第48話
「ルードラ」
ウツツの転移魔法によって俺たちは外へと一瞬で移動する。そしてもう一度「ルードラ」とウツツは唱えた。
ツンと鼻をつく何かが焼け焦げた匂い。辺りを見渡す。所々クレーターができ荒れ果てた地。まるで爆弾でも投下されたかの様にもくもくと黒煙があがっている。
「ここで何があったん?」
俺はウツツに聞いた。
「俺の体と誰かが戦った。俺の体に勝つぐらいの奴だ、多分同郷だ」
なるほど。昨夜の戦闘音はそれだったわけだ。まだ見ぬ転生者とウツツの戦い。勝ったのはまだ見ぬ転生者。
ウツツに勝ったって相当強いんじゃないか。だってウツツはアリスを追い詰めるくらいには強い。もしウツツと一緒で好戦的だったらどうしよう。こればっかりはあの転生者がいい奴であることを願うしかない。
「で、俺は何をしたらいい。そいつがここら辺うろちょろしてたら危ないから早く済ませようぜ」
俺が言い終えるとアリスが俺の顔を覗き込んでくる。
「ナツ君なんだかウツツさんと親しげな感じ?です」
素で話しすぎた。アリスに変に思われてる。よくよく考えたら俺を殺そうとしてた奴と普通に会話してるって誰がどう見ても不自然だよな。
「別に親しくはないけど仲が悪いって訳でもないよ。実はちょくちょく会ってる。普通に怖い奴だとは思ってるけど」
俺がアリスにウツツとの関係性を説明しているとしたから「おい」とウツツが言ってくる。
「駄弁ってる暇なんざねぇ。姫アレを頼む」
地面から綺麗な青い液体の入った小瓶がニョキッと出てくる。どうやらさっきの人達も一緒に転移魔法で飛んできてた様だ。
「この小瓶は?」
ウツツに尋ねる。
「これが蘇生アイテムだ。お前には今からこれを持って俺の体のもとまで行ってもらう」
「分かった行ってくる」
フーッと深呼吸をする。イケる。俺なら混沌魔法の中を自由に歩くことができる。今までだって何度もやってきたしな。
「ちょっと待ちやがれ。一応俺を持っていけ。姫、影から出てきてくれ」
ニョキッと先の三人が地面から出てくる。
「いちいち出たり入ったりホントめんどくさい!」
出てくるなりお怒りの様子。ちなみにミファは寝ていた。
「悪りぃな。今から混沌魔法に突っ込む。影の中にいたって混沌魔法は防げねーからな」
「許してあげるから早く帰ってきなさい」
「おう」とウツツが返事をする。なんか見せつけられてるみたいで悔しい。
ここはおれも
「アリス、俺行ってくるよ。俺の帰りを待っててくれ」
ジッとアリスを見つめる。やべーなんか俺の方が照れてきた。キモがられてないかな俺。
「あ、あの…ナツ君────」
「駄弁ってる暇なんざねぇっつったろ。早く行くぞ」
クソ!もうちょっとでアリスの言葉を聞けたのに!ウツツめ許せん。
「待てウツツ。アリスを一人置いていくのは気が引ける」
俺はチラッと姫と呼ばれてる女とシドと呼ばれてる男を見た。
「ナイトさま気取りか?アリスの強さは知ってんだろ。逆にお前、足手まといだろ。いいから早く行くぞ」
ナイトさま気取りっていうのやめて。なんか恥ずかしいから。
「分かったよ。アリス何かあったらすぐルードラで逃げていいからね」
「いえ。私も行きます」
混沌魔法をくらって血だらけになったアリスの姿を思い出す。
「いや。アリスはここで待っててくれ。すぐに帰ってくる」
「でも────」
「おい。もう喋べんじゃねぇ。早く行くぞ」
ウツツがものすごい形相で俺とアリスを睨めつけてくる。自分は姫さんとイチャイチャしてた癖に急かしてきやがって。
「はいはい」俺は適当に頷き地面に置いてあった小瓶をポケットに入れ、ウツツを脇に抱えた。
「そういえばお前の体どこにあるん?」
「このまま真っ直ぐ行け」
「真っ直ぐね。それじゃあアリス俺行ってくるから」
「…気をつけて」
「うん!」と、心配させないよう元気よく返事をし俺は真っ直ぐ進み始めた。
五分ぐらい歩いただろうかやっとウツツの体を見つける。地面に倒れているウツツの体は右腕が無く、所々焼き焦げていたり裂傷していたりと見るも無残な姿になっていた。あまりこういうのに耐性がない俺はスッと目を逸らす。
「おい、蘇生アイテムを使え。蓋を開けて体に垂らすだけでいい。その際俺の頭を首元に置けいいな」
「分かった」
俺は薄目でウツツの体を見ながら、首元の切断面と頭部の切断面を合わせる様にしてウツツを置く。その後ポケットに入れていた小瓶を取り出し蓋を開けた。
「垂らすけど何処にたらしてもいいの?」
「ああ、何処でもいい」
よしやるぞ。
タラーと青い液体がまるで一本の線の様にウツツの体に垂れていく。小瓶の中身が空になる。特になんの変化もない。
「失敗だな。時間が経ちすぎたか、損傷が酷すぎるか、そもそも俺が人じゃないからか理由は分からねぇ。こんな事なら検証しとくべきだったな」
ウツツの体はもう戻らないって事?だとしたら結構冷静だなウツツ。まぁ、取り乱す所も想像はつかんが。
「どうする?埋葬でもするか?」
ウツツの体こと彼女とはそこそこの付き合いだ。悲しくないといえば嘘になる。
「そんな事はしねぇ。まだ蘇らせる手段はある。今からエクストラダンジョンに行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだよダンジョンに行くって。しかもエクストラって、聞くからに強そうじゃん。俺は戦力にならんぞ。お前ら悪魔団だけで行くんだよな?」
確かエクストラって追加とかそんな感じの意味だよな。なんとなく予想はできる。
「俺とお前二人だけで行くぞ。気ぃつけろよ、クリア後ダンジョンだ。高レベルのモンスターがそこら辺にウヨウヨしてやがる。お前なんて一瞬でミンチかもな」
やっぱりクリア後ダンジョンか。
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