第64話

「そういえばイチカさんはなんで俺の事を知ってたんですか?」


 イチカさんの師匠さんが待ってる場所まで行く道中、疑問に思っていた事を俺は聞いた。


「まぁかなり報道されてたからね」


 成る程。俺たち家族のことは日本全国が知っていると言っても過言ではないと言うことか。にしてもニュースか。もしかして事件性でもあったのかな。それともめちゃくちゃ大規模な火事だったか?


「ん?と言うことは俺とイチカさんってこの世界に来たタイミングが全く違うって事ですか?」


 なんとなくニュースになった理由を聞きたくなかったので話を逸らす。


「そうだよー。ちな師匠も違うよー」


「じゃあ向こうの世界に帰るってなったら別々の時間軸に帰ることになるんすかね?」


 んーどうだろう?とイチカさんは首を捻った。


「もしかしたらこの体のまま一緒の時間軸に帰るかもしれないし、地球へと繋がる扉をくぐり抜けた途端まるで夢から覚めるように元の自分のいた場所に戻っているかもしれない。そこは正直何も分かってないんだな、これが」


 この体のまま帰るのは嫌だなー。死んでいるなら潔く死んで魂だけでも家族といたいと言うのが俺の帰りたいと思った理由だ。なのにこの体のまま家族にも会えず向こうの世界に帰るのは嫌だな。


「なんかちょっと賭けっすね」


「もしかして帰りたくない?ていうか君死んでるんだよね。向こうに帰るの怖くないの?」


「怖いですけど、でも帰りたいって気持ちは強いですから」


「お!覚悟決めてるねー。そうだそうだお姉さん君にありがとうを言わなくちゃだった。この前さ私、急に帰っちゃったじゃん。その時思ったんだよね、あれこれ、あの子自暴自棄になって初仕事を放棄するかもって。でも君はやり遂げてくれた、だからよしよしをしてやろう」


 イチカさんが歩きながら俺の頭を撫でてくる。

 初仕事というのはメリーをダンジョンに行かせない事を言っているのだろう。

 恥ずかしかったのでスッとイチカさんの手から逃れるように頭を動かすと


「照れちゃってーこのこの」


 そう言って俺の脇腹をツンツンとついてくる。距離感が近いなこの人。


「そんな事より後どんぐらいで着くんですか?」


 面倒臭かったので強引に話を変える。


「そんな事って…大事なスキンシップじゃん。こんなんじゃうまくやっていけないかも」


 プクーっとイチカさんがわざとらしく頬膨らませる。その後、フフフッ悪戯っ子みたいは笑顔を作って笑う。


「冗談冗談!師匠の所にはもう少しで着くよ。分からないことが有れば聞くといいよ。私より全然物知りだからさ」


 イチカさんの言った通り目的地にはものの数分で着いた。

 まるで遺跡跡地のような場所。石柱が何本も立っており、段差の低い階段にはほんのりと苔が生えていた。


「向こう側には行かない方がいいよ」


 と言ってイチカさんが来た道とは逆の方を指差す。


「魔物が出るからね」


 今まで道端で魔物に出くわすなんて事なかったが、やっぱりその辺うろちょろしてんだな。出歩く時今日つけなきゃな。より一層俺は外出への警戒心を強めた。

 それはさておき、師匠さんはどこにいるのだろう?辺りをキョロキョロ見回す。同様にイチカさんも周り見回す。


「あれー師匠どこにいるんだろ?」


 イチカさんはこめかみに人差し指を当てうーんと首を傾げた。


「待ちますか」


「そうだね。師匠気まぐれな所があるから、フラッとどっか行っちゃったのかも」


 よっこいしょーと声に出しながらイチカさんが石階段に座った。イチカさんが座ったのを見届けて俺も石柱に背もたれをつきながら座った。

 それからどのくらい時間が経ったのだろうか。一向にお師匠さんがくる気配はない。イチカさんなんか鼻提灯を膨らませて寝ていた。

 イチカさんが起きるまでとりあえず筋トレでもするか。この二週間全くして無かったしな。まずはスクワットだ。



 パチンと鼻提灯が破裂しイチカさんが目覚める。


「んぁ?あれ、筋トレしてるの?偉いねー」


「おはようっす」


「おはよー」


 と、言いながら大きな欠伸をした。


「私もねー師匠に言われて筋トレしてたんだけど、途中でしなくなったなー。なんでだろ?ま、いっか。で!で!師匠は来た?」


「来てないっす」


「え!マジ!んーどうしよっかー」


 考える人ポーズでイチカさんが頭を悩ませた。

 ふと俺は空を見上げる。もう夕暮れ近いだろうか?随分待たされた。お腹もペコペコだ。それを証明するかのように、俺の腹…ではなくイチカさんの腹が大きな音を立ててなった。

 あははっとイチカさんが恥ずかしそうに笑いながら腹をさする。


「今日はもうお開きにしよっか。ここまで遅いと私も師匠が心配だし。向こうの道真っ直ぐ帰ってね。そうしたら多分魔物と会わないと思うから」


 俺は返事を返しながら首を縦に振った。


「じゃ、またそう遠くない日に会いに行くよ。さらばだ!」


 手をひらひらーと振ったかと思うと一瞬でイチカさんは姿を消した。かろうじて目で追えたがめちゃくちゃはえーや。

 さて、アリスも待ってるだろうし俺も帰りますか。石階段を上がり帰路に着こうとすると背後から


「待て待て、僕と話をしようじゃないか」


 と、誰かに話しかけられる。

 振り返ると二十台ぐらいの白いローブを着た白髪の男がいた。


「え、誰ですか」


 なんとなく思い当たる人がいたが一応聞いてみる。


「僕?僕はね、キョウ。向こうでもこっちでもキョウという名前で活動している。君にはこう言った方がいいかな?イチカの師匠だ」


 やっぱりか。

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