第60話
「ただいまアリス」
俺の部屋の扉を開けて、部屋の中で待っているであろうアリスに向けて言う。アリスがひょこっと顔を覗かせてくる。
「おかえりなさいタケル君」
なんだかこのやり取りが妙に気恥ずかしくて、てへへと照れ笑いをしながら後ろ頭を掻いてしまう。
「その、今まで通りナツでいいよ。外でその名前呼んじゃうとなんだこいつらって思われるかもだし」
まるで照れ隠しをするかの様に俺はそう言った。
「じゃあ一日一回だけナツ君をタケル君と呼びます。いいですか?」
「勿論いいよ。でも、なんだか恥ずかしい様な嬉しい様な、むず痒くなってきたよ。へへ」
アリスの提案に鼻の下を人差し指で擦りながら答えた。名前を呼ばれるだけでこんなに恥ずかしがるなんてなんでピュアなんだ俺は。
今の俺の顔は多分赤いだろう。だからベットに飛び込み枕で顔を隠す。
「用事の方は終わりましたか?」
枕に顔を埋める俺にアリスが聞いてくる。
「うん、終わったよ。でも、メリーにも会っときたかったな。ダンジョンに潜ったかどうかだけでも聞きたかった」
「メリーさんはダンジョンに潜ってないと思いますよ。ワードさんがそうおっしゃってました」
「もしかしてAクラスに行ったの?」
アリスが「はい」と答えた。
俺が私用で部屋を空けている間、アリスはアリスで俺の為に動いてくれていた様だ。
「ありがてぇ」
と、俺は礼を言った。
「最近はよく三人で行動してるらしいですよ。私が教室に顔を出したときはオウミさんもメリーさんもいませんでしたが」
アリスの口から情報が出てくる出てくる。感謝してもしきれない。俺が帰る前に特大の恩返しができたらいいな。
にしてもメリーとワード、一緒に行動してんのか。二人とも仲がいい様には見えなかったから心配だな。でも、確かワードってメリーの親友ポジなんだよな。案外上手くやっていけるのかもしれない。
ちょっと待てよ。俺は今すごい事に気づいたかもしれない。ワードは確か不人気キャラだ。その理由がルートによって攻略対象とくっつくからだったよな。その攻略対象ってオウミじゃね。絶対そうだ。いやー俺よく気づいたな。
「あの…これからどうしますか?」
自分の察しの良さに感嘆していた所、アリスがそう質問してくる。
「んー、あまり焦る必要はないのかもしれない。当分メリー達はダンジョンに潜らないんじゃないかな。俺は勝手にそう思ってる」
「どうしてですか」と首を傾げながらアリスが聞いてくる。
「この前の女の人、イチカさんって言うんだけど、その人が多分抑止力になってる」
「メリーさんが連れ去られるのを恐れてる訳ですね」
「そう言う事」
俺はうつ伏せの状態からお父さん座りに体勢を変え、正解と言わんばかりに指をパチンと鳴らした。
「そうなるとやる事がないなぁ。一応警告だけでもしに行くか。アリスは午後の授業出る?」
「いえ、ナツ君が出ないのなら私も出ないです」
これは俺も授業に出た方がいいのかな?俺のせいでアリスが学校を卒業できないとなったら嫌だからな。でも、授業出たくないなぁ。というか教室に行きたくない。
「取り敢えず放課後、メリーに忠告しとくか。お前を執拗につけ狙ってる奴がいるぞーって。そしたらこの街から出らんやろ」
「あ、その忠告、私がやります」
アリスが買って出る。
「いや俺がやるよ」
「でも今のオウミさんは危ないと聞きます。ナツ君だと変に刺激しかねません。メリーさんとも仲がいいですし、ワードさんに至っては事実上婚約者ですから」
そうだった、今のオウミは荒れてるんだった。兄であるラウドがオウミに怪我をさせられたんだよな。なんか俺にも噛み付いてきそうだなぁ。
それでも俺が行くけどね。いきなり攻撃するしてくるなんて流石にないだろ。
「いや俺が行く。絶対に譲らん」
ふんっと俺は頑固親父の様に腕を組み口をへの字に曲げた。
「じゃあ、ジャンケンで決めましょう」
アリスからの提案を俺は「いや俺が行く」と、突っぱねた。頑固親父ポーズを決して崩さない。
そんな俺を無視してアリスが
「最初はグージャンケン」
と、腕を振りながら早口で言い始めた。
アリスが「ポン」と言った瞬間、反射的にグーを出してしまう。
やっちまった。なんでいきなりジャンケンが始まると反射的に手を出してしまうだろう。しかも負けちまったし。
こうして忠告係はアリスに決まった。
そして放課後。
二人でAクラスの教室を覗く。
「いますね。メリーさんもオウミさんも」
「うん、いるね」と、俺は相槌をうつ。教室の窓際の隅の席にメリーとオウミそれにワードがいた。何故メリーがAクラスにいるのか甚だ疑問だったが、今気にしても仕方がない。
「では、私行ってきますね」
「オウミが暴力を振ってきそうならすぐに帰ってくるんだよ」
「はい!」
と、アリスは元気よく返事をしてAクラスの教室へ入っていく。そのままメリーのもとまで一直線。アリスがメリーに何か言うとオウミが反応し、何やら怒り気味でアリスに何か言う。
廊下からじゃ何を言ってるのかまでは分からない。アリスが心配だ。
急にダンっとオウミが机を叩き立ち上がる。
「何故あなたがあの女の事を知っているのですか?」
オウミの怒声が廊下にまで響き渡る。アリスが困った様に俺の方をチラッと見る。俺はジェスチャーで帰ってこないの合図を出す。
アリスはオウミ達に一礼すると教室の出入り口に向かって歩き出した。
その途中オウミがアリスを「待ちなさい」と、呼び止める。
「あなたがあの女を退けたんですね。悪魔の力を使って」
そうアリスに向けて言い放った。
あれ、これやばくね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます