二階・三階
第10話 シャッター・フロア★
「痛たた……痛たた……まったく、とんだ災難だよ――ほれ、
「ひぃ、ふぅ、待ってくれよ、タマちゃん。僕はもう、腹が減って、喉が渇いて……このまま
「――は! 八〇年生きても相変わらず愚図な男だね! そんなことだからあたしを嫁にできなかったんだよ!」
「今さらそんなこと言わんでくれよ。あれは若気の至りだ。責めるなら二十歳の小僧だった僕を責めてくれ」
照男こと
ふたりは幼馴染みであり、過去半世紀以上にわたって何かにつけて同じやり取りをしている。
照男とタマは互いに憎からず想っていたが、二十歳を過ぎても煮え切らない照男に勝ち気なタマが愛想を尽かし、当てつけるように見合い結婚してしまったのである。
「三つ子の魂百まで! あんたはあの頃からちっとも変っちゃいないよ!」
ぶぅぶぅと文句を言いながら、タマは線画の迷宮をズンズン進んでいく。
別に当てがあるわけではない。
ただ優柔不断な照男の常に先を行くのが、彼女の終生の習性だった。
「他の四人は無事かなぁ……」
「あたしらが無事なんだから、無事に決まってるよ!」
「ううむ、それは確かに」
説得力があるようでまるでないタマの言葉に、照男が大真面目にうなずく。
人生の黄昏に “我が生涯に一片の悔いなし” とばかりに、最後にして最大の計画を企画した彼ら “所沢迷宮愛好会” の六人。
周囲の反対を押し切り、老後のための預貯金を切り崩し、万難を排しついに実行にこぎ着けたまではよかったが、想定外の事態が起り生死を誓った友人たちとはぐれてしまった。
家に帰るまでが遠足。
宿に戻るまでが探索。
計画を完遂しないかぎりただの、“年寄の冷水” になってしまう。
誰かひとりでも欠ければ、それ見たことかと世間から散々に嘲られるだろう。
なにより、参加した人間に死ぬまで深い悔いを残すだろう。
それでは意味がないのだ。
それでは……。
「ひえっ!!? なんだい、おまえたちは!? お迎えならまだ結構だよ!」
突然現れ舞い始めた “
照男は幼い頃からずっと、“妖精” と出会いたかったのだ。
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◆◇◆
「ケイコさん、レ・ミリアさんたちの状況を確認してください」
長くうねる回廊の途中で、エバが周囲を警戒しながらいった。
うなずき、ウオッチタイプのスマホでDチューブのアイコンをタップする。
すぐに『灰の道迷宮保険』のチャンネルに、タスクのビキビキに硬い顔が映った。
《こ、これから “
初めての顔出し配信に、緊張が隠せないのは明らかだ。
タスクの後ろには、“
この一見すると一切壁が存在しないところが、三階の特徴なのだ。
「あの女にやらせればいいのに。慣れてるんだから」
「誹謗中傷から彼女を守っているのです」
ふん、と鼻を鳴らしたあたしに、エバが微苦笑を向ける。
「有益な情報や発見が得られるかもしれないので、コメントをオフにはできません。かといってレ・ミリアさんが実況すれば
もう一度鼻を鳴らしたあたしの視線の先で、タスクの説明が続く。
《この “死人占い師の杖” には “
未だレベル7のタスクが遭難者を探知できるようにと、エバがリーンガミル政府に用意させたものだ。
永久品ではないが壊れる確率は五パーセントと低く、
正直こんな状況でなければ使い道のない品だった。
《反応がありました! 増尾さんと神宮さんはおふたりとも無事です! 北西区域のどこかにいます!》
杖の魔力を解放すると、タスクの顔がパッとほころんだ。
コメ欄にも視聴者からの安堵のコメントが並ぶ。
《すぐに向かいます! エバさんから三階に着いたら、まず “
“聖水” ってなに? コメント欄に質問が溢れた。
《“聖水” は、“
レベル7のタスクの
回復量は三分の一しかなく、“
エバが、まず何より先に汲みに行くように言い含めたのは、当然のことだった。
《僕たちはこの他にも “痺治の護符 ” を持っています。これは “
ガシャンッ!
《――わっ! ビックリした!》
と突然後方で大きな音がして、タスクが飛び上がった。
《お、驚かせてすみません――見えるでしょうか? たったいま通過した場所に壁が出現しています。
馬鹿丁寧に、それでいて臨場感たっぷりに実況を続けるタスクに、視聴者の反応は概ね好意的だった。
エバさん構文で小技を効かせてくるのもウケがいい。
「もともと熱心なダン配ファンの方ですから。視聴者が望む配信がどんなものなのか理解しているのでしょう」
「実況にばかり意識が向いて、魔物に囓られなければいいけど」
「そういう時はレ・ミリアさんがカバーしてくれます。あのふたりは良いバディだと思いますよ」
《お喋りはそこまで――
エバが言ったそばから、レ・ミリアの鋭い声が飛んだ。
《魔物です! 魔物と遭遇しました! 僕たちはこれから戦闘に突入します!》
(あんたは、ゴジラ映画のアナウンサーかい……)
ふたりのヘッドカメラに映り込んだのは、
“
“
“
――の混成部隊。
エバが旦那から聞いた話によると、三階では頻繁に遭遇する群れらしい。
旦那はタカ派で、以前
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669650051947
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669650620598
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669651436450
《数が多い――指輪を使って!》
タスクはリーンガミル政府からの貸与で、“
攻撃魔法が使えないふたりには、命綱ともいえる
この指輪と、
レ・ミリアは一瞬の躊躇もなく指輪の使用を決断、指示した。
永久品でない指輪が壊れる危険よりも、数の暴力に
「ケイコさん、こちらにも来たようです」
スマートウォッチに気を取られていたあたしに、エバが柔らかく告げた。
顔を上げると、全身に包帯を巻いた余りにも有名な魔物が、ポキポキした動きで迫ってきていた。
「“
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818093073833748473
そして今やこの
「大丈夫、“木乃伊” は得意です」
迷宮の中層階がいよいよ牙を剥いてきた。
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今回は、ここまで
また週末にお会いしましょう^^
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エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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第二回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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