第2話 ハトとタカ★
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023214147661880
「……レ・ミリアッ」
ラウンジに、ケイコさんの絶句が響いた。
一般には存在が知らされていない
ケイコさんとレ・ミリアが同時に腰を落とし、
もちろんこれから飛行機に乗ろうというのだから、両者とも武装などしてない。
しかし魔物相手に生き死にの
徒手空拳でも充分に悲劇を生む。
「待ってください! 僕たちは味方です! 危害を加えるつもりはありません!」
僕は慌てて、一触即発の女性探索者の間に割って入った。
「誰よ、あんた?」
「ぼ、僕はタスク。レ・ミリアとパーティを組んでいる
「タスク? 確か同じハンドルネームが、その
ケイコさんが腰を落としつつ、
「そうです、それが僕です。ケイコさんとエバさんが初めて会ったときに、コメントしてました」
「ふーん、探索者になったんだ」
「はい、どうにか生き残っています」
「でもだからって信用はできない」
再びレ・ミリアを睨むケイコさん。
わあ! この人、思ってた以上にタカ派だ!
「……信用できないなら、どうする気?」
と、こちらは掛け値なし・混じりっけなしのタカ派である僕のパートナーが、鋼の手触りの声で訊ねた。
「素っ首叩き落とす」
ザワッ……と、うなじの毛が逆立った。
ケイコさんから放射される、洒脱でフランクな印象からかけ離れた強烈な殺気。
僕たちの世話をするために外務省から派遣された担当官も、金縛りにあったように瞬きひとつできない。
殺る、殺る、殺る、殺る、殺る、殺る、殺る、殺る――殺る!
例え本人たちにその気がなくても、
それが闘争へと至る流れだ。
(駄目だ、もう止められない――激発する!)
「それくらいでよいでしょう」
たおやか声が殺意に圧殺されかかってラウンジを、涼風のように吹き抜けた。
「わたしたちが戦う場所は迷宮で、戦う相手は魔物です。その気持ちはニューヨークまで取っておいてください」
エバさんが仲の良いクラスメートに話しかけるような気軽さで、ふたりの真ん中に立った。
「エバ、こいつはあんたを恨んでる」
「少しく」
レ・ミリアから視線を逸らさないケイコさんに、エバさんがうなずく。
「それだけのことをしましたから。ですがわたしがレ・ミリアさんから危害を受けることはありません」
「どうしてそう言い切れるのよ?」
「レ・ミリアさんがわたしに害意を持ったとしても、タスクさんが止めるからです。それがパーティを組むということ。人が闇に呑まれるのは孤独に苛まれるときです。彼女はもうひとりではありません」
「……相変わらず嫌な女」
ふんっ、とそっぽを向いてレ・ミリアが吐き捨てた。
「少しく」
エバさんが微少する。
それから僕の方を見て――。
「ようやくお会いできましたね。その節はお世話になりました」
と、もう一度微笑んだ。
「本当にあなたは凄い――そして狡い人だ。これで僕は命を賭けて、レ・ミリアからあなたを守らなければならなくなった」
「わたしではなく、レ・ミリアさんを守るために――ですよね」
僕は苦笑するしかなかった。
ほんと僕たちとは役者が違いすぎる。
「お待たせしました。パーティの顔合わせが終わりましたので、これからのご指示をお願いします」
エバさんが先程から青い顔を浮べている外務省の担当官をうながした。
◆◇◆
「おおっと! この小さなエビフライ、侮れないかも!」
「ポップコーンシュリンプですね! 何度かお母さん様が作ってくれました!」
「おおっと! この焼き鳥みたいのも、なかなかになかなかと言わざるを得ない!」
「バッファローウィングですね! これも何度かお母さん様が作ってくれました!」
「「まいうー!」」
ケイコさんとエバさんが機内食を舌鼓を打ちながら、はしゃぎにはしゃいでいる。
政府がチャーターしただけあって(したにしては?)、まるでファーストクラスのような快適な座り心地だし(もちろん乗ったことはないけど想像で)、観光目的での渡米でないことを知らされているのだろう。到着後すぐに潜る僕らへの心づくしか、昼食の機内食もアメリカナイズされた物が出された。
「Coffee ? Tea ?」
「「ティー、プリーズ!」」
まるで映画女優かモデルのようなブロンド美人のキャビンアテンダントさんに、 口の周りにチリソースを付けたふたりは、ビッ!と親指を立てて紅茶を所望した。
こうして見ると、初めての海外旅行でテンションを爆上げしてしまっている女の子にしか見えない。
わざわざ英語で話しかけるCAさんも、もしかしたら普通の海外旅行に近い演出をしてくれているのかもしれない。
そう、僕たちはどんな災害救助よりも危険な、迷宮救助隊。
一度潜れば還ってこれるかは運次第。
これが最初で最後のジェットストリーム・フライトになるかもしれないのだから。
「そんなに混ざりたければ、あっちに行けば」
隣席から、実にとげとげしい声が聞こえた。
「ははは……そのジト目、可愛いよ」
「ふんっ」
レ・ミリアが不機嫌を隠さずに、プイッと顔を逸らした。
「ほ、ほら、僕ってこう見えてもタカ派だから」
迷宮内で敵意を持たない魔物と遭遇した際に、どういう行動を採るか。
見逃して流血を回避するのがハト派。
矛を納めず、あくまで討って取るのがタカ派。
僕はタカ派だ。
最初は戦意のない魔物と戦うのは気が引けていたけど、ふたりパーティの僕らには敵を選り好みしている余裕はない。
古強者のレ・ミリアに比べて経験の浅かった僕は、一秒でも早く
そして、この考え方・方針の違いから、ハト派とタカ派は往々にして気が合わず、
乗り物や飲食店でもできるだけ離れて座って、互いに干渉しないのがマナーでありエチケットでもあるのだ。
「あ、そっ」
「そ、そんなことより僕たちも食べようよ。せっかくの海外旅行なんだから、存分に楽しまないと――うん、この焼鳥は美味しそうだなぁ!」
◆◇◆
「Japanese?」
「ノー」
「Akasinian?」
「イエ~ス」
「Sightseeing?」
「ノー、コンバーット」
初めての入国審査だったけどまったく物怖じせず、エバさんはにこやかに英会話をしている。
チャーター機で専用到着口に降りたのに、なぜ一般客に交じって入国審査を受けているのかというと、どうやら僕たちが来ることがマスコミにバレてしまったようで、その目を誤魔化すために急遽悪巧みをしたらしい。
なので、有り体に言えば出来レースの審査なんだけど――そこはさすがエバさん、鋼のメンタル。鉄のストマック。ノリノリで楽しんでいる。
「Good luck, Evasan」
最後、大柄な黒人女性の審査官はつぶらな瞳で、エバさんの幸運を祈った。
「センキューゥ」
入国審査を終えると、観光客のフリをした僕らは、そしらぬ顔でJFK国際空港を出た。
イエローキャブをつかまえると見せかけてそそくさと、日本大使館が用意した車に乗り込む。
セーフ、セーフ。
マスコミには気付かれなかった。
みんなホッと一息。
誰よりも、『外務省領事局海外邦人安全課』という、とても長い名前のお役所から派遣された担当官の人がホッとしていた。
そして向かった先は、大使館。
もちろんここはワシントンD.C.ではないので、我が祖国のものではななく――。
現代的な大使館に入り、
「ようこそ、勇気ある
リーンガミル聖王国・在
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