第46話

「六人目の攻略対象ってそれつまりストーリーに首を突っ込めって事でしょ」


 そうなるとダンジョンとか潜らないといけないのでは?モンスターと戦うなんて出来るわけが無い。


「そうよ。現状ゲームストーリーとは全く違う展開。せめてダンジョンの暴走だけでも止めるの。それをあなたと主人公でやるの」


 そうだ。どちらにしろダンジョンの暴走とやらを止めないといけないんだ。

 でも…


「こえー」


 俺はぼやいていた。もう少し何かやりようがないだろうか。攻略対象達はメリーに好意的な感情を持っていた。わざわざ俺が前に出なくとも裏からキングゥ辺りをサポートすればいいのではないだろうか?


「いざとなれば私も直接介入するわ。それにあなた、随分主人公と仲が良かったじゃない。剣術スキルまで披露しちゃって、もしかしてあなたも主人公に惚れちゃった?アピールするいいチャンスよ」


 見てたのか。俺の交友関係が気になるなんて過保護なママだ。


「好きかどうかは分かんないけど何故かメリーを見てると胸がドキドキするよ。俺はゲームの設定がこの体に表れてるんだと思ってる」


「?つまりヤーナツが主人公を好きって事?」


 なんで疑問系なんだ?


「え?だからヤーナツは主人公に嫌がらせをしてたんじゃないの?ほら好きな子程って奴」


「知らないわよ。ヤーナツが優秀な主人公をひがんでるんだと思っていたわ」


 そこら辺の細かい設定は描写されてないって事か。

 「ま、そんな事より」と、リアは話を続けた。


「折角主人公と仲がいいんだし、一つ目の初心者用ダンジョンだけでも潜りましょ。そうすれば自ずとストーリーも進む筈…。それから先はあなたに任せるわ。主人公を助けたいなら助ければいいし、関わりたくないなら徐々にフェイドアウトしていけばいい。私も色々協力するわ」


 俺は一拍置いて「考えてみるよ」と答えた。嫌だと、駄々をこねずやるべきなのかもしれない。


「悪いわね、なんか重荷背負わせたみたいで。アリスがそろそろ来るだろうし私はもう失礼するわね」


 ガチャンッとリアが部屋を出て行く。俺は「じゃ」と手を上げ見送りの挨拶をしベットの上にダイブした。さてとどうしたものかと俺はベットの上で考える。

 初心者用ダンジョンだけならどうにかなるだろうか?名前的にそこまでモンスターも強くなさそうだし。筋トレ効果も発揮して案外無双できるかもしれない。けどダンジョンだけが問題じゃないんだよな。メリーと関わりを持ちすぎると攻略対象共に目をつけられるのがなぁ。あいつらなんか好戦的だし。ぶん殴られてもおかしくない。そういえば存在をすっかり忘れていたが、兄も攻略対象だった筈だ。兄を頼るか?

 そんな事を考えているとコンコンとドアがなる。誰が来たかはわかっていたから「どうぞー」とベットの上から大声で入ってくる様促した。


「お邪魔しまーす」


 と、律儀に挨拶してアリスが入ってくる。手には色んな種類のパンが乗ったお皿を持っていた。


「おいしそー」


 これは焼きたてだなと分かるぐらいいい匂いが漂ってくる。


「パン、焼いてみたんです。お口に合えばいいですが」

 

 アリスは備え付けの丸テーブルに皿を置き、椅子に座った。「美味しそうだー」と手を擦り合わせながら近づきパン一つ口にする。


「うめー。しかも中にクリームが入ってやがる。すげー」


「良かった」


 と、アリスは安堵の息を吐き自分の作ったパンを一つ手に取った。小さく齧ってモグモグするアリスの食べ方が小動物みたいでそれはまぁ可愛いこと。


「このままアリスとこんな風に過ごしててー」


 そんな事を口走っていた。

 ギョッとアリスはびっくりし目を見開く。そして俯きながら照れた様子で



「いいですね。それはとてもいいです」


 と、言った。いつもなら俺も恥ずかしくなってすぐに話題を逸らそうとするが、今日はこの穏やかとも言える俺たちの日常を全力で楽しみたかった。


「だろ!めっちゃいいよな!この学校に来てから忙しなくて仕方がないよ。あの頃に戻りてー。俺の部屋でアリスと過ごしてたあの頃に。なんか密会してるみたいで正直ドキドキしてた」


 お!アリスの髪が変質してきた。肌の色もどんどん青みがかっていく。


「わ…私もドキドキしてました。で、でも私とナツくんがこそこそ会ってるの、お母様は知ってましたよ」


「初耳だ。まじ?」


 コクンとアリスは頷いた。


「こっちに連れてきなさいって何度か言われました。今度帰る時一緒に来てみませんか?お母様も喜びます」


「じゃあさ今から行こうぜ。ちょうど挨拶したいと思ってたんだ。お手をいいかなお嬢様」


 ルードラで飛んでもらうために手を差したが、ペチンと俺の手をアリスが叩く。


「今日のナツくん様子が変です。なんだかその困っちゃいます」


「ごめんごめん。アリスといるとさ、なんか落ち着いちゃって、逆に暴走しちゃったみたいな」


「何かあったんですか?」


 アリスにぐらい言ってもいいよな。というかアリスについてきてもらうか。

 俺が言おうとしたその瞬間、急にドコンッバコンッと爆発音がかなり遠くから聞こえてくる。俺とアリスは二人して窓の外を見た。

ピカッとまるで雷が落ちるかの様に空が光る。


「誰かが戦ってます。二人ともすごい魔力量です」


 マジか。かなり距離があるからここにまで戦闘の余波が来ることは無さそうだが。まさかメリーと関係があったりするのだろうか?ダンジョンの暴走って事はないよな?


「あの…今日、この部屋に泊まりましょうか?あ、変な意味じゃ無いですよ」


 顔を強張らせてた俺を見て、心配したアリスがそう言ってきた。俺を守ってくれようとしてくれてる。


「大丈夫だよ。心配させてごめん」


 正直めっちゃ焦っていたが、アリスを心配させたくなかったので、平常心で返事をした。




その日の深夜。この謎の戦闘の正体を俺は知ることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る