第85話
アリスがダンジョンに閉じ込められてから三日という月日が経っていた。この三日間俺は村の手伝いをしては食べ物を分けて貰いダンジョンに閉じ込められているアリスに届けていた。
他の三人、メリーとメロンちゃんとキングゥは話し合いの結果、とりあえず学校に戻ってアリスが行方不明になった事を報告することになった。俺は「この村に残る」と、言って現在第三のダンジョン最寄りの村に滞在している。
アリスが行方不明にである事を報告されたらきっと応援に騎士団や冒険者が駆けつけてくる。ダンジョン内まで調べられる可能性もある。その前にアリスをダンジョンから出して人の姿に戻さなければ。
今の俺の状況をウツツは監視しているだろうから何度も助けを呼びかけたが応答はなし。薄情なやつだ。
そんな訳で俺は一人でアリスをダンジョンから出す方法を考えないといけないのだが、ゲーム知識が一切ない俺には正直厳しくて手詰まりだ。
何も思いつかないまま今日も今日とてアリスに食べ物を運ぶ。紙袋に入った数個のパンと果物。これだけじゃ少ないだろうが今は我慢してもらうしかない。じゃないと俺の食うもんがなくなってしまう。
申し訳ない気持ちのままダンジョンに入り、いつもアリスがいるダンジョン端ら辺の小部屋に向かった。アリスのいる小部屋に向かっているとぺちゃくちゃとまるで咀嚼音のような音が聞こえきた。
この音はなんだろうか?妙な胸騒ぎを感じ小走りで音のする方まで向かうと、アリスがサソリ型の魔物の肉を貪り食べていた。俺に気づく事なく無我夢中に魔物を食べていた。これは見て見ぬふりをして後で声をかけてあげるべきか、そう考えていたがきづいた時には
「アリス」
と、声をかけていた。
俺が声をかけるとピタッとアリスの食べる手が止まった。
「ナ、ナツ君…?」
アリスは俺を見ようとせずただ小さな声で名前を呟いた。
「ご飯持ってきたよ」
何事もなかったかのように俺は近づいた。
「見ないで…。見ないで下さい」
アリスは体を震わせながら小さく丸まった。
体が一回り大きくなっている。手も…指が異様に長くなっている。人の姿に戻るどころかどんどん魔物化していっている。
なんて声を掛ければいいか分からなかった。だからとりあえずアリスの横に座った。
俺が食べ物の入った紙袋を置くとアリスは俺の目を気にしながら紙袋の中に手を伸ばした。パンを一つ掴むともぐもぐと体を丸めたまま食べ始めた。よっぽどお腹が空いていたのだ。こりゃ当分俺は食事抜きだな。
「これからはもう少し食いもんを持って来れそうだよ」
「もう来ないで下さい」
「いや来るけど」
「醜い姿を見られたくないんです。だからもう来ないで…」
ズズッとアリスが鼻を啜ったのが分かった。
来ないで、と言うのは本心から言っているのであろう。もし俺が本当にここに来なくなったらきっとアリスと二度と会えない。そんなのは嫌だ。
「向こうの世界での話なんだけどさ、母が旅行したいって言ったんだ。俺はいってらっしゃいって返したんだけど、母は『アナタも行くのよ、家族みんなで行きたいの』と言ってきたんだ。俺が嫌だねって返すと母は駄目って言うわけじゃん。そんな押し問答を繰り返していく内、俺はちょっと切れてしまって、『自分のやりたい事に嫌だと言う他人を巻き込むな。それはただの嫌がらせだ』って怒鳴ったんだ。あの時の母に俺は謝りたいよ」
「結局どうなったんですか?」
その後すぐに死んだからこの話に続きなんて無いけどここは嘘でもついておくか。
「結局旅行に行くことになったよ。案外行ってみれば楽しいもんだったよ。なぁアリス、俺は俺のやりたい事の為にここに来るよ。どれだけアリスが来て欲しくないって言ってもここに来る。絶対にアリスをここから出す」
俺はそうたかだかと宣言した。
しかしそんな宣言虚しく、アリスが閉じ込められて六日が経とうとしていた。アリスをダンジョンから出す方法は全く見当がついていない。
アリスは俺に見られぬようこっそり魔物を食べている。俺が持っていく食べ物にはなかなか手をつけない。どうやら俺が飯を食べていない事に気づいているようだった。でも、最終的には空腹に耐え切れないのか、俺が持ってきた食べ物もバクバクと食べ始める。
どうにかしてもっと飯を持ち運べないだろうか?そんな事を考えながら村の仕事をしていると、ある冒険者パーティーが行方不明のアリス捜索兼、第三のダンジョン調査の為に最寄りの村にやってきた。
その冒険者パーティーの一人にキョウの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます