第52話
「ヤーナツ!俺の体から離れやがれ!」
剣幕な様子でウツツが叫ぶ。
「離れろと言っても彼女の方が俺を離してくれないんだ。全く困ったベイビーだぜ」
彼女とはウツツの体のことである。彼女は俺を抱きしめ体をすりすりとすりつけてくる。なんでこんな俺の事好きなんだろそんな疑問がどうでもよくなるぐらい彼女は柔らかい。
「てめー何かしてみやがれ!タダじゃおかねぇからな!」
「まるでめちゃくちゃ過保護なお父さんみたいだ。君も大変だね」
俺はそっと優しく彼女を抱き背中をさすってあげた。彼女はよほど嬉しかったのか一旦俺を抱きしめるのをやめると俺の寝間着を裾を掴みたくし上げた。そのままビタっと俺にくっつき衣服を整えた。今、俺と彼女は恵方巻き状態である。寝間着が海苔、そして俺と彼女がご飯と具だ。
地肌と地肌の密着。すべすべで柔らかい。理性が消えちまいそうだ。
「てめー何もすんじゃねぇぞ。何もせずに黙ってこっち来い」
ウツツさん、かなりお怒りな様子。彼女と離れた途端、魔法を撃ってきたりしないだろうか?
とりあえずウツツの言う通りにしようとするが、どうやってそれを彼女に伝えよう。今の状態だと歩きづらい。そこで俺は閃く。
彼女の太ももに手をやりヨッと持ち上げる。彼女も何かを察してくれたのかどうかは知らないけど、俺が持ち上げようとした瞬間ピョンッと軽くジャンプをしてくれる。そのまま俺の腰に足をがっちりと回す。
「見てみてウツツ。これ駅弁って言うんだろ」
俺は覚えのあるエロ知識をウツツに披露する。
「黙ってこっち来いって言ったよなぁ」
ウツツが笑ってる。アレは怒りからくる笑顔だ。俺は返事をする事もなくウツツの方へ向かった。
「俺に触れろ。帰るぞ」
やった!帰れるんだ。
俺はその場でお父さん座りをし、うつつの頭に触った。
「ルードラ」
ウツツが唱えると視界が暗転する。そして視界がひらける。
「どこだここ?」
家の中だ。普通の内装の家の中。でも俺の知らない家だ。まさか悪魔団のアジトか?
「俺の家だ。とりあえずこの家に俺の体を匿う」
「へー。なんか綺麗にしてるね」
俺は彼女を抱き上げたまま部屋の中をみて回る。窓の外を見てみる。綺麗な三日月が見えた。確か俺たちがダンジョンに潜ったのも夜だったよな。
「そういえばさ、どれくらい時間が経ったんだろ?」
うつつに確認する。
「一日経過したぐらいじゃねぇか」
「マジか。その間ずっと飲まず食わずって結構ハードな事を成し遂げたな」
そう考えるとなんだか腹が減ってきたような気がしたが、そもそも睡眠をウツツ達に邪魔されていたことを思い出す。
そうだ俺、全然寝てねーや。その瞬間、急な眠気が俺を襲う。
「ウツツ俺眠っていいか?」
「床で寝ろよ。後、俺の体から離れやがれ」
「そんな事言われてもなぁ。なぁ俺眠りたいから体から離れてくれないかなぁ?」
伝わるはずが無いと思っていたが一応彼女に話しかけてみる。案の定伝わるはずもなく。仕方ないのでこのまま寝転がる。仰向けになって寝転がっているのだが彼女が俺の体の上でモゾモゾしてなかなか眠れない。挙句俺のズボンを脱がそうとしてくる。「だめだよー」と諭しながら手を払いのける。彼女も眠れるようにトントンと背中を優しく叩いてあげる。気分は赤ちゃんを抱っこしたお母さんだ。
すると彼女は腰を激しく動かし始めた。股間を俺に擦り付けてくる。
「ウツツさん。始まりましたね」
なんとなくウツツに報告。男なら誰でも分かるアレだ。そう、彼女は男性としての機能も持っている。普通の男にこんなことされたらなんか嫌だが、不思議と彼女だとあまり嫌じゃ無い。
「おい、今すぐやめさせろ!早く体から引き剥がせ!」
流石のウツツも動揺が隠せない。ちょっと気の毒に思ってしまう。
「彼女、力強いし無理だよ。もう俺も眠たくてクタクタだし」
「じゃあ今すぐ寝ろ!すぐに寝ろ!」
「そんな事言われても無理だよ。あ、腰の動きが激しくなってきましたねぇ〜」
「てめー、実況すんじゃねぇ!ぶち殺すぞ!」
「お!腰の動きが止まりましたね。これで彼女も眠れるでしょう」
「クソッ!マジでなんでこんな事になんだよ。体だけの癖に自我を持ちやがって。この先俺はどうすんだよ」
何かが崩壊したようにウツツが泣き言を吐いている。
何はともあれこれでぐっすり眠れるだろそう思ったが、彼女のスリスリタイムが始まってしまう。俺の体を味わうようにスリスリ。
「これは彼女にとってのピロートーク?と言うやつでしょうか?」
ウツツに語りかけたが何も返ってこない。まさか悶え死んだか?
いつになったら彼女は寝てくれるのだろうか?このまま俺の上でモゾモゾされ続けたら眠れないそう思っていたが、彼女の体はとても柔らかくとても暖かかったので案外心地よくいつの間にか眠っていた。
「ナツ君!!この家ににいるんですか!返事をして下さい」
寝ていると、外から聞こえてくる声に目を覚ました。
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