第82話

 事前に聞いていた話と違う。アレはスフィンクスではなく人型の化け物だ。何かイレギュラーが生じたに違いない、メロンちゃんなら何か知ってるかも。


「メロンちゃんあの化け物は?」


「あ、あんなモンスター、み…見た事がない…」


 緊張からか声を震わせながらメロンちゃんが答えた。

 見た事がないモンスター最近そんな話をウツツから聞いた気がする。ウツツの体を殺したモンスターだ。メロンちゃんがゲームをやり込んだおらず、あのモンスターを知らないだけという可能性もあるが今はそんな事どうでもいい。

 

「ルードラでダンジョンから出よう!」


 俺が言った瞬間、人型の化け物が絶叫した。まるで恐怖心を焚き付けてくる様な金切り声。耳を手で抑えようとしたが体が全く動かない。拘束魔法バーインドとは違う。自らの意思で動く事を拒否している様な感覚だ。ここで動いたら殺される、そんな予感を体全身で感じ身を硬直させている。まるで蛇に何か睨まれたネズミだ。徐々に恐怖心も膨らんでいき何も考えられなくなってしまいそうな状態に陥りそうになる。

 このままじゃ不味い。もしこれが状態異常であるならば俺ならどうにかできる。転生者スキルを発動し体が動くのを確認した後、俺は後方をチラッと見た。


「誰か魔法は使えそう?」


 後ろの三人に問いかけたがなんの返事も返ってこない。先程俺がかかっていた状態異常にみんなかかっているんだ。誰か一人だけでもいい、動ける様になるまで俺が時間を稼がなければ。

 剣を抜き構えた。

 ここは先手必勝、殺す気でいく。


 「刃魔十画」


 対象を化け物に定め、剣を十回高速で振る。空を切った筈の剣は何故か対象を切り裂く。化け物の纏っている白い布が赤く染まっていく。これはやったか?

 しかしケタケタと化け物から笑い声が聞こえてくる。

 どこからこの声を発してんだよ。

 焦りを募らせた俺は次は頭部のみに狙いを定めて刃魔十画を撃った。化け物の頭部に切れ目が入り、バラバラに崩れ落ちそうになるが途中でピタッ止まり時が巻き戻るかの様に再生していく。

 俺の攻撃自体は通っているけどとんでもない再生力を待っているからダメージにはなっていない。

 攻撃力だ、攻撃力が足りてない。攻撃力さえあれば時間稼ぎと言わず倒す事ができる。刃魔十画を十回で止めず無限に振る事ができたら勝てる。ゲーム内だとプログラム上できないだろうがここは生身の体がある現実だ。出来ないはずがない。

 化け物の両腕が黒く変形し鎌の形になる。遂に攻撃してくる気だ。その前に叩き込んでやる。


「刃魔千画じゃぁぁ、ウォォォォォ」


 雄叫びと共に俺は剣を一心不乱な振り続けた。が、化け物の体が鉄色になり俺が剣を振るたびガキィンと甲高い音を響かせるようになった。

 まさか防御力が上がったのか?それでも俺は剣を振るのをやめねぇ。

 そう思っていたが化け物が一気に俺に詰めてくる。刃魔十画を撃つのをやめ化け物の鎌を受け止めるがあまりの力に後方三人の頭上を超え大きく吹き飛ばされてしまう。

 背中を強打しクソ痛いが悠長な事している場合じゃない。早く立ち上がらねば。追撃がくる。

 しかし化け物は動けないメリーの前に立ち鎌を振り上げていた。


「クソッ!」


 俺は走り出した。だけど到底間に合うような距離じゃない。刃魔十画も効かない。このままじゃメリーは死ぬ。どうすれば。


「メリー!」


 キングゥが叫びながらメリーに飛びかかり鎌の攻撃を回避する。動ける様になったのか。間一髪だ。


「このダンジョンから脱出するヤーナツも早く来い」


 ルードラを使う気だ。だけど俺はルードラの範囲対象外だ。


「無理だ。三人だけで逃げてくれ!」


 キングゥが俺から目を逸らすと一瞬にしてメリー、メロンちゃんと共に姿を消した。

 これでこの部屋には俺と化け物の二人だけか。遂に俺は死んでしまうのか?ウツツあたりが息返してくれないだろうか。

 諦め半分だが黙ってやられるつもりはない。化け物を見据え剣を構える。


「アソビスギタ」


 不意に化け物が喋り出す。一体どこから声を出しているんやら。とりあえず対話を試みてみるか。


「喋れるんだな。俺を見逃してくれないか」


「シネ」


 化け物が鎌になった右腕を振り斬撃を俺に飛ばしてくる。斬撃は俺の持つ剣を真っ二つにし俺の体に直撃した。だけど服が裂けただけで特にダメージはない。これも転生者スキルのおかげか?


「俺もお前の攻撃が効かない様だしもう辞めようぜ」


 しかし俺の呼びかけ虚しく化け物は自分の正面に魔法陣を展開し腕を鎌から槍に形を変えた。身構えるが剣も折れちゃったし正直絶望感しかない。

 化け物が魔法陣に槍を刺す。

 不意に背中に痛みが走った。首を回して確認すると俺の背後には魔法陣が展開されており背中には槍が刺さっていた。俺の腹まで槍は突き抜けそして引き抜かれた。

 腹を抑え倒れる。


「ナツ君!」


 アリス声が聞こえる。これは幻聴か?

 絶大な戦闘音の中俺の意識は完全に途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る