第51話

 ツツーッと口の端から血が滴り落ちてくる。息をするのすらきつい。


「ヤーナツ、能力を解け。魔法を無効化する能力を解け」


 ウツツが焦り気味で言う。解けと言われてもこの能力を自発的に解いた事はない。いつも自然と解けているのだ。つまり能力の解き方を分からない。


「解き…方が…」


 苦しくて最後までしゃべり切る事ができない。


「お前の能力にオン、オフがあるのは明白だ。今までどうやって発動してやがった」


 気合いだ。今まで気合や、やる気で発動してきた。解き方はマジで分からん。けど今のウツツの発言で着想を得た。

 頭の中にオンオフの書かれたスイッチを思い浮かべる。そのスイッチをオフに切り替える。これでどうだろうか?能力が解けているといいが。


「何…色…」


 何色のポーションが回復のポーションか聞こうとしたが、最低限の文字数しか言葉にできない。頼む伝わっててくれ。


「赤だ。掛けるじゃなくて飲め」


 伝わった。

 ウエストポーチから赤色のポーションを取り出しそれを飲んだ。痛みや息苦しさがどんどん緩和していく。胸の傷を見ると塞がっていた。


「ポーションすごすぎだろ」


 こんな便利なもんあったんやなぁと感心してしまう。


「治ったか。にしてもお前の能力扱いづらいがかなりのチート能力だな」


 なんかウツツ、俺より俺の能力の事を知ってそう。


「状態異常無効以外になんかあんの?」


「多分お前の能力はステータスを度外視する事ができる。よく考えろお前が俺の首を切れると思うか?」


「切れるだろ。切れんかったらウツツの首やばすぎるだろ」


「切れねぇよ。俺とお前のステータス差は圧倒的だ。だけど切った。しかもそれはモンスターにも適用される事が分かった。こりゃ思ったより簡単に目的の場所につきそうだな。今度あの魔物が出たらバーインドで拘束する。そしたらお前が一発で仕留めろ。ただし失敗はすんなよ。バーインドを一発撃ったら俺は使い物にならなくなっちまう。いいな」


「オーケー」


「緑色のポーションをもう一個飲んどけ。そしたら体の所まで戻るぞ。全力疾走で戻れよ。敵と遭遇したらだりーからな」


 言われた通りポーチから緑色のポーションを取り出し飲む。なんかポーションって結構うまいな。おっとそんな呑気な事を考えてる場合じゃない。


「わざわざ走って行かんでもルードラで行けば良くね?」


 敵との接触は極力避けたいからな。


「ダンジョン内をルードラで移動する事は出来ねぇ。それに後一回しかルードラを使えねぇ。これは帰るために使う」


「ほーですか」


 落胆である。敵と遭遇しない事を祈るしかない。

 俺は覚悟を決め体のもとまで走り出した。途中魔物の姿が見えたが完全無視を決め込み全力疾走で走り抜けた。なんとか無事、体のもとまで着く。よっこいしょっと体を担ぐ。


「よくよく考えたらさぁ、首を切っても死なんのに今って本当に死んでんの?ウツツの体」


「無駄口叩いてねぇで早く行きやがれ」


 「へいへい」と、気のない返事をし、ダンジョンを進み始めた。そこから先の道のりは順調だった。骸骨の魔物が出ればウツツが動きを止め俺が仕留める。ウツツが偶に「おいその扉開けてみろ」というので開けてみれば目の前には宝箱。依然ダンジョンの中は怖いが、宝箱を開ける瞬間はドキドキワクワクで正直興奮していた。なお全てゴミアイテムだったらしく回収はせずそっと宝箱を閉じた。

 ダンジョン散策にも慣れ意気揚々と歩いていると急に怖気の様なものを感じ全身鳥肌が立つ。


「ウツツなんかやばい。何が何だかわかんないけどなんかやばい」


 俺は察知した恐怖感をウツツに伝える。


「強敵の気配を感じます。この先を進みますか?か。どうするこの先にいる徘徊モンスターと会っとくか?」


「いや、やめとく」


「いい判断だ。お前のチート能力とか俺のサポートとか関係なくお前なんて瞬殺だ。迂回するぞ。目的地は近ぇ」


 じゃあなんで会ってみるか?なんて聞いてきたんだよ。とりあえずウツツの言う通り迂回をする。


「その扉だ。その扉を開けろ」


 開けろと言われた扉を開ける。

 ムワッと扉を開けた瞬間臭ってくる悪臭。何かいる。ゆっくりと部屋を覗き込む。

 そこには腐った肉体のドラゴン。肋骨が見えており粘着質の血液がぼたぼた垂れている。下顎もない。そいつを見て俺はゆっくりと扉を閉めた。


「やばそうなやついたわ」


「ドラゴンゾンビだな。めんどくせー奴が陣取ってんな。もう目の前だってんのによ」


「まさかボス?」


「いやちげー。ちょっと強い程度の通常エンカウント敵だ。倒せなくはないが若干賭けだ」


「迂回するか?」


「この部屋は避けられねぇ。この部屋にあるポータルを踏まないといけねぇ」


「バーインドは?」


「効かねぇ。ポータルまで走るしかない。ドラゴンゾンビが攻撃してきそうならファイアで阻止する。お前火は怖いんだったな、ビビらず走れるか?」


 ファイアか。ウツツ俺のトラウマを覚えててくれてたんだな。なんか嬉しい。


「やってみるよ」


 そう言って俺は落ちないようにウツツの体を担ぎなおす。


「よし行くぞ」


 ウツツのその言葉を合図に勢いよく扉を開け走り出した。


「ドラゴンゾンビの後ろの扉だ!」


 ウツツの言っていた扉を視認する。ドラゴンゾンビの横を通り抜けてあの扉まで行こうとする。が、ドラゴンゾンビがまるで銃口向けるように俺に顔を向けてきた。


「ファイア」


 バコンッと火の玉がドラゴンゾンビの顔に命中。ドラゴンゾンビは顔を大きく上に仰反らせた。ドラゴンゾンビはこれじゃ終わらんと言わんばかりに腐った尻尾を地面に沿わせながら薙ぎ払う。広範囲すぎて躱しようがない。


「斬れ!お前なら斬れる!」


 マジか。魔法でどうにかしてくれんのかい。


「ウツツ俺の洋服を噛んで落ちないようにしてて」


 ウツツがガブッと俺の皮ごと洋服に噛み付く。自由になった手で剣を抜く。肉が腐り落ちた層の薄い部分。そこにチンスラを撃つ。チンスラならウツツの体を担いだまま撃てる。やってやる。

 ビタっと立ち止まり剣を上に掲げる。迫り来る尻尾に目掛けて


「チンスラァ」


 思いっきり振り抜く。一刀両断。我ながら見事に尻尾を断ち切る。感心してる場合じゃない。すぐさま剣を鞘に戻し、ウツツを脇に抱え直す。そしてすぐさま走り出す。


「ファイア」


 ウツツが更にドラゴンゾンビに追撃する。更に更にもう一発「ファイア」とドラゴンゾンビに火の玉を放つ。俺はただ扉を見つめ一心不乱に走る。あとちょっとだ。


「おい!もう魔法は撃てねぇ。ブレスが来るぞ」

 

 は?!間に合うか?

 ブレスが後ろから迫っているような気がする。危機感を感じた俺は扉に滑り込んだ。扉に入った瞬間謎の浮遊感に襲われる。


「ん?何何。何が起こった」


「転移したんだ。目の前の扉を開けてみろ。そこが目的地だ」


 ギギッと扉を開ける。城のような景色から一転まるで人の体内の中だ。心臓のように脈打つ黒い肉のかべ。かなり広い空間だがきた扉を除けば密室だ。部屋の中に入る。部屋の奥には血の池。これは誰かの血なのだろうか。それとも赤いだけの水?


「この中に俺と俺の体をいれろ」


「この血の池に?」


「そうだ」


「死んだりしないよね?」


「しねーよ。早くしろ」


 言われた通りポチャンっとウツツを血の池に落とす。どうしよ、このまま上がって来なかったら俺が救出に行かないといけないのかな?この血の池、人体に影響があったらどうしよ。

 そんな事を考えているとザバッとウツツが血の池から勢いよく飛び出してくる。頭と体は繋がっていた。


「ついにこの俺の復活だ!」


 すごい興奮して高笑いをしてらっしゃるウツツさん。にしても改めて見てもすごいおっぱいだ。ウツツがちょっと動くだけでプルンプルンだ。でもウツツの顔にあのおっぱい、似合わんなぁ。正直顔がない方が興奮する。彼女はもう帰って来ないのだろうか。


「おっぱい似合わんね」


 やべ。声に出ちゃった。


「潰す!」


 物凄い形相でウツツが俺に詰め寄る。歩くたびにブルンブルンだ。なんで俺と言う生き物はおっぱいに目がいってしまうんだろう?世界一の不思議である。そんな事考えてる場合じゃねぇ。


「ウツツ落ち着け。俺に罪は無い。そのおっぱいが悪いんだ。全く罪なおっぱいだ」


 やべーおっぱいに目がいきすぎておっぱいの事しか考えられねー。このままじゃ殺される。


「せめて殺さないでね」


 半殺しは避けられないと覚悟する。地獄を味わう前におっぱいを念入りに眺めておこうと、ジッとおっぱいを眺める。おっぱいがどんどん近づいてくる。しかし途中でおっぱいが近づいて来なくなる。余韻のプルンプルをした後おっぱいは完全に動かなくなる。


「体が動きやがらねぇ!どうなってやがる!」


 ウツツが叫ぶ。すると急にウツツは両手で自分の頭を抑え始めた。アレは抑えていると言うよりかは自分の頭を上に引っ張って引き抜こうとしている。


「ヤーナツ!俺の頭を抑えろ!」


 ウツツがそう言った瞬間スポンッと頭と体が分離してしまう。ウツツの体はウツツの頭をそこら辺に放り投げると俺に抱きついてきた。柔らかい。なんて柔らかい体なんだ。ウツツの体はまるでマーキングするようにスリスリスリスリと何度も俺に体を擦り付けてくる。

 帰ってきた!帰ってきたんだ彼女が!ギュッと俺は彼女を抱きしめ返した。


「んでこんな事になんだよ!意味わかんねーよ!クソ体がよぉ!」


 ウツツの悲痛の叫び俺には聞こえず。そのくらい俺は彼女との再会の喜びをその体で味わっていた。

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