第19話 ブラックアウト
『“
『タスクが “
『詠唱の速さで負けそうになったけど、レ・ミリアが “天使” の左腕を斬り落として妨害した』
『そしたら、加護を封じられた “天使” が仲間を呼んだ』
『その仲間もまた仲間を呼んで』
『召喚された “天使” も加護を封じられていて、剣で斬りかかってきた』
『そんでレ・ミリアのカメラもタスクのカメラも、ブラックアウトした』
書き込まれたメンターや
“天使” は五階のフロアボスともいえる存在。
あたしたちが四階に到達した直後、いきなり “
「今、確認しました――ふたりは生きています」
“
湧き起こった安堵に、自分でも意外に思った。
コメント欄にも喜びの声が書き込まれる。
嫌悪の情は別として、死地に足を踏み入れた人間の無事を願うのは、人の本能なのかもしれない。
「“天使” の武器は太陽の力を宿しています。それは
「……もうあのふたりと、スマホを通したやりとりはできなくなったってわけね」
反論の余地のないエバの説明に、
こっちは向こうの、向こうはこっちの状況がわからなくなった。
“探霊” の加護には限りがあり、何度も唱えてはいられない。
「通常の迷宮探索に戻っただけのことです。それに “
「そうね」
うなずいてみせるも、納得したわけじゃない。
こっちには迷宮踏破者のエバがいて、知識と経験を活用できる。
向こうはもう何かあっても、この
このハンデキャップは、初見の迷宮ではあまりにも大きすぎる。
「進発しましょう。ここでいくら心配していても事態は好転しません」
あたしはもう一度うなずき、
「ケイコさん、先に一階孤島への縄梯子を様子を見に行きましょう」
玄室を出てすぐに、エバが言った。
言われて、ハッとした。
直通縄梯子が今も使えないままなのかまず確認するのが当然だったが、スッポリと頭から抜け落ちていた。
直通縄梯子の前まで辿り着くと、果たして縄梯子は巻き上げられたままだった。
やはり何者かが悪意を持って、一階孤島からの経路を遮断したのだ。
床にポッカリと口を開ける
ガラン! ガラン! という騒々しい音が、あっという間に遠ざかっていく。
(エバがいなかったら、あたしは気づかないまま進んでた……あのふたりは気づけたかしら)
坑は哲学者のいう深淵のように、あたしを見つめ返している。
◆◇◆
麻痺したレ・ミリアを癒やした直後、衝撃が全身を貫いた。
痺れというよりも痛み……痛みよりも衝撃。
自由を取り戻したレ・ミリアと入れ替わるように、横倒しに倒れる。
「タスク!」
呻き声ひとつ、瞬きひとつできない。
眼球すら動かすことができない。
僕は瞳にすべての言葉を宿す。
“逃げろ、レ・ミリア!”
――と。
“天使” は次々に仲間を呼び、数を増やしていく。
その数、すでに六。
レ・ミリアが僕を庇って、魔剣を構える。
こんな時になんだけど、やっぱりとても嬉しい。
とても嬉しくて……とても悲しい。
いくらレ・ミリアでも、六翼もの “天使” の攻撃を躱しきることは不可能だ。
今度彼女が麻痺したらその瞬間に、僕たちの全滅が決まってしまう。
たとえ望外の幸運が訪れ “
(……嗚呼……男神 “カドルトス” 様。
僕はあなたを心から信じているとは言えません。
ただ
でも、もし僕の声が届いているのなら彼女を……レミーを助けてください。
彼女は良い
罪は犯したけど、彼女は良い娘なんです。
どうか御慈悲を。
彼女を……レ・ミリアを助けてください)
僕は心から祈った。
加護の嘆願ではなく、魔法の行使ではなく、ただ祈った。
それは僕が初めて捧げた、純粋な祈りだった。
奇跡が起こった。
レ・ミリアと向き合った “天使たち” に、不意に戸惑いの表情が浮かんだ。
顔を見合わせ、“ダイレクトヴォイス” で何事かを囁き合う。
もう一度僕たちを見下ろしたとき、その顔には明らかな畏れの色が浮かんでいた。
そして一翼、また一翼と昇天していく。
完全に “天使” の気配が消えてから、レ・ミリアが魔剣を鞘に戻し振り返った。
腰の雑嚢に手を突っ込み、“痺治の護符” を取り出す。
理由はわからない。
理由はわからないけど、僕たちは助かった。
◆◇◆
それを奇跡と呼ぶなら、まさしく奇跡だっただろう。
もちろん六翼の “天使たち” は、不埒な人間たちを見逃す気などなかった。
幼児が無邪気に虫の足をもぎるように、 二匹の人間を壊して遊ぶつもりだった。
聖職者風の男が神剣の一撃を受けて倒れた。
男に癒やされたばかりの女が剣を構えて男を庇う。
強い魔力を帯びた剣だが、たかが一匹。こちらは六翼。問題にもならない。
だが――。
“天使たち” は、女にまつわりついている気配に気づく。
よく知る存在の気配。
もしかしてこの女は、彼女の楽しいなのか?
彼女は変わり者だが、自分たち兄弟姉妹の中で最も純粋であり、純粋であるが故に最も強く、強いが故に決して寛容ではない。
もし万が一彼女の楽しいを壊してしまったら、彼女の怒りは天界を引き裂く。
自分たちなど弁解の機会すら与えられず、素粒子に分解されてしまうだろう。
“天使たち” は想像し、畏れ
怯え、狼狽え、我先に天界へと逃げ帰る。
それを奇跡と呼ぶなら、まさしく奇跡だっただろう。
運命のあの日。
息絶えたレ・ミリアの上に舞った純白の羽根の残り香が、ふたりを救ったのだ。
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669171688786
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エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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第二回の配信はこちら
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
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