第45話

「絶対やだよ、な!メロンちゃん」


 メロンちゃんは首を何度も縦に振った。 

 俺もメリーもメロンちゃんも冒険者適性試験でこの学校から落ちこぼれの烙印を押された劣等生だ。ダンジョンがどんなものか知らないが、この三人でダンジョンに潜るなどはっきり言って無謀ではないだろうか。何よりおれがダンジョンに潜りたくない。


「じゃあ何のために鍛えてるの?」


「もしもの自衛のため」


 言うなり俺は立ち上がり素振りを始めた。ブンッブンッと剣道部のように上から下へと振っているのだが、メリーとメロンちゃん体操座りで二人並んでジッ見てきてやりづらい。

 素振りやめて走り込みに行こうかな。そう思った矢先メリーが立ち上がり俺に何か魔法をかけてくる。


「魔法かけた」


「どんな魔法をかけたん?」


「強化」


 なるほど。何度か剣を振ってみる。心なしか楽な気がするけど劇的に変わったってほどでもない。なんか今日調子がいいな程度だ。


「どう?」


 と聞かれてもなぁ。正直に言うか。


「あんま変わんないかな」


 いつも通りの仏頂面で表情こそ変わらなかったが、なんとなく悲しそうにしてる気がした。


「じゃあこれはどう。ファイア」


 次にアリスは火の魔法を放った。俺は反射的に目をつぶってしまった。


「ちゃんと見て」


 そんなこと言われましても火が怖いんですもん。


「いや、俺じゃなくて先生に見てもらいなよ」


「馬鹿にされるから」


 一応先生に見せた事はあるのか。にしてもこの学校の教育方針はどうなっているんだろうか。


「じゃあキングゥとかそこら辺は?」


「あんまり喋るなって言われてる」


「誰に?」


「オウミ。もしかしたらヤーナツとも関わるなって言われるかも」


 たかだか幼馴染がそんな事を言うかね?それとも異世界だとこんなもんなのか?いかんせん元のゲームの事何も知らんからなぁ。


「オウミって人から教わればよくね?」


 なんにせよ俺もメリーとはあまり関わりたくない。オウミ君後は頼んだ。


「弱いままでいいって…」


 とんだ束縛男じゃないか。やっぱ乙女ゲーってそう言う愛の重いやつとかも必要なんだろうな。

でも、主人公が弱いままってやばいんじゃないだろうか。


「メロンちゃんどう思う?」


 とりあえずメロンちゃんで常識チェックだ。案外この世界の男は独占欲が強いのかもしれない。俺は三年間家で剣を振ってたから分からん。


「な、何かおかしい…です…。このままじゃ…その…」


 最後の方は口ごもってなんて言ったか分からなかったが大体内容は伝わった。やっぱりこの世界の人から見てもオウミの束縛は異様なようだ。

 さてどうしたものか。裏から暗躍でもして他の攻略対象とくっつけるか。だが、オウミだって攻略対象の筈。このまま何もしなくてもいいんじゃないだろうか。むしろ俺と言う存在がストーリーの邪魔をしているのではないだろうか。まさか、ヤーナツが主人公に嫌がらせをする、これは重要なファクターなのでは?


「ヤーナツのスキル見せて」


 んー?と顎に手を当て考える俺にメリーがそう言ってきた。


「実はなんも使えん」


 なんとなく嘘をつく。本当になんとなくだ。


「弱」


「嘘嘘。今から見せるよ」


「意味のない嘘やめて」


 メリーが俺の肩にバコッとちょっと強めのパンチをした。俺は「ごめんごめん」と戯けた調子で謝った後ジバシリを披露した。どうよと感想を聞こうとする前にメロンちゃんから


「い…今のは?」


 と、聞かれた。


「剣術スキルだよ。教えてもらってさ。頑張って練習したんだ」


「ほ、ほ…他には?」


 珍しいメロンちゃんがここまで興味を持つなんて。隣のメリーも「珍しい」と呟いている。


「もう一個使えるけど…」


 あれ使うと腕が痛くなるんだよな。だから特訓終わりにいつも使うことにしてるんだけど。期待されてるような気がするしやっとくか。

 木剣を頭上高く掲げる。その瞬間メロンちゃんの「す…すごい…」と言う声が聞こえた気がした。それはさておき、掲げた剣を勢いよく思いっきり振り下ろす。


「チンスラァ」


 地面がほんのりひび割れる。そのまま俺は一歩踏み出すと剣を思いっきり振り上げた。


「これがもう一個の技。これ使うと腕が痛くなるんだ」


 メロンちゃんがテクテクテクと近づいてくる。俺の腕に手を当てるとその場所が緑色に輝き出す。痛みが引いて行く。


「すげー、回復魔法だ。ありがとう!」


 恥ずかしかったのかスッとメロンちゃんは顔を伏せた。


「なんでヤーナツ魔法の試験受けたの?」


 メリーが入学前の試験の事を尋ねてきた。この感じだとメリーも俺の醜態を見てそうだな。メリーどころかメロンちゃんも見てるか。


「剣を持ってき忘れたから。そんな事より俺は今からチンスラを撃ちまくる。腕が痛くなったらメロンちゃん頼んだ」


 メロンちゃんは首を大きく縦に振ってくれた。やったぜ。熟練度稼ぎだ。




 その日の夜。リアが俺の部屋にやってきた。ズカズカっと入ってきて空きベットに座る。


「アリスが来るかもだし単刀直入に言うわね。あなた六人目の攻略対象になりなさい」


「嫌だ!!」


 叫んだね。それはもう思いっきり。

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