第83話
誰かに頭を撫でられている。後頭部には柔らかな感触。何故だかとても安らぐ。俺はとてつもない大怪我をしていた筈だ。なのに体に痛みはない。まさか死んで天国にでも行ったか?いや違うな。
まるで眠りから覚めた様に俺は目を開けた。俺の顔を覗き込む様にして見ていたアリスと目があう。どうやら俺は膝枕をされていたようだ。しかもアリスは服を着ていないから生膝枕だ。
「いつもありがとう、アリス」
目があったアリスに礼を言う。モン娘化しているのだが少し見た目が変わっただろうか?でこに生えた角がちょっとイカつい。それに頬に少し血がついてる。
「いえ、いつも間に合ってないです。今回だってナツ君は酷い怪我を…」
アリスは少し物悲しそうに眉を曲げた。
「いやいつも紙一重のところで助かってるのはアリスのおかげだよ」
そう言って俺はアリスの頬に手を当て血を親指で擦る。
「ここにいたモンスター…もしかして倒した?」
俺はいまだにあの人型の化け物がいたフロアにいるようだ。少し土埃がたっていて分かりづらいが化け物の姿は見えない。
「はい、倒しました」
倒したのか。やっぱすげーなアリス。
「あんなやべー奴と戦わせてごめんな」
「ナツ君の為ならたとえ誰が敵でも私は戦います」
「それ俺がアリスに言いてー」
フフッと二人して笑い合った。
まだまだアリスの膝枕を堪能したかったが、さっきみたいな化け物がいるこんな場所でそんな怠けた事考えている場合じゃない。名残惜しくも俺は立ち上がった。
「人の姿に戻れそう?みんな心配してるだろうから帰ろうか」
アリスは伏目がち座ったままだ。
「一度ルードラで脱出を試みたんです」
モン娘のままでか
「それはまぁリスキーな事したね」
コクンとアリスが頷いた。
「でも駄目でした」
「どう言う事?」
俺は首を傾げた。でもなんとなく予感はしている。
「ダンジョンから出られないんです。多分私が魔物だから…」
「そっかぁ…」
やっぱりかぁと言わんばかりに呟いた。ウツツがアリスをダンジョンに連れて行くなって言っていたから何かあるんだろうなとは思っていたが、ダンジョンに幽閉かぁ。
でも、脱出する方法はある筈だ。実際、今の今までアリスはダンジョンの外で生活をしていた。ウツツなら何か知っているかもしれない。
「とりあえずダンジョンの入り口まで一緒行ってみよう」
アリスが首肯したので共に入り口まで向かったのだが「これ以上は行けません」と、アリスは立ち止まった。
「なんか根性で行けたりしない?」
「いえ、透明な壁があります」
アリスは目の前にあるであろう透明な壁に手を当てグッと前に押し出すように力を入れたが、びくともしない様子だった。確かにこれでは進めそうにない。
「ウツツに色々聞いてみるよ。二人でダンジョンから出る方法を模索しようぜ。長期戦になるかもだから飯を毎日持ってくるよ」
「私の事は気にしないでください。学校だってあります。重荷になるくらいなら最悪…」
アリスは俺に顔を見られないよう、ググッと大きく俯いた。
そんなアリスを見て少し感傷的になってしまう。勇気づけなければ。
「学校なんてほとんどサボってるし気にしなくていいよ。それにアリスのためならたとえ何が起ころうと俺は諦めないし挫けないよ」
俺は最高の決め顔で言った。
さっきのアリスの「ナツ君の為なら──」というセリフを意識して言ったのだが恥ずかしくなって最後に「なんてね」と、照れ笑いをしながら付け加えた。
アリスは顔を上げ目に浮かべた涙を拭うと
「嬉しいです」
と、小さく笑いながら言った。
絶対にアリスをダンジョンから出すんだ。
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