第14話 殺戮マシーン★

《エバッ! 目を開けて、エバッ!》


 ケイコさんが泣きじゃくりながら、エバさんの名前を呼ぶ!

 エバさんは首から激しく出血していて意識がない!

 元々白かった肌は血の気を失い屍蝋しろうのようで、ケイコさんが押さえていなければ、傷口から疾うに命を流し尽くしていただろう!


「エバさん!! ケイコさん!!」


 スマホに向かって叫ぶ!

 しかし探索中は魔物に気付かれないように読み上げ機能をOFFにしているので、ケイコさんには届かない!


「なにがあったの!?」


 僕はもう一度叫んだ!

 ふたりにではなく、視聴者リスナーにだ!


『天井から突然垂れ下がってきて、ケイコの首に鎌を! それに気付いたエバさんがケイコを押しのけて、代わりに自分が!』

『エバさんがケイコと入れ替わったんだよ!』

『カマキリだよ! デカいカマキリ!』


「カマキリだって!!?」


 カサカサカサカサカサッ!!!


 僕の頓狂とんきょう叫声きょうせいを、その身の毛もよだつ音が掻き消した!


「“ジャイアントマンティス” !!?」


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023211998151396


 自然が生んだ最凶の殺戮マシーンが、迷宮の魔素を吸って巨大化したモンスター!

 最上層にしか出現しないはず魔物が、ハト派の階層フロアにも!


「ケイコ、そのにクリティカルは効かない! 通常の攻撃が首に当たっただけ! 護符アミュレットの回復効果で血は止まる! 魔物に集中して!」


 怒鳴りつけるレ・ミリア!

 “大魔女の護符” に守られているエバさんに致命の一撃クリティカルを含むすべての特殊攻撃が通じないことは、レ・ミリアが知っている!


「駄目だ! 読み上げ機能がOFFになってて、こっちの声は聞こえないんだ!」


 メンターがコメントで中継しくれているけど、ケイコさんがスマホを見てない以上届かないことに変わりない!


(あとはケイコさん自身で気づくしか――思い出すしかない! 迷宮で生き残るには何をしなければならないかを!)


《……ごめん、エバ。少しだけ離れるよ》


 ぐいと涙を拭うと、エバさんを大切に寝かせて、ケイコさんが立ち上がる!


《一意専心――この娘はあたしが守る!》


 腰を落とし、逆手に抜き放たれる魔法の短剣ショートソード

 煌めく切っ先の先に、巨大昆虫の無機質の眼を睨む!

 “ジャイアントマンティス” 相手に、ケイコさんの短剣 はまさに蟷螂の斧!

 対するマンティスの鎌は、死神の大鎌だ! 


 巨大カマキリの、モンスターレベルは10.

 生命力ヒットポイントは、10~60.

 与ダメージは、2~24.


 通常の魔物だったらレベル9のケイコさんの生命力を考えれば、一撃死はない!

 でもカマキリのあの鋭い鎌には、獲物の命を一瞬で刈り取る致命の一撃クリティカル がある!


(ケイコさんそいつの弱点を覚えてる!? エバさんのレクチャーを覚えてる!?)


 僕らが頭に叩き込まれているのは、“新宿ダンジョン” に出現する魔物を編纂した

怪物百科モンスターズ・マニュアル” !

 “ニューヨーク・ダンジョン” の魔物の知識はない!

 だから移動時間の合間などを見つけては、エバさんが説明してくれたんだけど――ケイコさんは教えられたマンティスの弱点を覚えているだろうか!?


 奇しくもレ・ミリアが言った『想定外の相手に対する動揺』が、そっくりそのままケイコさんに当てはまっている!

 動揺は瞬間的な判断を誤らせ、適切な選択・行動を阻害する!

 逆に冷静であるならば――悪巧みの資源リソースは無限だ!

 予期せぬ “単眼巨人サイクロプス” との遭遇戦では、レ・ミリアは冷静に撤退を選択した! 

 ケイコさんは――!?

 極限状態だからこそ、探索者としての資質が問われる!

 応えられなければ――。


 ヒュンッ!!! ヒュンッ!!!


 重なる風切り音!

 マンティスの両の鎌が、半瞬の差を置いて振り下ろされる!


(速い!)


 巨大昆虫の襲撃行動は、古強者の戦士が振るう剣先すら上回って見える!

 片方の与ダメージは2~12.

 左右合わせて4~24.

 だけど最低ダメージの2でも、急所にヒットすれば致命傷になる!


 ダッッ!!!


 なんと鎌に向かって突き進む、ケイコさん!

 

「ケイコさんっ!!?」


 死中に活を求めた!?

 差し違える気!?

 それとも捨て鉢になったの!?


 そのどれでもなかった!


 交差する大鎌の直下を間一髪の間合いで、ローリング回避するケイコさん!

 長いサイドポニテの先が切断されて、宙に舞う!

 後方に抜けたケイコさんが、マンティスが超信地旋回スピンターンするよりも速く立ち上がり、振り返る!


(この動き、エバさんがケイコさんと初めて会ったときに見せた、ロリスタローリング・バックスタブ!)

 

 “重剣士ソードマン” を一撃で屠った、必殺の戦闘機動コンバット・マニューバ

 でもケイコさんがカマキリに見舞ったのは、短剣ショートソード の切っ先でなく――。


深き眠りよカ・ティノ!》


「それだ!」


 僕は快哉を叫んだ!

 “単眼巨人” と同様 “ジャイアントマンティス” は、催眠系の魔法が弱点なんだ!

 

 ガクッ!


 頭が垂れ、両の鎌が落ち、上半身が倒れ、六本の足が折れて長い胴部が接地する!


「たりはーっっっっ!!!」


 今度こそ、ケイコさんの口から裂帛の気合いがほとばしった!

 一閃する魔法の刃!

 宙空を飛び、床に転がる、三角形の頭!

 “亜巨人の指輪トロール・リング” が左手に光る!

 巨大カマキリのお株を奪う、鮮やかな致命の一撃クリティカル


「やった!!!」


《まだ!!!》「まだ!!!」


 僕の再びの快哉を、画面の内と外の声が同時に打ち消した!


 カサカサカサッ!!! カサカサカサッ!!!


 エバさんを庇って立つケイコさんのカメラに、さらに二匹の凶悪な影が映る!

 “ジャイアントマンティス” の

 集団グループだったんだ!


「マズい! 挟まれた!」


 レ・ミリアが舌打ちする!

 二匹の新手は互いに距離を取り、左右からケイコさんを挟撃する態勢を取った!

 左右のどちらとも、ケイコさんの視野から外れる位置!

 知能がないと思えない、魔物と化した昆虫の恐るべき捕食本能!


(離れすぎてる! 一匹を眠らせてる間に、もう一匹に狩られる!)


「レ、レ・ミリア!?」


 僕は、僕よりも遙かに戦闘センスに秀でたレミを振り返った!


「ひとりなら切り抜けられる! でも――!」


 でも!? でもなに!?

 動けないエバさんを守ってならどうなの!?


 素早く左右に顔を振り、“ジャイアントマンティス” の挙動を窺うケイコさん!

 だけどその動作自体が、すでに大きな隙だった!

 左から右にケイコさんの顔が向いた瞬間、左のカマキリが動いた!


られる!)


 “ジャイアントマンティス” のあの速さ、鋭さ!

 ケイコさんとの隔たりは一瞬で詰められ、ゼロ距離になる! かわせない!

 たとえ躱せたとしても、その時はエバさんが犠牲になる!

 ケイコさんは躱せない! 躱さない!

 僕は惨劇を直感し、絶望した!

 

「……えっ!?」


 カサカサカサッ……! カサカサカサッ……!


 後退あとずさり、超信地旋回をしてケイコさんに背を向ける二匹の巨大なカマキリ。

 迷宮の闇に消える、二匹の巨大な殺戮マシーン。


「……逃げたRUNした?」


「“単眼巨人”と同じ。奴らに逃走なんて概念はないわ」


 レ・ミリアが即座に否定する。


「それじゃ……」


「まるで足止めをしてるみたい」


 ケイコさんたちが助かった喜びよりも、僕はその言葉の不気味さに、ふるえた。



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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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第二回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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