第75話メロン視点

 ゲーム内では無いオウミとヤーナツの決闘。

 絶対にヤーナツが負けると思っていた。転生者のバックがいようと、ヤーナツ自身が転生者だろうと関係ない。ヤーナツとオウミとじゃ基礎能力値が違うのだ。密かにヤーナツの事を応援していたが、勝てはしないだろうと諦め半分でもいた。だから会場に応援に行くなんて事はしなかった。部屋でヤーナツの事を気にしながら悶々と過ごした。

 メリーはどんな気持ちで二人の戦いを見ているのだろうか。あの日、オウミに連れられメリーと初心者用ダンジョンに潜った日以来、メリーとは喋っていない。何があったのかパタリと絡みがなくなった。寂しかったが、これでいいんだと自分に言い聞かせて話しかけるなんてことはしなかった。

 ひとりぼっちには慣れっ子だから大丈夫だ。いじめさえ酷くならなければ私は大丈夫。

 その日の夜私は夢を見た。現実世界の夢。私が少しだけ通っていた高校の制服をヤーナツとメリーそして私が着ていた。私の机に集まって冗談を交えながら会話する、そんな夢。私はあの二人といるのが楽しかったんだ。現実世界で過ごせなかった学生生活をあの二人と過ごしたかったんだ。

 次の日、朝起きて憂鬱な気分のまま学校に登校する。教室に入ればまた心無い言葉が飛んできたり、運が悪ければスキンシップという名の軽い暴力を受ける。今まではメリーに強引に連れられ授業をサボっていたが、一人だとそんな度胸は湧かない。

 だから私は今日はいじめられませんように、と祈りながら教室に入る。一直線に自分の席に向かい荷物を整理する。今の所平穏だ。みんなグループになって談笑をしている。チラッと何人かの生徒に見られたりはしているが、陰口なら比較的に優しい部類だ。


「ねぇあんたヤーナツが最後に放った技知ってる?」


 突然一人の女生徒が近づいてきてそう尋ねてくる。多分昨日の決闘の事を言っているのはだろうが、見ていなかったので首をふるふると横に振った。


「は?あんたヤーナツと仲がいいんじゃなかったの?使えな」


 そう言って女生徒は私から離れて行った。何もされなかったのでホッと胸を撫で下ろす。

 にしても最後に放った技か。ジバシリまたはチンスラ、もしくはファイアのどれかだろうか?なんだか昨日の決闘の結果が気になってきた。ヤーナツは無事だろうか。

 耳をすませば周りの生徒達も昨日の事を話している。中には興奮している生徒もいる。

 オウミとヤーナツの決闘なんて一瞬で終わって白けるもんだと思っていたが、まさか昨日の今日まで熱が残っているなんて、ヤーナツは善戦でもしたのだろうか。気になってしまって落ち着かない。

 聞き耳を立ててみるがオウミを下げるような発言は聞こえてくるが決闘の内容までは分からない。だけどこの感じもしかしたらヤーナツが─────

 その時私の肩を誰かが叩く。振り返ると無表情のメリーが立っていた。


「見つけた。次はヤーナツ」


 そう言うとメリーは私の手を引いて歩き出した。それから小一時間程私たちは学校中を歩き回った。授業が始まってもお構いなくヤーナツを探し回った。けどどこにもおらずそこら辺で腰を下ろし一息つくことにした。


「な、なんか、懐かしい…ね」


 メリーとこんな感じで過ごすのは久しぶりだったから、嬉しくなって話しかけてしまう。


「メロン寂しかった?」


 素直にうん、と頷いた。


「オウミにメロンと関わるなって言われた。オウミの言う事には逆らえない。でもそれももう終わった」


 いまいち要領のつかめない話だ。


「…終わった?」


 と、復唱する形で聞き返す。


「うん終わった。これからはメロンと居られる」


 どうやらオウム返しで聞き返しても意味はないようだ。


「な、なにが…あったの?」


「ヤーナツがオウミに勝って、オウミが部屋に篭るようになった」


「え!か、勝ったの!」


 驚きのあまりついつい大きな声を出してしまう。


「うん勝った。凄かった」


 もしかしたらとは思ったが、本当に勝ったんだ。どうやって勝ったのかも気になるし見に行けば良かった。

 急にメリーが「あ!」と、何かを発見したような声を出す。


「あそこヤーナツ。走ってる」


 スッとメリーが指を差した先にはヤーナツがいた。私達に気づく様子もなく走っている。オウミの勝った今も慢心する事なく体を鍛えているようだ。


「行こ、メロン」


 メリーが立ち上がり私に手を差し伸べてくる。私は「うん!」と、元気よく頷いてその手をとった。そのまま二人でヤーナツを追いかけた。

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