第77話

 俺とアリスは転移魔法でウツツの隠れ家まで来ていた。転移した瞬間、体の内側から気持ち悪さが込み上げてくる。それはアリスも同様だったらしく呻き声をあげ胸を抑えながら地面に膝をついていた。

 これはウツツの混沌魔法だ。すぐさま状態異常が効かなくなる能力を発動させる。調子を取り戻した俺はアリスの背中をさすった。


「アリスは先に戻ってて」


「でも…」


 顔が真っ青で苦しそうだ。


「大丈夫、ウツツとは割と長い付き合いだし話が済んだらすぐに帰るよ」


 と、言っても俺は転移魔法を使えないからすぐに帰るなんて事はできないけど。


「後で向かいに来ます」


 そう言うとアリスは転移魔法で帰って行った。

 よし俺もちゃっちゃと用事を済ませよう。


「おーいウツツーいるかーい」


 ウツツの隠れ家に向かって大きな声で叫ぶ。少し間が空いた後、ガチャリと扉が開きウツツの体こと彼女が俺に飛びついてくる。

 俺は抱き止めじゃれてくる大型犬を雑に撫でるようによしよしと彼女の背中を撫で回した。


「元気にしてたか?」


 聞こえてはいないだろうがなんとなく言ってみる。

 彼女は今にもワンと鳴きそうな程俺に体を擦り寄せてくる。いつもは裸だが、今日は黒いパーカーを着ている。それでも彼女の柔らかさは健在だ。

 一頻り彼女と戯れ俺はウツツの隠れ家へとお邪魔する。


「おーいウツツーいるなら返事をしておくれー」


 しかし応答はない。どうやら不在のようだ。ここは大人しく待たせてもらいますか。

 彼女とたわむれ時間を潰す。


「やっぱりお前か。俺の体にちょっかいだしてるのは。とっとと離れやがれ」


 一分も経たないうちにウツツが転移魔法でやってくる。睨まれているが、すごむだけ特に何かしてくるわけでもない。俺は彼女と戯れながらウツツの方に向き直る。


「実は話があってさ。ウツツの体を殺した奴を見つけたかもしれない」


「なんだお前、アレに会ったのか。よく生きてたな」


 あ、これ、だれが自分の体を殺したのか分かってる感じだ!


「うん、アレねアレ。そうそうアレアレ。ちなみに聞くけどアレって誰?」


「アレの話じゃないのか。お前の言っている俺の体を殺した奴ってんのは誰だ」


「キョウていう白髪の男だよ。レベル九十はあるらしい」


「ソイツが俺の体を殺したと思ったわけか。お前、ソイツと敵対してるな。俺にソイツを殺して欲しいんだろ」


 見透かされてる。

 誰かに誰かを殺してもらうなんて日本にいたんじゃ考えられない事だ。まるで極悪人になった気分だ。俺はそんな奴じゃ無いと、取り繕いたくなる。だけど背に腹は変えられない。自分の命が最優先だ。


「ウツツがどうにかしてくれるっていう淡い期待はあるよ。ウツツの体も蘇したしね」


 ウツツが顰めっ面で舌打ちをつく。


「首が繋がってたら恩義でも感じてたかもな。まぁいい、ソイツには俺も聞きたいことがあるしそのついでに殺しといてやるよ。だからソイツの事色々教えやがれ」


 俺は頷きキョウについて知っている事を全て話した。転生者である事、鑑定という転生者スキルを持っている事、イチカさんの事、向こうの世界に帰れるって嘘をついている事、ついでに殺されかけた事も話した。


「そのイチカって奴も俺が殺す。文句はないな」


 俺は渋々首を縦に振った。

 イチカさんが敵かどうかは確信が無い。もしイチカさんもキョウに騙されているのならウツツとは相対しないように俺が立ち回らなければ。


「ソイツの居場所は知ってんのか?」


「いや知らん」


 チッ、とまたもウツツが舌打ちをつく。


「せめて居場所くらい把握しとけよ。使えない奴だな」


 吐き捨てるようにそう言った後、ウツツは「黒猫」と、呟いた。


「これでお前が襲われてもすぐに分かる。後はお前を餌にキョウって奴が現れんのを待つだけだ」


 襲われたらわかるって、まさか常時監視されてる?


「もしかして俺のプライベート筒抜け?」


「だったらなんだよ」


「俺が変な事してても見て見ぬ振りしてあげてね」


 泣く泣く受け入れるしか無い。ウツツだって俺の私生活が見たいわけじゃ無い。背に腹は変えられない。全部自分の命の為だ。


「泣くんじゃねぇ。気持ち悪りぃ奴だな。泣くぐらいだったらとっとと帰りやがれ」


「ちょっと待って。ウツツを殺したのは結局誰なん?」


 ウツツとキョウ以上に危険な人物と言ってもいいだろう。これを聞かないことには帰れない。


「見た事もねぇ化け物だ」


「ゲームにもいないって事?」


「あぁ、ストーリーの進行が遅すぎてダンジョンの外の化け物が漏れ出て来やがったんだ」


「そんな俺の膀胱じゃないんだから」


 と、面白おかしく冗談で返したが内心大ビビリである。


「そんなくだらねぇ事言ってる場合じゃねぇよ。ま、お前は大丈夫か。同じバケモンのアリスがついてるからな」


 ウツツの嫌味に反応できない程俺は焦っていた。

 俺がメリーのダンジョン攻略を阻止していたからだ。俺の責任だ。


「一緒にダンジョンに潜るしかないかぁ」


 ため息混じりにそんな言葉が口から漏れ出ていた。


「主人公とダンジョンに潜るつもりか?なら忠告しといてやるよ。アリスはダンジョンに連れて行くなよ、アリスと離れたくないならな」

 

「え、どうして?」


 と、俺は聞き返す。

 アリス抜きでダンジョンの潜るのは怖いからな、それ相応の理由がなくばアリスは連れて行きたい。


「いいから黙って俺の言うことに従っとけ」


 気になる事言うだけで言って教えてくれないなんて酷い男。だけどここは素直に従っとくか。


「分かったよ。じゃあもうそろそろ帰るよ。アリスも心配してるだろうし。ルードラで送ってくんね?」


 一応ウツツに送ってもらえるか聞いてみる。


「なんでお前を送らなきゃなんねぇんだよ。それにもう魔法が使える程魔力が残ってねぇよ」


「ほなら仕方ないか。アリスが向かいにくるの待つか。それまで俺のけつ穴を守れるだろうか」


「は?お前、それどういう意味だよ」


 そうかウツツの位置から見えてないのか。

 俺は体を回転させウツツに背中を見せる。俺の背中にはピタッとウツツの体こと彼女が張り付いており、腰を物凄い勢いで振っていた。もちろんズボンはその辺に脱ぎ捨てていた。プリケツが可愛くて叩きたくなっちゃうぜ。


「クソが!ルードラ使ってやるから棚の上のポーションを俺にかけやがれ」


 やったぜ。送って貰えそうだ。

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