第24話 贄ふたり
「ふたりの周りに闇は見える?」
「いや……念視した限りじゃ見えない……見えるのはおどろおどろしい建物だ」
「なら決まり――どういう経緯でかは知らないけど、爺さんたちは “邪教の神殿” にいる」
そこは一歩でも踏み入れば、邪教の聖職者たちが雲霞の如く現れて、即死の加護 “
広大な “暗黒広間” もお釣りがくるほど厄介だけど、更に輪を掛けて危険極まる、この “ニューヨーク・ダンジョン” で最も近づきたくない
もはや、暗澹どころの話じゃない……。
「第一の関門は、どうやって神殿に入るかね……」
レ・ミリアが整った小作りの額に眉根を寄せる。
諦めて引き返す――といった、この状況では至極もっともな
「“邪神の神殿” の入口は、三×一
上手いことを言ったつもりだったけど、引きつった笑いしか浮かばない。
「“
「希望的観測どころか願望ね。それで貴重な “転移の冠” を無駄にしたくない」
「ごもっともです……」
一階に張られていた “転移封じの結界” がこの
“転移の冠” に封じられた魔力は一回こっきり。
使えば貴重な
「でも、どっちみち “転移” が封じられてる以上、“転移の冠” も品質の良い兜でしかないんだよね」
レ・ミリアはそれに対しては何も言わず、視線を上げて僕を見た。
「
プランB.
姿隠しの “
これに、けたたましいサイレンで付近の魔物を呼び寄せる “
その効果はすでに、一階の “海賊要塞” への侵入で実証されている。
「レ・ミリア、お爺さんたち捜索を諦めて、引き返す手も……」
「ない」
……ですよねー。
「嫌ならあんたひとりで還っていいわよ」
『ご冗談を。ここでひとりで戻るくらいなら、君とパーティなんて組まないよ』
僕はそう答える代わりに、
「プランBを実行する前に、ちょっと寄り道させてよ」
と意味ありげに笑った。
◆◇◆
それまでどんなに欺瞞に満ちた生涯を歩んでこようと、人生は最後の最後で帳尻が合う――合わされる。
因果応報。
神宮タマ(79)はその四文字と共に、自分が置かれている状況を受け入れた。
八〇年に近い歳月を過ごした故郷を遠く離れた、アメリカ東海岸はニューヨーク。
そのど真ん中に聳える、異世界から現れた
龍の住処といわれる
「こんな年寄り、供え物にしても神様は喜ばんじゃろうなぁ」
増尾照男(82)が柱にくくりつけられたまま、
もともと物事に執着しない
真逆の性格と価値感の持ち主であるタマは、そんな幼なじみを事あるごとに歯痒く思い、生涯に渡って発破をかけてきたのだが……執着ともいえる想いは完全に折れていた。
遭難したふたりの前に現れた、一見可愛らしい “妖精” たち。
導かれるように辿り着いたのが、この狂人の群れの直中だった。
餓鬼のように痩せ衰えた身体に、元は
タマと照男はその狂信者たちにあっさりと捕まった挙げ句、彼らが信仰する “神” への
ふたりは今、禍々しい神殿の中央にある祭壇の上にいた。
打ち立てられた
どうやら供物は “年寄りのロースト” らしい。
「でも僕は満足だよ。最後の最後にずっと会いたかった “妖精” に会えたんだから。あの宮崎さんだって本物には会えてないと思うし」
満ち足りげに語る照男。
幼い頃から憧れていた “妖精” に会えたことで、すっかり人生に満足してしまったようだ。
「これで岡さんたちが、エバさんに病気を治してもらえてればなぁ――何も思い残すことはないんだけど」
「……何いってるんだい……」
「え?」
「何いってるんだい、この薄らトンカチのメルヘン
「……タマちゃん」
強気の言葉とは裏腹に涙を吹き零す幼なじみの姿に、照男は言葉を失った。
「仕方ないよ……静枝も知恵も自分で選んだんだから。夫だからって父親だからって彼女たちの決断を否定はできない」
「あんたは――あんたは何もわかっちゃいないんだよ! あのふたりがなんであんな宗教に嵌まっちまったのか! なんで家を出ていっちまったのか!」
「だからそれは、僕が情けない夫で父だったから――」
「違う! 違う! そうじゃない、そうじゃないんじゃ!」
タマは狂ったように顔を振った。
そうではない。そうではないのだ。
照男の愛妻と愛娘が家を出たのは、あの教団に絡め取られるように入信したのは、そんな通り一遍の事情では断じてない。
もっと醜悪で、ドス黒い悪意があったのだ。
「照男、静枝さんと知恵ちゃんがあの宗教に嵌まっちまったのは、全部――」
涙と鼻水でグショグショになった顔で、タマが言いかけたとき――。
ジリリリリリリリリリリッッッッ!!!
耳をつんざく“
緋色の襤褸をまとった邪教徒たちがむくりと顔を上げて、神殿の入口に向かう。
--------------------------------------------------------------------
エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
--------------------------------------------------------------------
第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
--------------------------------------------------------------------
第二回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579
--------------------------------------------------------------------
実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます