第70話
「ヤーナツ、アリスさんと何をしている?今までどこにいた?お前がアリスさんを連れ回していたのか?」
兄であるラウドが矢継ぎ早に俺に質問してくる。
アリスの婚約者たる兄にアリスと手を繋いで所をみられ気まずかったが、それでも俺は手を離さなかった。
「うん。俺が連れ回してたよ」
「そうか。悪いがアリスさんと話がある。少し席を外してくれるか?」
自分の婚約者と弟が手を繋いでるのになんとも思わないのだろうか?思わないか、兄は兄で他の女に現を抜かしているし。
「もしかして悪魔がうんたらって奴?それならアリスは違うよ」
「いいからアリスさんから離れろ。こっちに来い」
言い聞かせるかの様に俺に言ってくる。まるで兄ようだ。
向こうの世界の兄を思い出す。よく「こっちに来い」と言われたモンだ。その時はホイホイついて行ったが今はそういう訳にもいかない。
「行こうアリス」
俺はアリスの手を引いて歩き出す。兄の横を通り抜けようとすると、兄に腕を掴まれ止められてしまう。
「お前何も知らないのか?それとも知っていてアリスさんを庇っているのか?アリスさんが悪魔なのは明白だろ」
兄は何を言っているのだろうか?仮にも婚約者を悪魔呼ばわりするか?アリスがどんどん萎縮していく。かわいそうに。
なんで明白なのか、その理由を聞きたかったが、アリスの為にも一刻も早くこの場から離れたかった。兄の手を振り払い再び歩き出す。そんな俺を、兄が追いかけてきて肩に手を置く。
「待て。待つんだヤーナツ。お前は悪魔に利用されている」
「利用されてるってなんだよ。兄の言ってる意味がマジで分からん。手を退けてくれよ」
「アリスさんを連れ回していると言ったな」
うん、と俺は首を縦に振る。
「姿をくらます為にお前は利用されたんだ。現に今の今まで逃げていたんだろ。何かの拍子でここに戻ってきたが今からまた逃げるんだろ」
途端に兄はアリスの方に顔を向けた。まるで追及する様な物言い。俺はすぐにアリスと兄の間に立った。
「いや逃げないけど」
ていうか逃げるってなんだよ。アリスが悪魔だからって事?なんでアリスが悪魔だって確定したみたいになってんの?全部オウミの仕業か?
「ヤーナツもうアリスさんを庇うのはやめろ。お前まで罪に問われるぞ」
「は?罪?」
罪に問われると言われついつい動揺してしまう。そんな俺を尻目にアリスが一歩前に出た。
「私は悪魔じゃないです。もし悪魔だったとしても、ナツ君は…ヤーナツ君は何も関係ないです」
「取り敢えず弟から離れてくれ。そして金輪際、弟にサンザンベル家に近づくな」
「分かり‥ました」
アリスは今にも泣きそうな声を発しながら俯いた。そのままどこかに行こうとするが握った手を俺は離さなかった。
昔リアが言っていたことが脳裏に過ぎる。悪魔だとバレたアリスは悪役令嬢に首を落とされるんだ。ここで手を離したらいけない気がする。
「ヤーナツ手を離すんだ」
兄が諭す様に言ってくる。
決して離すもんか。
「離す必要はないよ。だってアリスは悪魔じゃないからね」
兄がため息を吐きながら額に手を当てた。
「アリスさんの母が騎士団に連行されたよ。理由はもう分かるだろ。分かったならアリスさんから離れろ」
兄の発言を聞いたアリスが「そんなお母様が…」と呟きながらその場にへたり込んだ。
要するにアリスの母が悪魔だからアリスも悪魔だって兄は言いたいのだ。けどそれはアリスの母とアリスに血の繋がりがあればの話だ。アリスはダンジョンの外から来た存在。そもそも人じゃないんだ。つまり血の繋がりなんか有りはしない。
「なら尚更アリスと離れる必要が無くなったな」
俺の口から血の繋がりがない事を言うのは憚られたのでそれっぽいことだけ言うに留めておく。
「何を言っている!まさか理解できていないのか?アリスさんの母は悪魔だったんだ!」
叫ぶ兄を無視して俺はへたり込むアリスに「立てる?」と、声を掛ける。アリスが謝りながら立とうとするので手を貸す。
「ごめんなさい迷惑かけちゃってごめんなさい」
アリスが声を震わせながら何度も謝る。
「取り敢えず部屋まで戻ろう」
「待て。話を聞いていたのか!これ以上サンザンベル家を貶める様な行為をするな」
尚も俺達の通せん坊をする兄。どうやって兄を退かしたものかと俺が悩んでいるとアリスが
「私とお母様は本当の親子じゃないです」
と、震える声であっさりとカミングアウトした。周りの生徒達が騒つく。兄もガッと目を見開き俺の方を見てくる。
「まさか知っていたのか?」
アリスの言葉だけじゃ信じられないのか俺にも確認を取ってくる。
「知ってたよ。もういいだろ。じゃあ俺とアリスは行くから」
呆気にとられる兄を余所に俺はアリスの手を引いて歩き出した。
寮に戻る途中今度はオウミが俺たちの前に現れた。
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