第78話

 どうやら今、人類は知らぬ間に未曾有の危機に立たされているらしい。それを知ってるのはこの世界の元となったゲームを知ってる転生者とメリーそれと俺とイチカさんぐらいだろうか。

 なんでもこの世界にあるダンジョンと呼ばれる謎の建造物のような、はたまた洞窟のような場所、これが人類滅亡に関係しているらしい。このダンジョンは異世界と繋がっているらしくその世界の化け物共を留めておく役割を持っていると俺は勝手に解釈している。

 しかしその留めておく機能が徐々に弱まっており今にも異世界の化け物が溢れ出して来そうになっているという状況だ。

 そんな留めておく機能を復元すべく俺はメリーを連れてダンジョンに来ていた。ついでにメロンちゃんと攻略対象であるキングゥも一緒だ。何故キングゥかっていうとただの消去法だ。俺がダンジョンに行かないかと誘うと有無を言わさず断られたが、メリーも来る事を伝えると一転、即座にオーケーをもらえた。

 アリスは何をしているかというとダンジョンの外で待機している。ダンジョンに入ったら駄目だから来なくてもいいよと言ったのだが、いつキョウが襲ってくるか分からないとついて来てくれたのだ。

 アリスの為にも早くダンジョンを攻略してしまいたい。俺たちは警戒を怠ることなくダンジョンを進む。

 第二のダンジョン。森林型のこのダンジョンは太陽を覆い隠す程木々が密集しており若干暗めの獣道を進まなければならない。

 出てくるモンスターはでかい虫や植物系の化け物といった自然由来の奴らばかりだ。

 今も俺たちの目の前にちょっと背の高い切り株の化け物が立ちはだかっていた。


「俺が行く」


 俺は剣を構え前に出る。レベルが高いであろう俺がみんなを引っ張らなければ。転生者能力も発動し状態異常対策もバッチリだ。

 俺は剣を振りかぶりながら前進し、切り株の化け物に向かって思いっきり剣を振り下ろす。カッと音がし切り株を真っ二つ…とは行かずちょっと刃が入った程度で受け止められてしまう。

 硬い余裕で硬い。こんなん真っ二つなんて無理な話なんすわ。剣が折れなくて良かった。

 ニタァッと切り株の化け物が笑う。攻撃が来ると察知した俺は切り株の化け物から剣を引っこ抜こうとしたがなかなか引き抜けず、もたもたしてる間に切り株の化け物の木の蔦攻撃を喰らってしまう。そのまま吹き飛びメリー達の足元に無事着地。


「痛い、めちゃくちゃ痛い。やっぱ俺なんかがダンジョンになんて来るべきじゃなかったんだ」


 泣いて弱音を吐く。

 ここは第二のダンジョンでストーリーで言えば序盤も序盤だろ。レベル六十の俺がこんなあっさりやられるなんて、悲しいや。


「お前、オウミを倒し学校最強になったんじゃないのか。情けないぞ」


 キングゥが呆れ半分で言ってくる。それと同時にメロンちゃんが俺の側で膝をつき回復魔法をかけてくれる。が、すぐに首を傾げ「回復魔法が…全然…効いてない」と、ちっさい声で独り言を呟いた。

 それが耳に入ったのかキングゥがため息をつき


「先が思いやられるな」


 と、いうと剣を抜きあっさりと切り株の化け物を倒してしまった。チラチラとアリスの様子を伺うようにこちらを何度も見てくる。

 まるで俺は引き立て役だ。そう思った時、俺はある事を閃く。


「いやぁ、流石殿下だなぁ。イケメンで腕っぷしもある。しかも生まれもいい。有料物件すぎて言い寄ってくる女性も数知れずだろうなぁ。あの人の寵愛を受けたらどれ程幸せなことか」


 チラッとメリーを見る。メリーのキングゥに対する態度ははっきり言うと素っ気ないだ。ならばここは俺が恋のキューピッドになり、ストーリーを正しく導こうじゃないか。

 なんかメロンちゃんも俺の事を回復しながら首を縦に振ってくれている。まさかメロンちゃんはキングゥ狙いか?

 え、どうしよう。応援してあげたいけど流石にゲームストーリーを重視したほうがいいよな。


「メロンあの王子様が好きなの?」


 俺が気になっている事をメリーが切り出してくれる。メロンちゃんは否定するかのように首を激しく横に振るが、逆にその様が怪しく見える。『べ、別に姉ちゃんの事なんか好きじゃねーし』と、言っていた中学生の時の俺を思い出す。

 メリーも俺と同じ考えだったのか、怪しいと言わんばかりにメロンちゃんをジト目でジッと見つめた。


「何をしているんだ?」


 そこへキングゥが戻ってくる。

 

「い、いやぁべっつにー。特になんもしてないですよ。な、メリー」


 ここでメロンちゃんの恋心を晒す訳にはいかないと俺は慌てて取り繕う。


「うん、面白そうな事なんて何もない」


 ちょっと言動に怪しさがあるがメリーもちゃんと俺に乗っかってくれる。これでメロンちゃんの恋心は守られた。俺は恋のキューピッドだけでなく乙女を守る恋の守護者でもあったのだ。


「まさかお前メリーに何かしたんじゃないだろうな」


 が、しかし得意げになっている俺を尚も訝しげな表情で見てくるキングゥ。

 メリーの事となると執拗に把握しようとしたがるから面倒くさいんだよなぁ。彼氏でもないくせに彼氏面しやがって。ここは適当にあしらっておくか。


「そんな事より俺の怪我全然治んないから三人でダンジョンの深部まで行って来なよ」


 メロンちゃんが小さな声で「ごめん…なさい」と言った。

 なんかメロンちゃんに悪い事をしてしまったが、キングゥ面倒くさいし、ダンジョン怖いし、普通に怪我がめちゃくちゃ痛いしここは致し方なし。俺はここで離脱してアリスとポケーっとしとこう。もしメリー達に危険が及んだらルードラでダンジョンを抜け出すだろう。

 おれが腹部を抑えながら立ち上がるとメリーが「あ!」と、何か閃いた様な声を出した。

 

「私ヤーナツを送る。だからメロンは王子様と二人でいて」


 メリーがキラーンとメロンちゃんに向けて親指を立てた。コイツ、恋のキューピッドになろうとしてやがる。

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