第58話

 ひとしきりに泣いた俺は、やるべきことをやるべく学校に足を運んだ。この二日間の間にメリーがダンジョンに潜ってしまっていたら、イチカさんに合わせる顔がない。だから一目散にメリーのもとに向かうべきだったのだろうが、それよりも先に俺はリアと話がしたかった。

 学校に設備されている室内訓練所でリアの姿を見つける。そこにはリアだけじゃなくガタイのいい金髪の男、フレードもいた。

 リアが俺に気づいたので俺はヨッと挨拶代わりに手を挙げた。リアがフレードに一言二言何か言うとタッタッタッと俺の方まで駆けてきた。


「ちょっといきなりどうしたのよ」


「デートの邪魔をしちゃったかな?」


 俺は笑いながら茶化す。


「そんなんじゃ無いわよ」


 と、俺の胸を叩きながらリアが言った。

 これ以上の詮索はさせまいとリアがゴホン、と咳払いをすると


「で、何のよう?」


 と、尋ねてきた。


「リアはさ、向こうの世界、現実世界の事なんだけどさ、ではどうだったん?」


「ちょっと何でこんな所でそんな話するのよ」


 リアがスススッと俺の耳元まで顔を寄せ小声で言う。俺はごめんごめんと両手を合わせ謝った。少しばかし配慮が足りなかったかもしれない。


「まあいいわ。そうね現実世界の事はあまり話したく無いわ。せっかくこの世界に来たんだもの向こうの事は忘れて楽しくやっていきたいわ」


 そう言う考え方もあるのか。何故か俺は感心してしまう。

 リアはあまり向こうに帰りたくなさそうだしわざわざ言う必要もないか、混乱させてしまうだけだし。ならばもう話す事なし。

 んじゃッと立ち去ろうとする俺をアリスが呼び止める。


「何日か前に光の柱を見たって学校内で噂になってるんだけど、あなた何か知ってる?」


「俺、見たけど詳しい事は知らないよ。メリーに聞こうか?」


「あなたが関わってるわけじゃないのね。ならいいわ。あなたももう巻き込まれたくないならメリーとは関わらない方がいいわよ」


 そうは言われても俺はこれからメリーのダンジョン攻略の邪魔をしなければいけない。取り敢えず適当に相槌をうっておく。


「ちょっと!ちゃんと聞いてるの?私はあなたの心配をしてるのよ?いい、気をつけなさい。今オウミって言ういわゆる主要人物の一人が酷く荒れてるの。私の知ってるオウミじゃないわ」


「へーそうなんだ」


 俺の呑気な返事にリアは呆れたように小さく息を吐いた。


「あなたねー。私は本気で心配してるのよ。あなたのお兄さん、ラウド様はオウミのせいで酷い傷を負ったわ」


「え、まじ。大丈夫かな?」


「あなたも気をつけなさいよ。しゅじ…メリーと仲が良かったでしょ。もしかしたら目の敵にされてるかもしれないわ」


 リアは再三俺に忠告してくる。そこへフレードがやってくる。


「安心しろ。この俺様がオウミを潰してやる。そしてメリーを取り返す!!」


 勢いのいい宣言。ここで気になる事が一つ。どうやらフレードは未だにメリーの事が好きなようだ。つまり…


「仲良く剣を交えてたからヨリを戻したのかと思ってたけどそう言うわけでもないのね」


 元鞘がどうたらこうたらにはならずということだ。

 リアが無言で俺の後頭部を叩く。顔を見てみればめちゃくちゃ怒ってらっしゃる。


「なんだラウドと違って弟の方とは仲がいいんだな」


 お!これは…


「嫉妬してますよリアさん。これ脈ありです」


 バコンッとリアが俺の頭にゲンコツをかましてくる。


「そんなんじゃないって言ってるでしょ。もう向こう行ってなさいよ!」


 俺はイテテ、と殴られた場所をさする。


「仕方ない邪魔者は去りますか」


 クワッとリアの顔が鬼の形相になる。俺はリアから逃げるようにその場を去った。

 本当はこの世界に来る直前の状況を教えてほしかったが、あまり深入りしすぎて嫌われるのも嫌だからな。大人しく撤退しようじゃないか。

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