第88話

 アリスをダンジョンから出すため俺は第三のダンジョンへと走り出した。ダンジョン入り口前にはキョウと共に来た冒険者が三人、険しい表情で話し込んでいた。

 冒険者の一人が俺に気づき「おぉ君は!」と、手を挙げながら言ってきた。


「キョウさんと話してた子だろ。すまないがキョウさんを呼んできてくれないか」


「すみません、俺今から用事あるんで…」


 俺は軽く頭を下げつつ断る。断られると思ってなかったのか俺に話しかけてきた男は小さく唸り、隣にいた目つきの悪い冒険者が「協力しろよゴミが」と、悪態をついた。


「そうかぁ。じゃあキョウさんが何処にいるか教えてくれないか」


「あそこら辺で話してましたよ。今は何処にいるか分かんないですね」


 俺はあらぬ方向を指差しながら適当に言った。


「うーん、一度村に寄るか」


 俺と話していた男が呟くと、仲間の冒険者の方に向き直り


「俺はキョウさんを呼びに行く。二人はここで待っておけ」


 そう言って小走りでさっていった。

 あの冒険者がキョウの死体を見つける前さっさと用事を済ませてしまおう。

 俺がダンジョンに入ろうとすると、先ほど悪態をついてきた男に待ったの声をかけられてしまう。


「ここは立ち入り禁止だ。さっさと消えろ」


 無視してダンジョンに入ろうとするともう一人の男に肩を掴まれ止められてしまう。 


「君は冒険者学校の子だろ。腕に自信があるのかもしれないがマジでやめた方がいい。恐ろしく強い新種の魔物が彷徨いてる」


「なんで強いって分かったんですか?」


「俺達三人の攻撃をものともしなかったからだ」


 俺は奥歯を噛み締めた。

 早くアリスをダンジョンから連れ出さなければ、じゃないともっと大勢の冒険者がやってきてアリスを討伐しようとする。

 俺は肩に置かれた手を払い走った。後ろから制止する声が聞こえてくるが、そんなのお構いなしにダンジョンに入った。


 ダンジョン内部、俺は後ろを振り返り冒険者達が追ってきていない事を確認し、アリスがいつもいる小部屋に向かった。小部屋を開けると、まん丸と自分の体を縮こまらせ体操座りで座っているアリスがいた。

 体や顔を隠すように身を小さくしている。


「アリス大丈夫?」


 俺が声をかけるとビクッとアリスが体を震わせた。


「な、ナツ君、こっちに来ないでください」


「いやーそれがそっちに行っちゃうんだなこれが」


 俺はわざとらしく明るく振る舞ってアリスの隣に立った。そしてアリスに手を差し伸べる。


「アリス立てる?ここから出てみよう」


 アリスがふるふると膝の上に乗せた顔を横に振った。


「どうせ出られません」


「いや俺が出してみせるよ。約束する」


「もし、出られても私みたいな化け物は外じゃ生きていけません」


「また人の姿に戻れるさ。だからダンジョンから出よう。ほら手を取って、一緒に行こうぜ」


 スッとアリスに手を差し出すが、一向に反応は無い。数秒して俺は「アリス?」と、問いかけた。


「ナツ君に今の姿を見られるのが怖いんです」


 震える声でアリスが言う。

 こういう風に言うってことは、またモンスター化が進んだってことだ。ならば男ヤーナツやることは一つ。


「よし分かったアリス。ここを出たらとりあえず一発エッチしよう。俺がどんだけアリスを好きか証明してやろう。なんなら今からでも証明できる」


 俺がそう言うとアリスがゆっくりと顔を上げた。その顔は口が裂けていた。


「食べることに夢中で気づいたらいつの間にか…」


 ウゥッとアリスが啜り泣いた後「これでも同じことが言えますか?」と、言ってきた。

 顔に傷がつくなんて相当ショックだったろうな。どうやって慰めていいかなんて正直俺には分からん。だから、ただただ今俺が思ってる事を言おう。


「アリスはっきり言おう。余裕でエッチしたいね。これを見ろ!」


 俺はパンツごとズボンを下ろし仁王立ちをした。アリスが口元を手で抑えながら俺のソレを凝視した。


「ここは最近は全くそう言う事をしてないから、したくてしたくてたまらないね。もう我慢ならん。早くこんなとこから出てとりあえず一発やろう!」


「で、でも…」


「でもは無しだ!アリスは俺とエッチな事したく無いか?」


 途端にアリスの髪が赤く輝き出す。


「し、したいです…」


 恥ずかしかったのか、また顔を隠し体を縮こまらせた。そんなアリスに今一度手を差し出す。


「俺がアリスをここから出す。絶対に出すから信じてくれ」


「はい」


 アリスが俺の手を取って立ち上がった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る