第86話
俺を刺した男、キョウが今目の前にいる。緊張から冷や汗が頬を伝うのが分かった。
「君達は行方不明の女の子の捜索と第三のダンジョンの調査にあたってくれ。もし異変があるようならすぐに僕に報告をするんだ。僕はこの子から色々事情を聞くよ」
キョウが周りにいた冒険者達に指示を出すと、冒険者達は勢いのある返事をして各々与えられた仕事を果たしに行った。
それを見届けた後、キョウが俺の方に向き直った。
「いやー久しぶりだね。生き返ってて嬉しいよ。結構活躍しているようだね。なんでもマスタームーンの再来だとか。取り敢えず二人で話せるところに行こうか」
「は、話ならここでもできるだろ」
俺は警戒心マシマシで恐る恐る言い返した。
「そんなに怖がんないでくれよ。別に殺したりしないさ。君に聞きたい事がある、それだけだよ」
俺の警戒心を解こうとしているのか、朗らかな笑顔を作ってそう言ってくるが逆にそれが怖い。
けどここは、ウツツが来る事を考慮して二人っきりになれるところに行くべきなのかもしれない。ウツツは周りの被害を気にするような奴じゃない。ここでキョウとウツツが戦うなんて事になったら村の人達に被害が行く。
「分かった。手っ取り早く終わらせてくれよ」
「それはよかった。それじゃあ行こうか」
案内されるまま俺は茂みへと入って行った。
人目のないこの場所でウツツが来るまでなんとか時間を稼ぐんだ。頼む、頼むから早く来てくれウツツ。せめて俺の命がある内に…。
「にしてもびっくりしたねー。まさか君も転生者を殺してるなんて。そのおかげで僕の転生者スキルもレベルが二つ上がったんだけどね」
心の中でウツツのお早い到着を願う俺にキョウが話しかけてくる。
何の話をしているのかさっぱりだ。
「何の話だよ」
「やっぱ君も知らなかったか。どうやら転生者を殺すと転生者スキルのレベルが上がるようなんだ。君を殺した時、これに気づいてね。いやー素晴らしいものだよ。できる事が色々増えるんだから」
ククッと、キョウが小さく笑った。
転生者を殺せば転生者スキルのレベルが上がる…と言うことは
「俺を殺す気か?」
再度キョウが小さく笑う。
「そんなことはしないさ。一度殺した転生者を蘇生させて殺しても意味がないんだ」
まるで試したような言い方だ。嫌な考えが思いつく。
「イ、イチカさんはどこに」
「あぁ死んだよ。と、言っても僕が殺したんだけどね」
呆気からんとした様子でキョウは答えた。
愕然とする俺に「そんな事よりもさ」と、キョウは話を続けた。
「実は僕の転生者スキルは鑑定じゃなくて攻略だったんだ。レベル四になって面白い事ができるようになってね。知りたい事を教えてくれるんだ。まるで攻略サイトでも見ているかのように。まぁ、生粋のゲーマーの僕としてはこんなの邪道もいいところってスカしてたんだけど、その反面使ってみようと思う僕もいてだね、だから僕は他の転生者の場所を知りたいって調べたんだ。そしたら君が居場所知ってるって返ってきてね。直接教えてくれるわけじゃないんかーい、てなったよね」
意気揚々とキョウは語り出した。
「つまり、俺に聞きたいことって言うのは他の転生者の居場所?」
「そうそう、もちろんタダでとは言わないさ。君は元の世界に帰りたいんだろ?攻略で見てあげるよ元の世界に帰る方法」
マジか。それは魅力的な提案だ。だけど本当に攻略なんてものが見れるなら今は向こうの世界に帰るよりも知りたい事がある。
「それよりも…ダンジョンを崩壊させる以外で魔物をダンジョンから出す方法を教えてくれ」
キョウのという人間は信用に値しない。それでも俺は藁にもすがる思いでキョウに聞いた。
「そんな事でいいのかい?」
腑に落ちない様子でキョウが聞き返してくる。俺は黙って首を縦に振った。
「何を企んでるのやら…。まぁいいか。攻略、魔物をダンジョンから出す方法」
キョウがそう言った後、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。独り言を呟き終えると「面白い!」と、大きな声で叫んだ。
「君の転生者スキルはかなり面白いね。状態異常無効って言ってたけど君はまさか気づいてないのかい?本来この世界のダンジョンは意図的に壊せるものじゃないが君なら壊せそうだ」
「俺にダンジョンを壊せって言ってるのか?」
「だけど手元に置くには危険すぎるなぁ。ステータス差が意味ないから寝首を掻かれたら一発お陀仏だ。しかも転生者スキルのレベルが上がってる事で君は一部スキルの恩恵とスキルを使えるようになっている。真っ当に戦ったとしても刃魔十画を撃たれたらワンチャン負けだ」
キョウは俺の問いを無視しずっと一人で喋っている。一頻りに喋った後何か考え事をするかのようにんーと、喉を鳴らした。そしてピタッと喉から出ていた音が止む。
「決めた。やっぱ君は殺そう。元々転生者の居場所を聞き出したらそうするつもりだったしね」
マジか。ウツツ早く来てくれ。
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