第49話

「行きたくないって言ったらどうする?」


 ダンジョンなんて行きたい筈がない。けどここでハッキリと断るとウツツが何をしてくるか分からない。


「そうだな、お前を人質にアリスにでも行ってもらうか。同じ混沌魔法使い同士、多少は耐えてくれんだろ。実際あの時も少し耐えてたしな。逆にお前はどうすんだよ。選択肢なんざ極々僅かだ。アリスに俺達悪魔団を消し去ってもらうか?そうすればダンジョンなんて行かなくて済む」


 アリスにそんな酷い事はさせたくねー。コイツ、アリスの名前を出す事で俺の心を揺さぶってやがる。なんてタチの悪い奴だ。


「俺とアリスは何もしない。ウツツ達だけで頑張れって選択肢はないのか?」


「そんな選択肢ねぇよ。お前しか俺の体を運べねぇんだ。どんな手段を使ってでもお前をダンジョンに連れて行く。それともなんだぁ、丁寧に頼めば快く引き受けてくれるか?」


 ウツツの体をダンジョン内に持ち運ぶ必要があるから悪魔団の仲間は頼れず、俺を頼るわけか。

 昨夜、初心者用ダンジョンに潜るかどうかをびびって決められなかった俺がいきなりクリア後ダンジョンに行けなんて無理に決まってるだろ。

 でもやらないと、コイツらがアリスに何をするか分かったもんじゃない。


「そんな所行ったって俺が死ぬだけで終わりじゃね?」


「悪魔団が所有しているチート装備を全てお前に授ける。それに俺もいる。成功する確率はたけぇ筈だ」


「そのチート装備に混沌魔法無効みたいなものはないの?」


「俺の混沌魔法はゲームシステム上にない状態異常を付与している。おまけに色々付加効果もありやがる。つまり防ぐ手段はねぇ」


 俺がやるしかないって事か。行きたくねー、行きたくねーけど泣いて駄々をこねたってウツツは見逃してくれない。やるしかないんだ。


「そうだな、ウツツが誠心誠意の気持ちでお願いしますしたら行くよ」


 ウツツが舌打ちをつく。


「頼むから一緒に来てくれ。体こそないから分からねーだろうが俺は今土下座をしている」


 ウツツも冗談なんて言うんだ。


「分かった。やるよ」


「じゃあまずは姫のところまだ急いで戻んぞ」


 「分かった」と返事をし俺はウツツを抱え、元の場所まで戻った。




「体はどうしたのよ。まさか失敗した訳?」


 黒髪の女、姫さんからの問いにウツツが「あぁ」と答える。


「姫、俺たちはダンジョンに潜る。コイツにかけられるだけのバフと用意しておいた装備を貸してやってくれ」


 ウツツの発言にアリスが「ちょっと待ってください」と声をあげる。


「もうナツ君を解放してください。貴方達の問題に巻き込まないであげてください」


「土下座までして頼み込んだんだ。ぜってーについてきてもらう」


「土下座する体なんてないじゃない」


 すげーな姫さん。めっちゃ話に水を差すじゃん。ウツツもちょっと困惑してるじゃん。


「なるべく早めに行動したいから姫は黙っててくれ」


「何よ!もう一生口を聞いてあげないから」


 プイッと姫さんはそっぽを向いてしまった。


「ヤーナツは連れて行く。それはコイツも了承済みだ。アリスももう口出してくんな」


「それなら私もダンジョンに一緒に行きます」


「俺は別にそれでもいいぜ」


 含みのある言い方でウツツはそう言った。まるで俺に言っている様だ。嫌な性格してるぜウツツ。


「大丈夫だアリス。ある程度の装備があれば俺一人でも踏破できる様な簡単ダンジョンらしい。だから先に学校に戻っててくれ」


「で、でも────」


「話はもう終わりだ。さっさとダンジョンに行くぞ。姫とりあえずコイツにバフをかけてくれ」


 アリスの発言を遮りウツツが姫さんに促す。しかし姫さんはそっぽを向いたまま反応しない。

 どうすんのこれ。


「時間が惜しいんだ。頼む」


 ウツツもたじたじだ。


「もーしょうがないんだから。体が戻ったらなんでも言うこと聞いてもらうからね」


 そう言って姫さんは俺に魔法をかけてくれる。が、なぜか途中で首を傾げる。


「おっかしいわね。全然魔法がかからない。この人間、変よ」


 変って言うのやめてくんない。俺は至って普通だ。


「そうか。メリットだけじゃねぇわけか。じゃあバフはもういい。装備を出してくれ」


 脇に抱えたウツツがそう言う。姫さんは「人使いが荒いんだから」と言うと地面から剣と指輪や首飾りのような装飾品とウエストポーチの様なものを地面から出した。どうやらこの地面から何かを出す能力は姫さんが行っているようだ。


「ヤーナツこれを全部身につけたら体の所まで戻るぞ。早くしろ」


 俺は適当に返事をしそれら全てを身につける。寝巻き姿にこんなコテコテの装飾品と剣、今の俺は滑稽な姿をしているに違いない。


「パジャマだからすっごい違和感。かっこ悪い」


 姫さんも同じ事を思っていた様だ。というかこの子思った事をすぐ口にする子だな。


「準備はもういいか。なら行くぞ」


 「分かったよ」と返事をし俺は最後にアリスに「すぐ帰ってくるよ」と言ってウツツの体の元まで向かった。


「で、どうやってダンジョンまで行くん?ルードラ?」


 脇に抱えたウツツに聞く。


「そうだ。俺の体に触れろ」


 ウツツの体の損傷が小さい部分に触れた。ウツツが「ルードラ」と唱える。

 暗い、暗すぎて周りに何があるかも分からない。ほんのりと土の匂いがする。まさか地面の下か?


「ウツツここは?」


「エクストラダンジョンの入り口前だ。扉が開くぞ」


 ギギギッと音を立てて目の前で扉が開きほんのりと明かりが射し込む。辺りを見渡す。どうやら俺達は土に囲まれた空間にいる様だ。


「おい、力が湧き上がるとかそういう感覚はあるか?」 


「いや全くないね」


「そうか。じゃあ装飾品は青い指輪のやつと緑色の指輪以外全て外せ」


 マジか。俺のチート装備が。とりあえず全て外す。


「なぁ俺不安なんだけど。チート装備ほとんどが外れちゃったじゃん」


「ポーチにある紫色のポーションを出して俺にかけろ」


 無視された。まあ良くないけどいいか。ポーチから紫色の液体が入った小瓶を取り出した。


「頭の方にかければいいんだよな?」


「あぁ」


 ウツツの頭を地面に置きポーションをかける。何か変化が起きた様には見えない。


「どう?アイテムの効果出てる?」


「あぁ。ちゃんと回復してる。お前も一本なんか飲んでみろ。かけるでもいいぞ」


 ポーチから適当なポーションを一本取り出し飲むのは怖かったので頭からかぶる。


「特に何も起きた気はしないね」


「そうかまあいい。アイテム類は持っとけ。そろそろダンジョンに潜るぞ。俺の体をかつげ」


 マジか。ウツツの体血だらけで黒焦げだから担ぐのちょっと怖いな。急に腕が取りたりしないだろうか。少し抵抗がある。だがやらねば。意を決してウツツの体を担ぐ。腕がなかったり体が一部炭化しているからだろうか軽い、思った以上に軽い。これなら楽に運べそうだ。空ている方の腕でウツツの頭を脇に抱える。


「なんか注意事項とかある?あるなら言ってくれ」


 よし行こうと、思ったが怖くて念入りになチェックをしてしまう。


「俺だけは離すなよ。やばそうならルードラですぐ飛ぶ」


 やだ。なんか心強い。トライアンドエラーでなんとかなりそう。


「分かった絶対離さないわ」


「よしじゃあもう行け」


 こえー。マジでこえー。俺は体を震わせながらダンジョンに足を踏み入れた。

 薄暗い広間。ズラっと並んだ黒い柱には青い炎が灯った松明がかけられており、まるで道標の様に俺の目の前にある黒い絨毯を照らしている。まるで城の中だ。

 俺は絨毯の上を歩き出す。


「俺の混沌魔法が魔物避けになってるからびびらず前に進め」


 それは朗報だ。案外簡単に帰れるかもしれない。

 絨毯を歩いているとデカい扉にぶち当たる。両手が塞がっているので足でこじ開ける。広間の様な場所から一転、次は廊下の様な場所に出る。


「右だ」


 ウツツの指示通り右に行く。

 少し歩いた所で金属を引きずる様な音が聞こえてくる。


「そういえば言ってなかったな。俺の混沌魔法にはな、一つ大きな弱点があんだ」


 どんどん金属音が近づいてくる。大丈夫だ魔物は近づいてこない筈。この音はダンジョン内の扉が風かなんかで開いた時の音だろう。


「基本俺の混沌魔法は耐性も無効も全て貫通して相手にダメージを与えるが、残念なことにある奴らには全く効かない」


 ウツツ、オメー今更何をいう気だ。

 金属音がかなり近くまでやってくる。恐怖で見が竦む。動かなきゃ。逃げなきゃ。


「どんなやつかっていうとな命がねぇ奴らだ」


 廊下の曲がり角からそいつは現れた。

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