第87話
「ちょ、ちょっと待った、なんでも答えるから殺さないで」
俺は情けない声で必死に懇願した。
ウツツが来るまでなんとか時間を稼がなきゃいけないが、本当に来てくれるだろうか?アイツなら一瞬でここに来れるはずなのになかなか来ない。なんだか心配になってきた。せめて剣があれば反撃できたのに。
「んー殺すか殺さないかは置いといて、取り敢えず他の転生者の場所を教えてもらおうか」
「分かった、教える。勿論教える。だから殺さないで」
時間稼ぎの意味も込めて俺は殺さないでと、両手を合わせてお願いする。
「早く教えなよ。じゃないと一回殺すよ」
キョウがそう言った瞬間、体の内側から気持ち悪いものが込み上げてくる。
キョウが俺になんらかの魔法をかけたか?いやこの感覚に覚えがある、コレはウツツの混沌魔法だ。
とりあえず転生者スキルを発動させ、内側から溢れ出す気持ち悪さを解除する。
「なんだコレ、何が…起こってる?」
キョウが苦痛の表情で胸を抑え膝をついた。そして何事もないかの様に平然と立っている俺を睨め付けた。
「おまえ…うぅ…」
キョウは何かを言おうとしているが苦痛のあまりか呻き声が絶えない。そのすがたを見て俺は心底安心してしまった。これで俺が死ぬ事は無くなったんだ。
でもキョウはアリスをダンジョンから出す方法を知ってる。
「ウツツ待ってくれ。こいつから聞きたい事があるんだ!」
ウツツがどこにいるか分からないから取り敢えず顔を上げ叫んだ。すると────
「待たねぇよ」
と言う声と共にグシャっと、音が聞こえてきた。音のした方を見ると、顔と頭が合体したウツツがキョウの頭を踏み潰していた。キョウのあたまがあった場所を中心に血が地面に飛び散っている。その光景に俺は、呼吸をするのを忘れ口を半開きで唖然としていた。
「レベル九十でこの程度だとするとやっぱ俺は人間じゃねぇなぁ。コイツの攻略とやらで見てもらうべきだったか?いや、おもんねぇからいいか」
無言でいる俺に対し、ウツツは冷静な口振りで何か言っていた。人を殺したのにドライな奴だなぁ。
「た、助かったよ、ウツツ。ありがとう」
「きめぇから礼なんて言うじゃねぇ。それにまだ終わってねぇよ」
は?どゆこと?
俺がはてな顔で首を傾げていると、途端にキョウの体が光に包まれた。徐々に光は薄れ頭部が元通りになったキョウが姿を現す。だけど息も絶え絶えでかなり弱っている様に見えた。
今にも崩れ落ちそうな体を渾身の力を振り絞って立ち上がった。
「こ…攻略、コイツを…コイツを倒す方法────」
キョウは血反吐を撒き散らしながら転生者スキルを使用したが、途中で呆気なく倒れピクリとも動かなくなった。
「終わった?」
「あぁ終わった。にしても転生者スキルか」
何か思い耽る様にウツツが呟いた。
「まさか俺の事、殺すとか言わないよね?」
俺は恐る恐る聞いた。
キョウが言うには転生者を殺せば転生者スキルのレベルが上がるらしい。その話を多分ウツツも聞いているだろうから…あれこれ俺殺される?
「出来ねぇよ。そうしたくても俺の体がそれを拒否するからな」
ウツツの体ちゃんありがとう!
直接ウツツに言えばウツツが怒ってしまうので心の中で礼を言っとく。
ひと段落ついた事だしアリスをダンジョンから出す方法をウツツに聞いてみるか。
「アリスがダンジョンに閉じ込められたんだけど、どうやったら出してあげられるか知ってる?」
「魔物が溢れ出すまで待てばいいだろ。それ以外の方法しらねぇよ」
「キョウが言うには俺の転生者スキルが何か役立つらしい」
「知らねぇっつってんだろ。もうアリスの事は放っておけ。どんどん俺の知ってる姿になりつつある。どうせ出られたとしても人に戻れなけりゃ討伐対象だ」
「俺の転生者スキルを持ってすればダンジョンを壊せるらしい。やっぱりダンジョンを壊す事がアリスを出す方法なんだろうか?」
俺はウツツの言う事を無視して、ウツツに質問を投げかける。
ウツツが特大の舌打ちをついた。
「ウゼェなぁ。お前の能力がなんなのかまず考えろよ」
俺の能力?俺の能力かぁ。
顎に手を当て考える。
状態異常を受けない様になる、ステータス差を無視できる、壊せない筈のダンジョンが壊せる、ポーション等のアイテムが適用されない、なるほど俺の能力、なんとなく分かった気がする。
「俺の能力はもしかしてゲーム要素の排除?」
「俺と同じ考えだな。俺の首を斬りレベルが上がった事でスキルが使えるようになったわけだ。どれも予想だがな」
そうだ、そう言えばキョウも言ってた、レベルが上がった事でウンタラカンタラって。
なんだか一気に希望が見えた気がする。
「俺にはパントマイムの動かない鞄はできないって事だ」
「は?お前何が言いテェんだ?」
面を食らった様な顔でウツツが言ってくる。
「ごめんちょっとアリスのとこ行ってくる」
そんなウツツを置いて俺はアリスのもとへ向かった。
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