第8話 要塞、再び★

 ジリリリリリリリリリリッッッッ!!!


 鳴り響く、警報アラーム

 弾けるように城門が開き、諸肌も露わな褐色の巨漢や、ターバンを巻いた船員風の男たちが躍り出てきた。

 全員が手に手に曲刀カットラスを握り、まさに『押っ取り刀』の様相だ。

 けたたましい警報音に釣り上げられ、北へと走り去る海賊たち。


(よし、上手くいった!)


 ケイコさんの仕掛けた “警報アラーム” の罠は、ドンピシャのタイミングで作動した。

 罠には魔法が掛けられていて、付近の魔物を問答無用に引き寄せる。

 海賊たちはのだ。


 僕(たち)は城門から離れた壁に引っ付いて、海賊が遠ざかるのを待った。

 海賊を出し切った巨大な門扉がしまり始める。

 ザイルが強く引かれ、パーティが走り出した。


(細工は流々――あとは仕上げをごろうじろ!) 


 ここで入り損ねたら、僕たちは飛んだお間抜け集団だ。

 誰かが転べば、その時点でアウト。

 転ばないようにぶつからないようにしたくても、自分の姿も仲間の姿も見えない。

 全員が普段の感覚を思い出して、全力で走り抜けるしかない。


 あと一〇メートル!

 あと八メートル!

 六メートル!

 四メートル!


 ガツンッ!


 ――!? 蹴躓けつまづいた!

 城門が閉まる!

 挟まれて、押し潰される! 両断される! 

 両側からハサミのように迫る、巨大な城門!


(このおおおおっっっっ!!!)


 前方回転回避ローリング


 ガシャーーーーンッッッッ!!!


 重々しい金属音を轟かせて、城門が閉ざされた。


(はぁ、はぁ、はぁ――!!!)


 僕は――生きていた――間一髪。

 鎧下クロースの下で、全身汗まみれ。

 不快極まりない。


(まったく、本当に、僕は鈍臭い)


 ザイルが引かれた。

 姿は見えず音もしないので、みんなからは僕が転んだのはわからない。

 文字どおり足を引っ張りたくないのですぐさま立ち上がって、先に進む。

 息を整える暇もない。


(……これが海賊たちの根城か……)


 要塞の内部は、汚濁に塗れた生活臭に満ちていた。

 どこからとも漂ってくる排泄物の異臭に、透明な顔が歪む。

 これが迷宮内で生きる人間の特徴だ。

 迷宮での生活が長引くにつれ、日増しに不潔な状態が気にならなくなっていく。

 垢や汚物に塗れても何も感じなくなりその無頓着は、最後は狂気へと行き着く。

 

 海賊たちだって船上にいたときは、衛生には気を遣っていたはず。

 不衛生な居住環境は、病気の発生に繋がる。

 狭い船内での病の蔓延は、場合によっては嵐よりも怖ろしい。

 船乗りなら誰だって肝に銘じている海の掟だ。


(……それが、こうも不潔極まるなんて)


 これは来てると言わざるを得ないだろう。

 最後の一線を越えるのも時間の問題……あるいはすでに越えているかも。

 そうなれば海賊たちはもう人間じゃない。

 人肉の味を覚えた、“人間型の生き物” という魔物だ。


 姿は見えないものの先頭のケイコさんに迷いは感じられず、腰を引くザイルの力が弱まることはない。

 汚物塗れの小部屋の群を、迷うことなく進んで行く。

 “光学透過の水薬グラス・ポーション” の効果で地図を見られないので、事前に頭に叩き込んだ記憶に頼っての先導だろう。

 初めて配信で見たときはとても頼りなかったけど、今のケイコさんは本当に心強く頼りになる斥候スカウト だ。


 そのケイコさんの足が止まった。

 コツンと先を歩くレ・ミリアにぶつかる。

 すぐに理由がわかった。

 鼻の曲がる垢と排泄物の臭気に混ざる、別の異臭。

 目の前の一室から、紫色の煙が漂い出ている。 


紫煙タバコ……? いや、お香か)


 誰かが部屋の中で、香を焚いているようだ。

 姿は見えなくても煙の中を通れば当然、が生じてしまう。

 注意深い人間なら、侵入者僕たちの存在に気がつくかもしれない。


(汚物の悪臭すら気にならなくなってる連中だ……そこまで鋭敏な感覚を残している人間いるとは思えないけど……)


 パーティが動く気配がした。

 ケイコさんは慎重に潜り抜ける選択をしたようだ。

 当然だ。

 いつ消えるかしれない煙を待っている余裕なんてない。

 ぐずぐずしていたら、“透過” や “静寂” の効果が切れてしまう。

 しかし――。

 

「――×●※◆△▼□×◆×!!!」


 これが裏目に出てしまった!

 部屋から意味不明な叫び声があがると、周囲が騒然となる!

 真っ先に部屋から飛び出してきたのは、紫と緋色の衣装をまとった呪術師風の男!


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212988755486


魔術師メイジが瞑想してたのか! それで感覚が鋭敏になってたんだ!)


 さらに運の悪いことに、僕に掛かっていた水薬ポーションの効果が切れてしまった!

 忽然こつぜんと海賊たちの直中に現れる、僕の間抜け顔。


「ど、どうも~」


 愛想笑いをしてみたら、声も出た。

 どうやら水薬も加護も、ここいらが限界だったみたい。


「笑ってる余裕があるなら殴るか祈れ!」


 レ・ミリアの新しい愛剣が一閃して、 “海賊の魔術師ガリアンメイジ” の命を断つ。

 侵入者を察知した殊勲の魔術師は、呪文を詠唱する間もなく絶命した。


「ご、ごめん!」


「もう少し早くインスニかけ直しをするべきだったわね」


 ケイコさんが短剣ショートソード を抜き放ちながら言えば、


「想定していたよりも水薬と加護の効き目が短かったようです。効果時間には若干のムラがあるとはいえ測り損ねました」


 落ち着いた声で反省しながら、エバさんも戦棍メイスを構える。


「縄梯子まで強行突破します。ケイコさん、先導を」


「任したって――行くよ!」

 

 そしてザイルを解いて駆け出す僕たち!

 さあ、盛り上がって参りました!

 連なる小部屋に入る度に、荒くれ者の海賊たちが行く手を阻む!


「指輪は温存! 代わりに石を!」


 エバさんが走りながら指示を出す!

 指輪とは “滅消の指輪ディストラクションリング” のこと!

 石とは “夢見の石ストーン オブ ドリーマー” のことだ!


 “滅消の指輪” はその名のとおり “滅消” 呪文が封じられた、強力無比な魔道具マジックアイテム

 何と言っても不死属アンデッドを除くネームドレベル8未満の魔物を残らず塵にしてしまうのだから、少数パーティの僕らにとっては切り札とも命綱ともいえる貴重品だ!


 “夢見の石” は迷宮で希に見つかる不思議な小石で、“昏睡ディープ・スリープ” の呪文と同じ作用の成分を含んでいる。

 魔物に向かって使えば “昏睡眠りの巻物” と同じ効果を発揮するわけだが、使えばほぼ完全に消滅する巻物スクロールと違って、石だけに頑丈で壊れる確率が二パーセントと極端に低く、非常に使い出のある品だった。

 タカ派では石をレ・ミリアと僕が、指輪を僕が、リーンガミル政府から貸与されていた。


「船長のお出まし――石使うよ!」


 先頭を行くケイコさんが、疾駆しながら叫ぶ!

 鋭いサーベルを持った “海賊船の船長ガリアンキャプテン” が、褐色の諸肌をした巨漢の手下を従えて部屋から躍り出、立ち塞がる!


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212852193903

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669607562899


 “夢見の石” は僕も持っているけどケイコさんの方がレベル9と高く、同レベルの魔術師と同等の成功率が見込める!


深き眠りよカ・ティノ!」


 催眠系の魔法に耐性がない海賊たちは、その真言ひとことでバタバタと倒れ伏した!

 ケイコさんとエバさんは軽快なステップで倒れた海賊を回避したが、レ・ミリアは容赦なく踏みつけ、ステップを踏めない不器用な僕も然り!

 これぞ、タカ派THIS IS US


「追っ手がきてる! 石使います! ――深き眠りよカ・ティノ!」


 僕は背後から迫る猛々しい足音に振り返り、握った魔法の石礫いしつぶてを突き出す!

 糸の切れた操り人形のように、やはりバタバタと倒れる海賊たちを見て、

 

 ウッシャーーーッッッ!!!


 と、心の中で快哉を叫ぶ!


「この先が “首領” の私室です! 上層への縄梯子はその先にあります!」


 エバさんが叫ぶ!

 いよいよフロアボス―― “ハイ・コルセア” の登場だ!



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今回は、ここまで

また週末にお会いしましょう^^

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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第二回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj 

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