第13話 喰人迷宮★

 スマホの小さな画面の奥で、玄室の扉が吹き飛ぶような勢いで両開いた。

 中から現れたのは、真っ青な肌をしたひとつめの巨人―― “単眼巨人サイクロプス


「ど、どうして……? こいつは最上層にしか現れないはずなのに……?」


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669761032854


(同じだ、あの時と……)


 暗黒から現れ、あたしのパーティを撫で斬りにした金色の “狂君主レイバーロード

 カズヤも、リョーくんも、味田さんも……一瞬で両断されて……。

 最下層にしか現れないはずなのに……それが突然、地下一階に……。


「あの時と同じ、迷宮が……殺しにきてる」


《―― “単眼巨人” !? なんで最上層の魔物がここに!?》


 恐慌をきたすタスクの声を、マイクが拾う。

 “単眼巨人”のモンスターレベルは8.

 生命力ヒットポイントは、68~84.

 ダメージは10~40.

 いずれも、レベル7のタスクを上回る。

 しかも、

 開け放たれた扉の奥から姿を現す、もう一体の青黒い巨影。


《死にたくなければパニクるな!》


 鋭声とごえが鞭のように飛んだ。


《石を使って! こいつらは催眠系の魔法に弱い!》


 レ・ミリアの一喝に、我に返ったタスクがベルト雑嚢ポーチに手を突っ込む。

 信用ならない女だけど、ここ一番での冷静さは本物だ。


深き眠りよカ・ティノ!》


 タスクが魔法のつぶてを巨人に向かって突き出し、“真言トゥルーワード” を叫ぶ。

 小石に含有される “昏睡ディープ・スリープ” の呪文と同じ成分魔力が解放されて、二体の巨人を包み込んだ。

 顔の半分を占めるひとつ目をトロン……とさせて、最初に出てきた一体が地響きを立ててくずおれる。

 しかしもう一匹はわずかに頭を振っただけで、睡魔に囚われることはなかった。

 それで充分だった。


《――はっ!》


 “単眼巨人”が陥った瞬き程度の隙を衝き、レ・ミリアが弾丸のように前に出る。

 現在世界で唯一の+2相当の魔剣、銘 “真っ二つにするもの両断するもの” が銀色の弧を描き、巨人のがら空きの胴に真一文字に振り抜かれる。

 鮮血がカメラを覆う。


《GiGyaaaxaAAAAaaaaーーーーッッッ!!!》


 “単眼巨人”の絶叫が、マイクを震わせる。


 一刀両断。

 一剣絶息。


 までには至らなかったけど、生命力の半分は奪う深手を与えたのは間違いない。

 レ・ミリアは追撃せず、逆に後方に跳び退る。

 苦悶する巨人が怒りに任せて振り回す得物を警戒したのだろう。

 腹を割かれ暴れ狂う方は、巨大な戦鎚ハンマー

 眠りこけている方は、より原始的な棍棒こんぼうを持っている。

 激痛にのた打ちながら振り回される凶器は予想しがたく、通常の一撃よりもよほど避けにくい。


(ムカつく女だけど、戦士としては確かに古強者だわ!)


《レ・ミリア!》


《回避に専念して! あの出血じゃすぐに動けなくなる! 動きが鈍ったらトドメを刺す!》


《了解! 大丈夫、ラッキーパンチはもらわないよ!》


(今のところふたりが有利。レ・ミリアの言うとおり、あの出血で暴れ続けるなんていくら強靱な耐久力を誇る巨人でも無理。でも眠ってる一匹が目を覚ませば――)


 あたしの危惧は当たった。

 深手を負った戦鎚の巨人の動きが鈍る前に、棍棒の巨人が目を覚ましたのだ。

 魔法の効き目は、使用者と対象のレベル差で決まる。

 タスクのレベルは7.

 対する “単眼巨人” は8.

 深度が浅かったハーフレジストだ


《どうする、レ・ミリア!?》


《撤退する! 想定外の相手でこっちにも動揺がある! 対策を立てて出直す!》


 レベル8の戦士ファイターとレベル7の僧侶プリースト vs レベル8の巨人×2.

 ガチで殺り合えば、勝敗はどちらに転ぶか分からない。

 レ・ミリアの言うとおり、突然現れた最上層の魔物に動揺しているのも確か。

 動揺は瞬間的な判断を誤らせ、適切な選択・行動を阻害する。

 一時撤退の判断は正しい。

 まったく小面憎こづらにくいほどの冷静さだ。 

 

(これでこの女が信用できたら、どれだけ心強いか――)


「ケイコさん!」


「…………え?」


 ――ドンッ!


◆◇◆


「泉の玄室まで後退!」


「了解!」


 殿しんがりをレ・ミリアに任せて、きびすを返して走り出す!

 一体はお腹に大ダメージ!

 もう一体は眠りから覚めたばかりの寝惚けまなこ

 圧倒的な歩幅の差だけど、これなら逃走RUNできる!


 ズズンッ!


 お腹を割かれた一体が足をもつらせて、後ろの一体と接触!

 迷宮を揺るがせて、二体が倒れ込む!


魔術師メイジ がいれば、強力な呪文を投げつけてトドメを刺すチャンスだけど――!)


 残念ながら僕たちに、その選択肢オプション はない!

 少数パーティには少数パーティの戦い方があって、そこから逸脱してしまったら、


《振り向くな! 走れ!》


 レ・ミリアの力強い鉄靴サバトンの響きを背中に、僕は泉の玄室の扉を蹴り開け、中に飛び込んだ!

 間髪入れずに、レ・ミリアが駆け込んでくる!

 強い魔除けの効果もある “聖水ホーリーウォーター” の泉だ!

 いくら最上層の魔物だって、入ってはこれないはず!

 予想は当たり、いくら身構えていても巨人たちが乱入してくることはなかった。


「はぁ、はぁ――ふぅ、どうやら中までは入ってこれないみたいだ」


 僕は構えていた戦棍メイスと盾を下ろして、汗だくの顔を拭った。


「……変」


「? なにが?」


「玄室に入ってこないのはわかる。キャンプを張るのに使うような “聖水” が滾々こんこんと湧いてるんだから――でも部屋の外まで追ってこないのは変」


「それは――」


 続く言葉が出てこない。

 レ・ミリアは残心の気構えで、扉を見据えている。

 あれだけの巨体だ。

 知能だって高くなさそうだし、おまけに傷まで負っている。

 玄室の外まで来ていれば、工事現場の重機のような騒々しさだろう。

 それがまるで “静寂サイレンス” の加護を施したように、静まりかえっている。


「お腹の傷で戦意を喪失したとか?」


「そんなデリケートなタマじゃない。戦ってみて解った。奴らは相手の命を奪うか、さもなくば自分が死ぬまで戦い続ける――そういう種族連中よ」


「うーん、まったくわからないな――とりあえずは水を飲んで一息入れてて。僕はエバさんに状況を報告して、ついでに意見を聞いてみるから」


 ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らす彼女からリストバンドのスマホに視線を移して――愕然とする。


「エバさん!?」


 Dチューブには泣き叫ぶケイコさんに首筋を圧さえられる、意識を失ったエバさんの蒼白な顔が映っていた。



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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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第二回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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