第11話 大蛇の迷宮★
「ひぃ、ふぅ、まだついてきてるかい?」
「ぜぇ、ぜぇ、ああ、ついてきてる。つかず離れずの送り狼じゃよ」
「魔物のくせに、なにモタモタしてるんだろうね。年寄り相手にそいうのは慎重じゃなくて臆病っていうんだよ、ひぃ、ふぅ」
“所沢迷宮愛好会” の中で最年長のカップル、金田
後をつけてくるのは送り狼ならぬ “
なので喰われたくなければ、ひぃふぅぜぇぜぇ、文句を垂れつつ、老骨に鞭打って歩くしかない。
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212990148178
「寛美、大丈夫かい?」
「……ええ」
岡博(65)が、妻の寛美(65)を支えながら気遣う。
ふたりは愛好会で唯一の夫婦で、最年少の会員である。
「……いっそひと思いに食い殺してくれればいいのに」
「そんなことを言ってはいけないよ。希望を捨ててはいけない。僕らは生きるためにここにきたんじゃないか。あと少しだけ頑張ってみよう」
「………………ええ」
「テルタマはどうしておるかのぅ。心配じゃのぅ」
伍吉がはぐれてしまった、増尾照男(82)と神宮タマ(79)を
「照男はともかく、タマは跳ねっ返りだからね。きっとタカ派の
「ピカッと光ったと思ったら、離ればなれになってしもうた……いったい、あの光はなんだったんじゃろ……わしら、いったいどうなってしまうんじゃろ……」
「そんなこと、あたしが知るもんかね! そもそも助けは本当に来てるのかい!? そのエバとかいう小娘はどこにいるんだい!?」
「……中継器がないから、ここではスマホがつながりません。エバさんが……救助が来てくれているかはわかりません」
文句ぶぅぶぅの葦に、岡博が消沈して言った。
「まったくあの神隠しでみんな狂っちまったよ! ああ、もうあたしゃ頭にきたよ! 責任者でてこーい!」
葦たちは当初、全員がまとまっていた。
一階の先住の魔物がいない玄室で息を潜めて、エバ・ライスライトが現れるのを待っていたのだ。
しかし突然眩い光が葦ら六人を包み込んで、気がついたときには立て籠もっていた玄室から移動していた。
そればかりか、照男とタマの姿が見えなくなっていた。
途方に暮れていると、弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂とばかりに、見るからに凶暴そうな虎まで現れた。
ただの虎は腹が減ってないのか、後をつけてくるだけで襲い掛かってはこない。
なので四人は虎に追い立てられるように、ひたすらに歩き続けている……。
「こ、こりゃ、本当に迷宮探索じゃわい」
伍吉が息も絶え絶え、述懐した。
◆◇◆
「お喋りはそこまで――
実況に夢中になっていた僕に、レ・ミリアの鋭い声が飛んだ。
ハッと顔を、彼女の視線の先に向ける。
“
“
“
“
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669650051947
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669650620598
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669651436450
“
事前にエバさんから受けていた説明では、この階層では頻繁に遭遇する魔群だ。
「魔物です! 魔物と遭遇しました! 僕たちはこれから戦闘に突入します!」
「数が多い――指輪を使って!」
レ・ミリアが間髪入れずに指示を出す。
“略奪者” にしろ “魔女” にしろ “戦士(……のなりそこない)” にしろ、個々の力は大したことない。
でもこれだけの数になると話は変わってくる。
モンスターレベル2の “魔女” の “
数は脅威だ。
“魔女” は全員が “
“略奪者” も “戦士” も呪文が効果を発揮するまで、“魔女” を守って動かない。
闇に呑まれ狂気に憑かれた連中だけど、灰と隣り合わせの迷宮で生存してきただけあって、決して馬鹿じゃない。
分厚い肉の壁に守られて “魔女” たちは、悠々と呪文を紡いでいく。
第一位階の魔法である “昏睡” の詠唱は短く、“魔女” は瞬く間に最後の韻を踏み、印を結ぶ――。
「
僕の発した
魔法の指輪に封じられた死滅の呪力が解放され、一九人の盗魔戦混成部隊の動きがピタリと固まった。
そして
「……ふぅ」
僕は大きく息を吐き、左手のリストバンドに装着したスマホに顔を向けた。
「終わりました。やっぱり七人の魔女に出会うなら迷宮ではなく学校がいいですね」
僕にしては会心の
全身に包帯を巻いた余りにも有名な
“
《灰は灰に、塵は塵に……どうか安らかにお眠りください》
六体の“
どうやら
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818093073833748473
《――終わりました。進みましょう》
聖印を切るとエバさんが、ケイコさんのヘッドカメラに告げた。
《この “ニューヨーク・ダンジョン” の二階は、無数の蛇が絡みついて一匹の大蛇になったような構造をしています》
エバさんが真っ直ぐに伸びる回廊を進みながら説明する。
《――ええ、そうです、ひとつひとつの回廊が蛇です。その蛇が無数に絡みついて、
視聴者は海外の地図サイトを開いて、『確かに』『もっともだ』と同意している。
《四階に到達するには、この大蛇の尻尾の末端から頭の先端まで、階層を対角線上に踏破しなければなりません。さらにこの蛇は、南東⇒南西⇒北東⇒北西と文字どおり蛇行していて、
やがてエバさんとケイコさんは、南北に扉がある回廊の西端に到達した。
ケイコさんが扉の安全を確認し、ふたりは南の扉を潜る。
そこもまた一匹の小蛇――長く続く小蛇で、しかも今歩いてきた東に伸びていた。
こうやって行ったり来たりを繰り返しながら、徐々に進んでいくのが二階なのだ。
(一面に壁がなく、一
エバさんの話ではこの “ニューヨーク・ダンジョン” の基本概念は、対照と対称、そしてそれらの調和らしい。
ハト派とタカ派が協力しなければならないところなんて、その最たるものだ。
このふたつはまさに、対照であって対称。
どちらかが欠けても、調和には至らない。
パッと、エバさんたちの配信が暗くなった。
《大丈夫です。魔法の光を打ち消す罠です。それ以外の害はありません》
慌てるコメント欄に、エバさんが落ち着いた声で語りかける。
《ここで慌てて “永光” をかけ直すと再び打ち消されてしまって、
悠然たるエバさんに、『確かに』『もっともだ』とまたも同意する視聴者たち。
(明かりの消えた迷宮を楽しむって……おさすがでございます)
Dチューバーとしての実力と素養の差を見せつけられた僕であった……。
エバさんとケイコさんは、
数区画進んだところで、北と西に扉が現れた。
《この西側の扉を抜けると、南東区域から南西区域になります。北の扉は帰路です。
エバさんはケイコさんに目配せし、西の扉を調べさせた。
罠も魔物の気配もなく、ふたりは扉を開けた。
《ここからがこの階層の本番です》
エバさんの声のトーンが変わった。
穏やかさの中に、確かな緊迫感が漂っている。
《ここからは一方通行の扉が数多く出現するようになります。正しい順に扉を開けていかないと帰路を見失い、迷宮を彷徨うことになるのです。かつてわたしが所属してパーティも、初めてこの階層に足を踏み入れたときにその罠にはまり、大変な窮地に陥ってしまいました――そうです、階層の構造そのものが巨大な罠なのです》
それからエバさんは、かつて体験した彷徨譚 “大長征” について話してくれた。
まさに今いるこの付近で、一方通行の扉を潜ってしまったこと。
その時はまだ
そうして次々に一方通行の扉を開けてしまい、あたかも誘い込まれるように階層の奥へ奥へと踏み入ってしまったこと。
次々に現れる格下の魔物と戦いで、徐々に消耗していったこと。
パーティは帰路を見つけられないまま、逆に上層への縄梯子を発見したこと。
疲労したパーティは魔物から逃れるために一旦、上層の四階に避難したこと。
そこでさらなる魔物と遭遇したこと。
その際の混乱で “
そして魔物から逃走するうちに、縄梯子の位置を完全に見失ってしまったこと。
《最終的には、地底湖の岸辺に築かれた “
情報をまったく持たない初見の探索で、ふたつの階層のほぼ全域を踏破する。
それがどれだけ困難で危険な道程だったか……同じ探索者になった僕には痛いほど理解できた。
ここは彼女ほどの才能を持った探索者でも危機に陥る場所なんだ。
バチン!
僕は両のほっぺを、これでもかと叩いた!
初めてのダンジョン配信で、どこか浮ついていた気持ちを吹き飛ばす!
――よし!
「目が覚めたみたいね――わたしたちも、そろそろ行くわよ」
一見すると意味不明な動作だったけど、レ・ミリアはすべてお見通しだった。
僕は再び緊張感に満ちた精神で、
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エバさんがかつて体験した危機一髪の一大生還劇、“大長征” はこちらから
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742/episodes/16816700426848483173
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第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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第二回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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