第73話
二つの技を極めた者のみが使える最強の一振り。神速のその一振りは対象そのものを斬ることができる。ある程度の物理的な距離を無視し、一切の障害物も意味をなさない。防御する事も回避する事もできない。そんな一振りを十連続まで行う事ができる。
オウミとの決闘前、リアがこの技を見た時
『人に使うもんじゃないわね』
と、呆れたようにそれでいてどこか誇らしげに呟いた。この闘技場に来る前もオウミには使うなと何度も念を押してきた。だから今の今までこの技は使わなかった。
現在俺の眼前には二体の巨人がいる。火と風の巨人。
リアから聞いた話だと召喚魔法とは名ばかりで、ただ炎と風を巨人に見立ててるらしい。だけどキャラ固有の魔法だけあってその威力は凄まじいらしい。
炎が風に煽られ熱風が闘技場全体に吹き荒れる。観戦席から悲鳴が響く中、俺はジッと二体の巨人を見据えた。
「おいおい、そんな焦げた剣で何をするつもりだ!」
先程の怯えた態度とは打って変わってニンマリとイケメンが台無しになる程顔を歪めて笑っている。そんなオウミを無視して剣を頭上に掲げる。
フーッ大きく息を吐き一息に剣を振る。
「
超高速の四連斬が空を斬る。
「ハハッ。お前こんな時に素振りか?そんな事してないで逃げた方がいいんじゃないか!なぁ!」
心底おかしいといった感じ高笑いもするオウミから一瞬にして笑顔が消える。
「なんで…なんで俺の魔法が斬られてるんだよ!」
オウミが巨人を見上げ叫ぶ。
二体の巨人は十字に綺麗に斬られ、そのまま形を維持する事ができずただの風と炎になり空へと霧散していく。
ウォォっとから大きな歓声が上がる。そんな観戦席をオウミが「なんだこれ、なんだよこれ」と今にも泣きそうな顔で見回し、最後に「冗談じゃねぇ」と吐き捨てる様に言ってアリーナを後にした。
これは俺が勝ったって事でいいよな?これは分かりやすく腕を上げて勝利アピールでもした方がいいだろうか?それとも勝ち名乗り?みたいなものでもあるのだろうか?いや正直、全身火傷しててそんな事してる余裕がない。アリスと所に戻ろう。それで勝利の報告をしつつ火傷を治してもらおう。
転生者能力を解き、元来た入場口まで歩いて行くとそこにはアリスが立っていた。
「アリス俺勝ったよ」
強がってピースなんかしてみる。
「はい。今傷を治しますね」
アリスが俺の体に手を当てるとファーッと緑色の光が俺を包んだ。みるみる内に痛みが引いていく。
やっぱアリスの回復魔法はすげーや。
ちょっとして火傷が完全に治るとアリスが俺に抱きついてきた。
「とても心配しました。何度も助けに行きそうになりました。もうこんな事が起こらないように私────」
アリスが言ってる途中でちょっとちょっと、とアリスの背中を叩き中断させる。
「後ろ、人がいる」
「本当ですか?」
「うん」
俺が頷くとアリスは俺から離れ、顔を真っ赤にしながら俯いた。
アリスは人の気配に敏感だからそれに気づかないほど俺の事を心配してくれてたんだな。嬉しい限りだ、うん。
そんな事はさておき、アリスの後ろには白髪がチラホラ生えた男が立っている。その男は鎧を着込んでおり、よくここまで物音立てず近づけたなと不思議に思ってしまう。
「すまないね、邪魔をしたみたいで」
渋い声で俺たちに謝罪してくる。
「いえ、そのどちら様ですか?」
「私は騎士団のものだ。そこのアリス嬢に用があってね」
騎士団…アリスの母を連行した人達だ。悪魔の疑いがあるアリスを捕らえに来たんだ。
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