第65話

「ゆっくり腰でも下ろして話をしようじゃないか」


 そう言って白髪の男、キョウさんが石階段に座ったのでその横、人二人分くらいのスペースを空けて俺も座った。


「なんでイチカさんがいる時に姿をを見せなかったんですか」


 純粋な疑問をぶつける。


「君のためを思ってなんだ。俺達転生者にはゲームのシステムとは違う力が宿されている。君も心当たりがあるだろ?」


 と、言われてもなぁ。そもそもゲームを知らんからなぁ。状態異常を無効化する能力のことかなぁ?確かあれって他にも付加能力があるんだよなぁ?

 顎をイジイジと触り考える。


「あ、イチカと一緒のタイプか!ゲームを知らないんだな。主人公と関わりがあるみたいだったからてっきり知ってるのかと思ってしまった。にしてもゲームキャラに転生したのにゲームを知らないとは…シナリオが破茶滅茶になってしまうな、これは」


 多分もう随分と破茶滅茶になってしまってるんですけどね。


「一応乙女ゲーの世界だって事は知ってるんすよね」


「ほーそっかそっか。成る程成る程。お友達か。その子はいいの?ここに連れてこないで」


 察しがいい。


「帰りたくないみたいなんで」


「そういう子も中にはいるわな。それはまぁしょうがないなぁ。僕は僕で人とコミュニケーションとるの苦手だからそれはそれでよかったのかも」


 キョウさんは何度もうんうんと頷いた。

 もしかして俺が一緒に元の世界に帰るのも反対だったりしたのかな?わざわざ溝を作りたくないから聞かんけど。

 そんな事よりも聞きたいことがあるし。


「俺の為って言ってましたけどそのことについて聞いても?」


「あーあ。そうだった。僕たち転生者には転生者特典とでも言うのかな、特別な力が備わっている。イチカの場合は経験値倍化、君の場合は…?」


 と、言ってキョウさんがジッと俺を見つめてくる。

 これは教えろと言うことだよな。


「状態異常無効っすね」


「状態異常無効化かー。やっぱり自分の能力に気づいてたんだね。教えてくれたお礼に僕も教えよう。鑑定だ。僕はね人のステータスを覗くことができる」


 それって俺のステータスも覗けるってことだよな?やべーめちゃくちゃ気になる。


「つかぬ事をお聞きしますが僕のステータスって見ること出来ますかね」


 俺は愛想笑いで物腰低く手をお擦り合わせながら尋ねた。それほどまでに自分のステータス値が気になっていた。


「ごめん実はもう覗いてしまったんだ。やっぱこう言うのって他人に見られるのは嫌だろ。だから君がそう言ってくれてほっとしてる」


「俺は全然気にしないですよ。そんな事より…」


 フンっと鼻息が荒くなってしまう。急かしすぎて引かれていないだろうか?でも仕方がない。自分のステータス気になって気になってどうしようもないんだ。


「落ち着きたまえ。焦らずともすぐに言うさ。では心して聞きたまえ。まずは君のレベルだ。なんと君のレベルは六十レベだ。ヤーナツという身でここまでレベルを上げれるなんてやるなー。これはかなり凄いんじゃないか?」


「すみません。イチカさんとキョウさんのレベルを教えてもらっていいですか?」


 比較対象が欲しかったので聞いてみる。


「僕は九十超えでイチカも七十は超えてる」


 俺あんま高くないじゃん。露骨にガッカリしてしまう。


「転生者を除いたら六十レベなんてほとんどいないから元気出したまえ。そんな調子じゃ今から言う事は聞かせられんかもしらん」


「え、まさか俺のステータスやばい感じですか?」


「まー全体的にかなり低い。さすがヤーナツといった所か」


「そんな…」


 泣く泣く項垂れる。


「でも攻撃力はそれなりにある。ヤーナツは魔法職なのにこれはどう言う事だ?」


 何故かキョウさんは真剣に考え始めた。

 たぶん筋トレのおかげだよな。こんな事で悩ませるのもアレだし教えとこう。


「俺、筋トレしてるんですけどそれが影響してるんじゃないんすかね」


「筋トレ?イチカもしてたけどこんなに攻撃力は上がらなかったけどなぁ。男と女の違いだろうな。こう言うのはやっぱ自分でするべきだなぁ」


 キョウさんが真剣な表情でつぶやく様に言った。


「あの…他になんか俺のステータスで良いところとかないっすかね?」


「もうないよ」


なんだかキョウさんの受け答えに冷たさを感じた。


「じゃあ、元の世界の帰り方について聞いてもいいですか?」


 だから話を逸らすかの如く俺はキョウさんにそう言った。


「聞いても無駄だよ。だって僕帰り方なんて知らないから」


「え?」


 何を言ってるんだこの人は、そう思った瞬間脇腹にとてつもない痛みが走る。呻きながら腹を抑える。ナイフが俺の腹に突き刺さってる。


「おぉHPが減ってきた。いやぁ初めて人をナイフで刺して見たけど、魔法の方がいいね。魔法ってさ殺してる実感なく人を殺せるんだ。初めて超広範囲魔法を撃ったときなんか僕の知らぬ間に何人も死んでたらしいんだよね」


 意気揚々と目の前の男が語っている。


「あんた誰だ?」


 痛すぎて涙が自然に出てくる。出血を抑える為腹を強くおさえた。

 コイツはまさかイチカさん師匠じゃないのか?


「師匠さ。イチカの師匠」


「じゃあ…なんでこんな事」


「本当は殺す気なんかなかったんだ。だけどゲーマーとして嫉妬しちゃってさ。魔法職だからと僕は諦めたのに、君は覚えてる。怒りにこの身が震えたね。これを機に改めるべきなのかもしれない。早めに見切りをつけて最善手を行くプレイスタイルを」


 話がなげーよ。キョウがペラペラと喋ってる間に俺は床に倒れていた。


「もう死にそうだ。残りHPは五十。僕はさ、やるからには徹底的に対策し相手を詰ませる、ていう攻略スタイルなんだけどさ、今日だけはちょっと遊んでみるか。せっかく君と言うプレイヤーと会えたしね。ゲームをしていこうじゃないか」


「誰かーー!」


 俺はキョウの話を無視して今出せる渾身の力で思いっきり叫んだ。その瞬間刺されたところからズキンッと強烈な痛いがはしる。


「いいね。足掻くね。でもHPがゼロになるまでは大人しくしててくれ。死んだ君を誰かが見つけ蘇生アイテムないしは蘇生魔法で蘇らせる、そんな感じのゲームを僕はしたいんだ。君が時間内に見つかる事を僕は祈ってるよ」


 どんどん力が入らなくなってくる。話がまるで入ってこない。


「残り十、九、八───」


 なんだなんのカウントダウンだ。数字が小さくなるに連れ瞼が重くなっていく気がする。そして


「二、一、ゼロ。君のおかげな色々知れたよ」


 もう意識が…。かろうじてキョウが去っていくのがわかった。このまま俺は死ぬのだろうか。このまま死ねば家族と会えるだろうか。いやアリスとこんな形で会えなくなるなんて嫌だ。いなくなる時は別れの挨拶をするんだ。

 そもそもHPがゼロってなんだよ。俺は人間だぞ!意味の分からん数値で俺の命を測りやがって。命の目安なんか分かるわけないだろ。

 そう思うとなんだか意識が回復してきた。依然腹は痛く死にかけているが、それでも動けるならちょっとでも延命するんだ。刺された脇腹を上向きにし。洋服でナイフの周りを覆う。そのまま俺は学校に向けて這いずった。うん時間も我慢した小便を撒き散らしながら這いずった。誰かに、アリスに会える様に。

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