第50話

 身長三メートルはあろうかという長い白髭を生やした骸骨。ソイツは腕が四本あり手には錆びれた剣、頭には錆びれた兜を装備していた。

 ギギギギギッと四本の剣を擦り合わせ構える。完全に俺を、ターゲットとして狙いを定めてる。

 ダッと骸骨は下腕の二本の剣を地面に擦らせながら走り出した。


「おい!くるぞ構えろ!」


 ウツツが叫ぶ。

 構えろって言ったって俺は両腕が塞がっている。それにあんな奴勝てる気がしない。何より怖くて体が動かない。

 目前まで迫った骸骨が俺目掛けて上腕の剣を振り下ろし、下腕の剣を振り上げた。


「ラテクト」


 ウツツが舌打ちをした後、何らかの呪文を唱えると俺の周りを透明な膜が覆った。その膜が骸骨の攻撃をガキンッと防ぐ。

 今俺はウツツが魔法を唱えてくれてなきゃ死んでた。


「おい、構えろ戦うぞ」


「に、逃げた方がいいんじゃ無いか」


 俺は震える声でそう言った。


「逃げてたらいつまで経っても目的の場所につかねーだろ。早く構えろ」


「でも!俺は!ゲーム内でも最弱のキャラなんだろ!勝てるはずがない!それに俺は日本人だぞ。こんな剣持って戦うなんて怖くて怖くてたまんねーよ」


 ガキンッガキンっと骸骨がシールドを壊そうとする音が響く。


「残念ながらここは日本じゃねぇ。戦わねーと生きていけない状況だって必ずやってくる。お前にとっては今がそうだ。俺達悪魔団に殺されるか、目の前の怪物に殺されるか、それとも剣を持って戦うか。ヤーナツ覚悟を決めろ。戦うぞ」


 やるんだ。やるしかない。

 俺は肩に担いでいたウツツの体をそっと地面に下ろし、腰にさげていた剣を抜いた。 

 シンプルな剣だ。だけどこれもチート装備である事は間違いない。ウツツを脇に抱えたまま片手で剣を構える。


「ウツツも初めて戦う時は怖かった?」


「別に、呆気なく感じたな。ただこの世界に来て怖いと思ったものならある。人間だ」


 ウツツにも暗い過去がありって事ですか。


「作戦はある?」


「俺が魔法を撃つ。お前は懐に入り込んでその剣でぶった斬れ」


 結構ハードルが高い。でもやるしかない。


「分かった。やってみる」


 懐に入り易い様に姿勢を低く構える。


「行くぞ。ウィンド」


 目の前で、かまいたちの様なものが発生し骸骨に襲いかかる。それを骸骨は四本の剣で防いだが大きく後ろ吹き飛ばされる。


「今だ行け!」


 ウツツの合図と共に俺は走り出した。幸いな事に骸骨の右上の腕はウツツの魔法を受けて吹き飛んでいる。

 背骨だ。背骨に思いっきりだるま落としの様に剣を振ってやる。俺は走った勢いも利用して右腕を思いっきり振る。

 ガキンッ!


「なっ?!」


 いとも容易く俺の渾身の一撃は止められてしまう。骸骨は左上の腕を大きく掲げそして振り下ろす。


「サンダー」


 骸骨の肋を電撃が襲い骸骨は小さく仰反った。

 助かった。既の所でウツツに助けられた。安堵してる場合じゃない。今がチャンスだ。手薄は右側から攻撃するんだ。剣を左から右に背骨目掛けて振る。が、またしても防がれてしまう。


「俺はもう魔法を使えねぇ。どうにかしろヤーナツ!」


 両左腕の剣で俺に斬りかかろうとしてくる。巨体に似合った大振り。そのおかげで躱せる気がした。でも後ろに引くじゃダメだ。この骸骨にはリーチがある。ならば───。

 俺は前に思いっきり踏み込む。ブンッと骸骨の剣が俺の後ろで空振り音をたてる。

 今度こそ。

 背骨目掛けて剣を振る。骸骨は大きく後ろに飛び俺の攻撃を回避しようとする。だけど間に合う。背骨に届く。

 その瞬間骸骨の節穴の目が赤く光り極細のビームを二本、俺に発射してくる。反射的に顔に飛んできたビームは躱せたが、もう片方のビームは俺の胸を貫く。

 それでも止まるわけにはいかない。剣を振り抜く。カンッと背骨が一個飛んでいく。その瞬間ガラガラッと音を立て、四本腕の骸骨は崩れた。


「やったな」


 ウツツの勝利宣言。という事は勝ったんだ。「ウッ」と呻き声をあげ俺は両膝をつく。ゆっくりとうつつと剣を地面に下ろし負傷した胸を抑えた。胸から背中に貫通している。


「紫色のポーションを出して俺にかけろ」


 息も絶え絶えの状態でウツツの言った事を実行する。ポーションをかけた後ウツツは「俺に触れ」と、言ってきたので頭頂部に手を置く。


「ルードラ」


 ここは確かダンジョンの入り口だ。こんな所でどうする気だ。めちゃくちゃ胸が痛くて死ぬ気しかしねーや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る