第18話 圧倒的な差★

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「タスク、向こうを気にしてたらられるから!」


「わかってるよ!」


 魔剣の鞘を払うレ・ミリアに即答する!

 わかってるよ!

 “天使こいつ” は、“単眼巨人サイクロプス” に輪を掛けてヤバい相手だ!

 向こうエバさんたちを気に掛けてる余裕なんてない!

 戦闘態勢を採る僕たちの頭上で、“天使エンジェル” もまた武装形態となる!

 光り輝く神鎧をまとい優美な “天使” は見る間に、勇猛なる “神の兵士ゴッドウォーリアー” に!


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669759738188


 よほどの物好き変わり種でない限り、“天使” は僕らタカ派を嫌っている!

 友好的フレンドリーな関係は築けない!

 だから、


るしかない! ――厳父たる男神 “カドルトス” よ!」


 示し合わせたように僕と “天使” は、同じ祝詞しゅくしを唱え始めた!

 “天使” は僕と同じ、第四位階までの加護を嘆願してくる!

 期せずしての “静寂サイレンス” の

 “天使” は四〇パーセントの確率で魔法を無効化してくるが、やるしかない!


(気合いで通す!)


 四〇パーセントの耐呪レジスト能力をぶち抜いて、“天使” のお喋りを黙らせる!

 でも今回のは、その四割の魔法無効化能力ではなかった!

 “天使” は人間より高次元に生きる生命体!

 超高次元の宇宙的規模の “集合意識” ――神には人間よりも遙かに近しい存在で、

は僕など及びもつかない!

 人の身で彼らを上回る接続能力を持つ者は、聖女の恩寵を持つ女神の愛娘彼女だけだろう!

 

 “天使” と “その他人間” の接続能力の差が、祝詞の詠唱速度の差になって、如実に表れた!

 最高位階の “熾天使セラフ” ともなれば無詠唱で最大最強の呪文 “対滅アカシック・アナイアレイター” を現出させる接続能力が、僕の詠唱を突き放して沈黙の加護を完成させる!


 ――斬っ!!!


「GiGYaaAAAaaaッッッッッッ――!!!」


 魔剣 “真っ二つにするものSlashing” が無防備だった “天使” の左腕を肩口から斬り飛ばす!

 迷宮に響き渡る悲鳴を、男神に聞き届けられた僕の “静寂” が掻き消す!

 レ・ミリアが軽やかに着地し、僕の前面に立った!


「君はひとり、僕らはふたりだ!」


 左の肩口を抑え赫怒かくどの表情で無声の怒号を上げる “天使” に、啖呵を切る!


 キィイーーーーーーンンンンンッッッッ!!!


 再び耳鳴りが襲った!

 頭の中に響き渡る、沈黙の加護では封じられない “ダイレクトヴォイス” !


「仲間を呼んでる!」


 両耳を塞いで叫ぶ僕の前で、レ・ミリアが再度跳躍する!

 空間が歪み、顔面を垂直に割られて墜ちた“天使” の代わりに、新手が現れる!

 その新手もまた無音で怒号し、声なき声で同族を呼ぶ!

 迷宮のことわり

 声を封じられた魔物が呼び寄せた仲間もまた、声を封じられている!

 

「しまった!」


 雷光きらめく神剣を握る “天使たちエンジェルズ” を見上げ、後悔のほぞを噛む!

 あの神剣には触れた相手を麻痺パラライズさせる力がある!

 加護を封じられた以上、奴らは必ずあの剣で斬りかかってくる!


 ぶちまけた話、第四位階までの加護はそれほど戦いの役には立たない!

 集団グループ攻撃魔法はないし、単体に傷を与える加護もダメージは2~16程度だ!

 麻痺を誘発する神剣の一撃に比べたら、何ほどの脅威にもならない! 

 逆に麻痺パラライズ単独行ソロや少人数パーティには、致命の一撃クリティカル と同義語!

 僕はその上げてしまった!


 痛感する、圧倒的な経験不足!

 魔法はまず封じるという固定観念!

 迷宮探索で最も危険な思い込み!

 エバさんなら、決してこんなミスはしないだろう!

 

 一翼ひとりが僕らを防ぎ、その隙にもう一翼ひとりが仲間を呼ぶ!

 次々に援軍を呼び寄せる “天使たち” !

 麻痺持ちへの魔法封じからの増殖は、絶対にやっちゃいけなかった!

 

 形勢は互角から圧倒的不利へと、瞬く間に傾く!


◆◇◆


「…… “陶器の悪魔像デルフト”」


 エバが驚きと侮蔑のないまぜになった呟きを漏らす。

 

「こいつがの陶器人形ってやつ?」


「ええ、叩けばよい音がします」


「自分の玄室巣穴から出張してきたってわけね――上等! 陶器の悪魔を叩いて砕く! あたしらがやらねば誰がやる!」


 啖呵を切って、魔法の短剣ショートソード を逆手に構える!


Tallyhoタリホー.後方扉の外に武装石像×27を視認。すべて “陶器の悪魔像” の犠牲者で、本体共々触れた相手を石化ストーンする能力があります」


「そいつはまた団体さんだ――で、どうするの?」


 “魔女の護符アミュレット・オブ・アンドリーナ” で護られているエバと違って、ほんの僅かに掠られただけであたしはアウトだ。

 本体と合わせて二八体もの攻撃をかわしきる自信はない。


「もちろん分断した上で各個撃破します。向こうから陣形を崩してくれましたから。少しの間、本体を引きつけてください」


「上等!」


 エバの揺るぎない言葉が勇気を引き出す!

 両脚に力が漲り、弾けるように “陶器の悪魔像デルフト” に向かって疾駆する!


「来い、空っぽ!」


 あたしの挑発に “陶器の悪魔像” が、先端に二本の鉤爪のついた禍々しい杖を振り上げる。

 回避に徹して、これを躱す。

 この時、悪魔像の意識から一瞬、エバの存在が消えている。

 それで充分過ぎた。


護り御壁よマツ!」

護り御壁よマツ!」

護り御壁よマツ!」

護り御壁よマツ!」


 エバが魔法の戦棍メイスを振るって、開け放たれたままの入口に不可視の障壁を幾重にも張り巡らせる。

 玄室の内と外で分断される、本体と二七体の手下。

 念動力で扉を開けて真っ先に突入してきた “陶器の悪魔像” は、自ら陣形を崩し、数の優位を捨てていたのだ。


「“神璧グレイト・ウォール” が消える前に、本体を潰します」


「Yah!」


 手下の石像たちは胸当て四枚分の障壁に遮られ、押し合いへし合するしかない。

 その隙に本体を叩いて砕く。

 戦力差、二対一。

 “陶器の悪魔像” は不利を悟ったのか、空っぽの身体から不気味な音を響かせる。

 魔術師系第四位階の呪文、“焔嵐ファイア・ストーム


「慈母なる女神 “ニルダニス” よ――」


 間髪入れず、エバがカウンターで祝詞しゅくしを唱える。

 “陶器の悪魔像” のモンスターレベルは10.

 呪文無効化能力は四〇パーセント。

 対するエバのレベルは13.

 さらに恩寵 “聖女” 女神のえこひいきが、加護の成功率を跳ね上げている。


「―― “静寂サイレンス” !」


 当然のように沈黙の加護が通り、“陶器の悪魔像” から響いていた音鳴りが止む。

 あたしが短剣で斬りかかる。

 に食いついた悪魔像が、鉤爪の付いた杖を伸ばして迎撃。

 予期していたあたしは、余裕を持って躱す。

 伸びきった悪魔像の杖を持つ手に、エバが戦棍を叩き付ける。

 砕け散った右手と共に、得物を失う “陶器の悪魔像”

 あたしの短剣は、固い陶器人形には分が悪い。

 逆に悪魔の石像に聖なる鈍器は、特効も特効だ。

 それなら囮に徹するまで。


(呪文は封じた。武器も奪った。手下とも引き離した――状況、絶対有利)

 

 詰将棋を指すように着実に追い詰めていくエバに、今さらながら驚嘆する。

  

「まだです。油断してはいけません。最大の武器が残っています」


 わたしの心を見透かしたように、エバが言う。

 その言葉どおり“陶器の悪魔像” が、残された最大の武器を発動する。

 両脚と一体化した台座ごと浮き上がり、玄室の外周に沿って加速を始める。

 何百キロあるかわからない己の重量を利用し、自分自身を質量兵器と化す。

 周回するごとに増す速度。

 

 質量×速度=攻撃力。


 あれに体当たりされたら、ダンプカーに轢かれるのと同じだ。

 エバは冷静にタイミングを計っている。

 そう、これもすべてこのの想定の範囲内。

 質量攻撃を仕掛けてくる相手への戦術は確立されていて、エバは熟達している。

 わたしも胸の奥で間合いを計る。

 “陶器の悪魔像” と壁を激突させて、自滅させる間合いを。

 そして――。

 

「――今!」


 わたしは思わず叫んだ。

 我ながらここしかないというタイミングで。

 しかしエバは動かない。


「エバ、どうして!?」


 その時 “神璧” の効果が切れて、二七体の手下が玄室に雪崩れ込んできた!


「――Gust Oul!」


 アカシニア語で今度こそ叫び、突き出した魔法の巻物スクロールの封を切るエバ!

 “暗黒ダークネス” の呪文が解放されて、“陶器の悪魔像” の感覚野を狂わせる!

 暗闇系の呪文は、耐呪レジスト不能なのだ!


(でも、このタイミングじゃ――そうか!)


 方向感覚を失った悪魔像は最高速マックスピードのまま、乱入してきた手下の直中に突入!

 粉々に轢きながら玄室の外へと飛び出していく!

 入口に群がっていた後続の手下は避けようがない!

 まさしくこれ以上ない、絶対絶妙、ドンピシャのタイミングだった!

 迷宮を揺るがす衝撃音!

 玄室を飛び出た “陶器の悪魔像” が、手下を道連れに回廊の壁に激突!

 盛大に自爆したのだ!


 迷宮上層のフロアボスですら、赤子の手を捻るが如し。

 わたしは改めて戦慄した。

 迷宮探索者としての圧倒的な才能センスと経験。なにより――。


 に!


『……わかってないわね。それとも敢えて見えないフリをしてる? あいつのに比べたら、わたしなんて雨上がりの水溜まりにもならない……あの深さはまるで……


 リーンガミルの大使館で吐かれた、レ・ミリアの言葉が耳の奥に甦る。


「残敵を掃討し、本体に息があるようならトドメを刺します」


「……」


「ケイコさん?」


「あ……うん、わかった」


 近づけたと思っても……遙かに遠い。

 それがこの娘……。


 本体は沈黙していたが、手下の中には砕けて動けなくなっていても、完全に活動を止めてはいない個体も多かった。

 だから、すべてにトドメを刺すのには相応の時間がかかった。

 だから、気づくのが遅れた。

 

 タスクとレ・ミリアと連絡が取れなくなっていることに。


 

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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第二回の配信はこちら

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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