第59話

 リアとの話も済んだしアリスのところに戻ろうと早足で歩いていると、ギャハハッと校舎の人目につきにくい奥まった場所から下品な笑い声が聞こえてくる。気になったのでフラーッと立ち寄り顔を覗かせる。

 数人の生徒に誰かが囲まれてる。あれはメロンちゃんだ。


「アンタはお友達のメリーちゃんと違って誰も守ってくれないねぇ」


 そんな声が聞こえてくる。

 助けに行きたいがここぞの一歩がなかなか踏み出せない。いつまで経っても意気地なしの自分に嫌気がさす。


「あのメリーとか言うブスホントムカつきますわ。あんな女に誑かされるなんてキングゥ様もどうにかしてますの。ねぇアナタなにか知らないのあのブスの如何わしい噂とか弱みとか」


 縦巻きロールの女からの問いにメロンちゃんが黙っていると


「なんとか言いなさいよ!」


 と、大声を張り上げメロンちゃんを両手で押した。メロンちゃんがぽてんッと後ろによろめき尻餅をつく。そのままメロンちゃんは蹲る。


「見てくださいよローゼン様。こんな風に体を丸くする虫がいましたよね。なんて名前でしたっけ?」


 一人の生徒が縦巻きロールの女、ローゼンに言う。


「そんな虫けらいましたね。平民のあなたなら知ってるんじゃありませんの?教えてくださいな」


 ローゼンが口元に手を当て笑う。メロンちゃんは蹲まったまま何も答えない。そんなメロンちゃんに痺れを切らしたのか一人の生徒が「おい!」と怒声を放つと、メロンちゃんの頭の横をドンッと足で踏みつけた。


「ご、ご…ごめ…」


 なぜか謝ろうとするメロンちゃん。けどなかなか言葉が出てこないようだ。そんなメロンちゃんを見て一同が嘲笑う。

 助けに行かなくては。いじめられてる子がいれば颯爽と助けに入る、そんな妄想をいつもしていただろ。


「何ですかその喋り方。気持ち悪い。なんて言ってるか分かりませんわよ」


 メロンちゃんに罵声を浴びせては笑う。

 行くんだ俺。あんな奴らダンジョンで出くわした骸骨やゾドラゴンに比べたらなんて事ないじゃないか。行ってやる。


「そこまでダァ!」


 いじめを行っていた生徒達がバッと俺の方を振り返る。


「誰ですの?あなた」


 ローゼンが尋ねてくる。俺が何か言う前にローゼンの隣の生徒が「あ、アレはヤーナツ」と言った。


「ローゼン様アイツには関わらない方がいいかと」


 ふーん、とローゼンが鼻を鳴らし俺を見る。


「品性のカケラも無さそうな男ですわ。ふふ、あなたにはお似合いのナイトかもしれませんわね」


 ローゼンはメロンちゃんにそう言い残し一行を連れ去っていった。良かった何もされなかったぜ。

 俺はメロンちゃんに駆け寄る。


「大丈夫?」


 俺は手を差し出す。その手を取ってメロンちゃんが立ち上がる。


「あ、ありがとうございます」


「礼なんて言われる筋合いはないよ。俺、ずっと後ろから見てたんだ。なかなか動き出せなかった。アイツらを止める勇気が出なかったんだ」


「で、でも!助けてくれた…。だ…誰かに…ずっとそうして欲しかった。だから、ありがとう」


 そう言うとメロンちゃんはシクシクと泣き始めた。いきなり泣き始めたもんだからどう対応していいか分からず、取り敢えず背中をさすっておいた。少々不躾だったかもしれない。

 少し時間が経った所で俺は再び「大丈夫?」と聞いた。こくん、とメロンちゃんが頷いた。


「取り敢えず場所を移そっか。実は人を待たせてるんだけど、一緒にくる?」


 一瞬、間を置いた後メロンちゃんが首を横に振った。

 うーんどうしたものか。このままメロンちゃんを一人にするのも気が引けるがアリスのもとにもすぐに帰りたい。


「メリーはどうしたの?いつも一緒にいるのに」


「オウミさん…と一緒にいます」


「今オウミって人、凄い荒れてるんだってね。何があったか知ってる?」


 メロンちゃんが二度頷いた。


「恐れてるの…かもしれないです。だから…メリーと片時も離れない」


「何を恐れてるか知ってる?」


「…女の人…です。急に現れて…攻撃されました」


「なるほどなぁ」


 と、俺はつぶやく。

 なんとなくわかってきた気がする。オウミはイチカさんの存在を恐れているんだ。そのせいでピリピリしている。多分こんな感じだろう。


「教えてくれてありがとう。じゃあ俺、人を待たせてるからそろそろ行くけど、メロンちゃんはどうする?寮まで戻るなら送るよ」


「大丈夫…です。一人で戻ります」


「俺も寮まで戻るからさ途中まででもいいから一緒行こうぜ」


 半ば強引にメロンちゃんと帰った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る