第71話
ドドンッと俺たちの前に悠然と立ちはだかるオウミ。隣にはしっかりとメリーもつれている。
「なんの用だい」
と、毅然とした態度で俺は聞いた。
「アリスさんは悪魔の疑いがあります。騎士団が来るまで学校側が身柄を拘束するそうなのでこちらに引き渡しなさい」
全く、疑いがあるなんて嫌らしい言い方しやがって。ここで拒否してしまえばそれこそ容疑者を庇う行為である。
アリスは悪魔じゃない、引き渡してもそれが証明されるだけだろうが、オウミは転生者だ。もしかしたらオウミはアリスが人どころか悪魔ではない事もバラすかもしれない。
そんな事を考えていると、スッとアリスが俺の手から離れオウミの方へ行こうとする。俺を巻き込むまいとアリスも意を決して行動してくれているのだ。
そんなアリスの意地らしい姿を見て俺も感情の赴くまま行動しようと決意する。
グッとオウミの方へ行くアリスの手を引きオウミに向き直る。
「誰が引き渡すもんかバーカ」
舌をレロレロと出しあからさまにオウミを馬鹿にする言動をとる。
オウミが眉毛をピクッと動かし苛立たしげな表情をした後「ウィンド」と、唱え腕を振り下ろした。風の刃が俺に襲いかかる。
すぐにアリスが俺の前に立つと風の刃を魔法で難なく防いだ。
「大人しく従います。大人しく従いますからナツ君に危害を加えないでください」
「いやアリス従わなくていい。アリスがどっかに行ったら誰がキョウから俺を守るんだ」
「でも」と言うアリスを遮りオウミが
「キョウというのがあの時の女ですか?」
と、聞いてくる。多分あの時の女というのメリーを拉致しようとしたイチカさんの事だ。
「教える代わりに一つ聞かせてほしい。アリスの母が連行されたのはオウミ君の仕業か?」
「どうでしょうね。仮に私の仕業だとしたらそれはあなたのせいでしょうね」
「なんで俺のせいなんだ?」
「あなたが決闘に来なかったからですよ」
そんな理由かー。しょうもねー。でも、俺のせいでアリスが窮地に立たされている。せめてアリスがモンスター娘だという事だけはバラされない様にしなくては。
「あの時の事全部教えるから金輪際アリスと俺に関知しないでくれ」
「いいでしょう。あなたが勝ったあかつきにはその約束守ってあげましょう」
は?
「ちょっと待った。なんだよ勝ったあかつきにはって」
「決まっているでしょう。決闘です」
マジか。どんだけ俺の事嬲りたいんだよ。教えるって言ってんだから黙って教えてもらっとけよ。
アリスが俺の腕を引く。
「こんなの受ける必要ありません」
「受けるよ。俺が考えなしに取った行動のせいでアリスにしわ寄せがいっている。だからちゃんと自分で清算しなきゃいけないんだ。大丈夫勝つから応援しててくれ」
かっこよく宣言してみるが、尚も心配そうな目で俺の事をアリスが見てくる。強さ的な部分を信頼されてなくて男として不甲斐なし。
俺はオウミに向き直る。
「オウミ君もし俺に負けても逆上したりしないでくれよ」
俺が言うとオウミかアッハッハ、と大きな声で笑い始めた。
「面白い冗談だ。その言葉そっくりそのまま返しますよ。暴露合戦なんて此方としても避けたい」
暴露合戦?俺はオウミの事なんて知らない。なのに暴露合戦ってどういう事だ?
「…暴露合戦ってどういう意味?」
聞いてみる。
「惚けても無駄です。そんな事よりも決闘の場に行きますよ」
「え?今から?」
「えぇ。時間を置いてまたあなたに逃げられたくはありません」
「ちょっと待ってくれ。少し時間をくれないか?絶対に逃げないって誓う」
オウミがうーむと喉を唸らせ思案する。
「いいでしょう。アリスさんがいる限り常に監視の目はあります。逃げたくてもそう安易とできないでしょう。では二時間後、闘技場で会いましょう」
「行きますよ、メリー」と、メリーに言ってオウミとメリーが去っていく。なんでメリーはオウミの言う事を聞いているんだろうか。おっとそんな事考えてる場合じゃない。急いでリアの元に向かわなければ。
いつもリアがいる室内訓練所にアリスと一緒に向かう。そこにはリアとついでにフレードもいた。
リアが俺たちに気づいたのでよぉッと俺は片手を上げた。リアが顰めっ面で俺たちに近づいてくる。
「今までどこに行ってたんですか?それにアリス様…」
リアが何かを言おうとしたところをちょっと待ったと手で制す。
「オウミと戦うことになった。最強技を撃てる気がするから撃ち方を教えてくれ」
俺はレベル六十と結構高レベルらしいから勝てる気はしているが、念には念を勝算というのは高ければ高い程いい。
「撃ち方を教えてと言われても見たことなんか知りませんよ」
「マジか」
なんの為にジバシリとチンスラを撃ちまくってだんだよ、と内心涙目である。
「撃てると思うなら撃ってみればいいじゃないですか。ここで練習していきますか?」
「よしそうしようかな」
今から二時間、みっちり最強技の練習をした。
そして決闘の時。控室のような場所に俺とアリスはいた。
「オウミさんは風属性の魔法と、それに火属性の魔法を得意としています」
「火属性かぁ…」と、俺は呟いた。
「今からでも遅くありません。この決闘おりるべきです。私の事は気にしなくていいですから」
「そんな事言われるとますますやる気が出るよ。それじゃあそろそろ時間だし行ってくる」
腰に木剣を下げ控室から出、薄暗い廊下を歩きアリーナ一歩手前の出入り口で止まる。歓声が聞こえてくる。どうやら見物客がいるようだ。あんまりそういう場は得意じゃないんだけどな。
フーッと一呼吸置き入場する。円形闘技場から湧き上がる大きな歓声。その轟く歓声少し怯んでしまったが、すぐに目の前の相手を見据えた。
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