」


「え!?」


「ですが有り得ないのです! この迷宮であの呪文を扱えるのは、ここにいるポトルさんだけなのですから!」


 そ、それじゃいったい誰が唱えたっていうのよ!?

 “僭称者役立たず” はこの迷宮には介入してないんでしょ!?


「――おい、見ろ! タマと照男じゃ! あいつら生きとった!」


 その時、取り出したスマホを覗き込んだ今川伍吉さんが叫んだ。


「ほんとじゃ! まったくしぶとい爺と婆じゃ!」


 隣りに座っていた金田よしさんが伍吉さんを押しのけると、しわしわの首を伸ばしてスマホに食い入った。


「えっ!?」


 あたしも慌てて自分のスマホを出して、Dチューブのアイコンをタップする。

 それまでブラックアウトしていた配信が再開されていて、コメント欄が書き込みで埋め尽くされていた。

 読み上げ機能をオフにしてたから、今まで気づかなかった!


「なにがあったの!?」


 あたしはスマホに向かって叫んだ!


《ケイコ姐さん! やっと気づいた!》

《レ・ミリアとタスクが生きてた!》

《爺さんと婆さんを担いで逃走中!》

《なんか赤い服を着たヤバい連中が追いかけっこしてる!》


「――赤い服を着たヤバい連中!?」


「“邪僧ファング・プリースト” です! 間違いありません!」


「“最悪の中の最悪ワースト・オブ・ワースト” !? なんでそんなところ駆けずり回ってんのよ!」


「“転移テレポート” が封じられているので脱出できなかったのでしょう!」


「助けにはいけないんですか!?」


「あの人たちは、わたしたちのために危険な目に遭ってるんです!」


 岡さん夫妻が悲痛な声を上げた。


「あたしはともかく、タカ派の階層フロアにエバは入れないんだよ……それに、どっちみち “転移テレポート” が使えないんじゃ、間に合わない……」


「脱出する術はあります。“強制転移テレポーター” の罠を使うのです。あれなら “魔法封じの間” でも効果を発揮します。ただ――」


「レ・ミリアとタスクがそれに気づくかどうか――向こうの読み上げ機能は!?」


《駄目! オフになってる!》

《探索中はオフにするのが定石だから……》

《爺ちゃん、スマホ見ろ!》

迷爺婆めじいば、スマホ! スマホ!》


「ポトルさん、いったい何者なのです!? 今回のこの事件の裏にいる存在は!? あなた以外にも迷宮の理に介入している者がいるはずです! 強大な何者かが!」


 ポトルさんは、エバにその名を告げた。

 エバの表情が驚きに染まる。

 そして次の瞬間、戦いラストバトルに向けた強い決意に取って変わった。


◆◇◆


「――いえ、その覚悟をするのはあなたです」


 絶望を斬り裂く、希望の声。

 輝く粒子が形作るは、純白の僧衣に身を包んだ迷宮の申し子。

 豊かな髪と同じ黒い瞳に決戦への意思を固めた、女神の化身。


「さあ、最後の戦いの幕を上げましょう」


 茫漠たる迷宮湖のほとりに、ハレルヤ・ハリケーンが嵐を呼ぶ!


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818093076903438003


「エバさんっ!」「エバっ!」


“現れおったか、女神ニルダニス現人神アバターよ”


「戯れにもほどがあります。ここはあなたの領域テリトリーではないはず。すぐに自分のいるべきところに戻りなさい」


“病んだ “真龍ラージブレス” への義理立てか。己の迷宮でもないのに出しゃばるか。聖女にして魔女よ”


 や、病んだ “真龍” ?

 な、なにを言ってるんだ?


“ふっ、この世界は、随分と病んでいるようだな。我を封じる世界蛇の力も、まるで弱くなっておるわ”


「――だから、“対滅アカシック・アナイアレイター” を使えた」


 ハッと、レ・ミリアが声を漏らした。


“然り。愚かなおまえたちが食い散らし、食い荒らしたことで、この世界の“真龍” はアカシニアに比べて弱りきり、瀕死の状態よ!”


 嘲笑する “大悪魔アークデーモン

 増えすぎた人口……際限のない環境破壊……病み衰えた宇宙船地球号。

 言葉では知り意味も理解しているつもりだったけど、実感はまるでなかった世界の危機。

 でもまさかそれが、こんな形で目の前に現れるなんて。

 僕たちが地球に対して重ねてきた罪が、魔界の底からこの “大悪魔” を呼び寄せてしまったのだ。


「――なればこそ、わたしたちの手であなたを駆逐しなければなりません! それが母なる地球へのせめてもの贖罪です!」


“やってみるがよい、ニルダニスの愛娘よ! この “冥王ネザーデーモン” の真の力、矮小な身を以て味わうがよい!”


 エバさんが戦棍メイスを構えて挑戦の狼煙を上げ、“大悪魔” ―― “冥王” が受けて立つ!


“消し炭にしてくれるわ!”


 そして唱えられる、最大最強の攻撃呪文!


「マズい!」


 位階レベルの高い魔法は、呪文や祝詞しゅくしが長い!

 詠唱や祈祷に時間が掛かり、それが魔法使いスペルキャスターの最大の弱点となっている!

 だから魔術師メイジ僧侶プリーストも、前衛の盾が必要不可欠だった!

 だがこの “冥王” は、 +2相当の強化がなされた魔剣を粉々に砕くほどの、強力な障壁で身を護っている!


「エバさん!」「エバ!」


 僕とレ・ミリアから同時に悲鳴が上がる!


“冥府に連れて帰ろうぞ、エバ・ライスライト! ―― “対滅アカシック・アナイアレイター” ” 


 打つ手がないまま “冥王” が最後の韻を踏み、印を結ぶ!

 宇宙開闢ビックバンと同質の原初の純力アカーシャのエネルギーが破壊の嵐となって、エバさんを、僕たちを、吹き飛ばす!


 ……ことはなかった。


「え……?」


 不発……?

 エバさんが……封じたの?

 対消滅の天文学的なエネルギーは解放されず、僕たちの存在はあるままだった。


全能者ポトルか! おのれ薄汚い上代グレイエルフの亡霊め!”


 “冥王” の端正な容貌が、憤怒に歪む!


「ポ、ポトル……? 上代エルフって」


「わたしのお義父とう様です」


 呆然と呟いたレ・ミリアに、エバさんがニコリと微笑んだ。


“虫けら風情が、小賢しい! だが霊体の身で “禁呪” を使えば、もはやこの世界プレーンには留まれまい!”


 “冥王” が一振りすると、右手の先から燃え盛る炎の鞭が現れた!


“呪文を封じた程度で、この “冥王” の力を減じたとは思わぬことだ”


あなた方魔族は馬鹿ではありませんが、間抜けです。そうやって自分たち以外の種族を見下しているから、常に足を掬われる」


“ならば見事すくってみるがよい!”


 炎の鞭が真っ赤な蛇のようにエバさんに伸びる!


護り御壁よマツ!」


聖女の戦棍メイス オブ セイント” を振るって、エバさんが身を護る!


 炎の鞭と聖なる壁がぶつかり合い、猛烈な火花を散らす!


“口ほどにもない。その程度の障壁で我が炎鞭えんべんを防げると思うてか。女神の憑代たるその命、吸い尽くしてくれるわ!”


 “冥王” が余裕の表情で吸精エナジードレイン の効果を持つ炎の鞭を振るったとき、エバさんが冷静に言った。


「今です」


「たりっ、はーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!」


 隠れるHide in Shadowからの不意打ちSneak Attack

 攻撃のために障壁を解いた “冥王” のくび筋に、“亜巨人トロールリング” を嵌めたケイコさんの必殺の刃が振るわれる!



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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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第二回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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