第74話
騎士団の人と聞いて変に身構えてしまう。
「そんなに警戒しなくてもいい。何もアリス嬢を捕まえようって訳じゃない。どうやら回復魔法も使えるようだし悪魔である疑いは完全に晴れた」
「あ、そうなんすね。じゃあ僕たちはこれで失礼してもいいですか?」
騎士団って言ってしまえば警察みたいなもんだよな。別にやましい事をした訳じゃないが、目の前にいる男が警察って考えると何故か素っ気ない対応になってしまう。すぐにこの男の前から去りたいなと思う自分がいる。何で何だろ?
「悪魔じゃなかったからと言ってそれで解決というわけでもないんだ。色々聴かないといけない事があってね。君はヤーナツ君だね?」
不意に名前を呼ばれドキッとしてしまう。まさか俺、目つけられてる?
「そ、そっすけど。え、何で僕の名前を?」
動揺を隠せず不審者全開な感じで答えてしまう。そんな俺を見て騎士団の男がふふっとわらう。
「そう緊張しなさんな。君は過去に悪魔団に襲われた事があるね。当時の事を少し教えてもらいたくてね。本来、こういう事情聴取は個別に行うものだが、私も忙しいし二人いっぺん済ませてしまうとしよう。そっちの方が君たちにとってもいいだろ」
願ってもない申し出だが裏がありそうでなんか怖い。チラッとアリスと顔を合わせる。アリスもなんか不安そうだ。
「そう警戒しないでくれると嬉しいんだがな。裏がないというと嘘になるが、包み隠さず言うと君に恩を売っておきたくてね」
そんな事言われるとますますこわいよぉ。一応「恩ですか…」と聞き返す。
「先程の試合を見ててね。素晴らしかったよ。特に最後の技。見た事がないから断言はできないがアレは刃魔だね。まるでマスタームーンの再来だ」
「いやぁ、それ程でも…てへへ」
ふやけた顔で後ろ頭を掻く。
こんないい人を警戒してたなんて俺は見る目がないなぁ。
「そんな君の力をいつか借りる時が来るかもしれない。特に最近は不可解な事がよく起こる。だから今のうちに君に恩を売っておこうと思ってね」
え、力を借りるってなんか危ない事でもさせられるのかな。褒められて浮かれてたけど、この人俺の事を買い被ってる。でも折角、融通をきかせてくれてるのだ。ここは素直に頷いておこう。
「なる程、わかりました。俺は悪魔団に襲われた時の事を話せばいいんですね?」
「取り敢えず落ち着いて話ができる所に行こうか」
そうして俺たち三人は移動した訳だが、何故か俺の部屋で事情聴取する事になった。これも俺達の事を慮っての事だろうか。
事情聴取の内容はアリスの家と悪魔団の関係性だとか、アリスの母についてだとか、俺が襲われた当時の状況とその理由は何かとかそんなものだった。アリスも俺も特に嘘とかはつかず淡々と無難に答えた。唯一嘘というか、黙っていた事はウツツの存在だ。
そして二時間もしないうちに騎士団の人は帰って行った。案外すんなりと終わって驚きである。
その後アリスは「お父様とお母様が心配です」と、転移魔法で実家に帰り、すぐに帰ってきた。俺がどうだったか尋ねると
「監視の目があるかもしれないからルードラは使わず学校の寮で大人しくしていなさいと言われました」
と、言った。
この感じじゃ当分ウツツにキョウの事を報告できそうにないな。なんかちょっと心細い。
その後アリスの母に国からのお咎めはなかった。特に悪い事はしてなかったので悪魔だからと罪に裁かれる事はないらしい。が、アリスの家はどうやら分家らしく今回の騒動で大層怒った本家がアリスの親から地位を剥奪してしまった。今は用意された屋敷でこじんまりと暮らしているらしい。アリスの母はその屋敷の敷地内から出る事は許されずその事をアリスは悲しがっていた。
当のアリスはというと今は本家の方に身を寄せており、今までとなんら変わらない生活を送っている。アリスの父が学校だけは卒業させたいと本家の人に頭を下げたらしい。
本来だったら血の繋がりのないアリスを引き取るなんてあり得ない話だが、何故だかアリスの叔父である本家当主は了承してくれたらしい。なんでも最初は渋っていたらしいが、アリスと俺の仲がいいと知るとすんなりと手のひらを返したらしい。
俺にめちゃくちゃ会いたがっているらしくアリスの為にも今度顔を出す事になった。もう既に憂鬱である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます