第44話
今日はリアに剣の稽古をつけてもらっていた。もちろん授業をサボってだ。リアは優秀な生徒らしくあまり授業に出なくていいらしい。
スキルを使用しないちょっとした対人戦。実は人と剣を交えたのは初めて。思いっきり木剣を振り抜いてみるが、これ当たったら普通にやばくねと思う事もしばしば。そのせいで偶に手を抜いてしまう。俺なんかが手を抜かずとも、リアは綺麗に俺の剣を捌き切ってるから手を抜くのは失礼かとも思ってしまう。
対戦中にそんな事を考えているとリアがコンっと俺の頭を木剣で軽く叩いた。
「集中しなさい」
「ごめん。でも言い訳になっちゃうけど、人に剣を振るの怖いや」
「最初はそんなものね。いつか慣れるわよ。まあいいわ休憩しましょ」
俺とリアは床にへたり込み息を整える。どうせだから俺は床に大の字になって寝そべってみる。運動後に寝そべるのなんか気持ちがいい。
「折角二人きりだし近況報告と行きましょうか。Aクラスはどんな感じかしら」
寛ぐ俺にリアが話しかけて来る。
「どんなと言われてもなぁ。とりあえず分かった事はAクラスに主人公はいないよ」
リアは「はぁ?」と言いながら俺の方を見た。
「Aクラスに主人公はいないって、この学校に主人公がいないって事?」
「主人公自体はいるよ。しかも俺のクラスに。でも主人公かの確信はない」
「なるほどAクラスにはいないのね。それじゃあ初心者用ダンジョンを潜ってないわけだわ。よくその子が主人公だと分かったわね」
「さっきも言ったけど確証はないよ。でも黒髪自体あんまりいないし、それに攻略対象と思われる三人がその子の事を取り合ってた」
「その三人の名前は言える?」
どんな名前だったかなぁ。キングゥの名前はすぐに思い浮かぶんだけどなあ。
「ラウド様の名前は知ってるでしょうから、もしかしてキングゥとオウミとそれにフレードかラケル?」
なかなか名前が出てこない俺を見かねたのか、リアが攻略対象と思われる人達の名前を言っていく。ラケルというのは初耳だ。まさか男がまだ増えるのか?
「ラケルって奴を除いたその三人だよ」
「…どんな風に取り合ってたか知ってる?」
なんでそんな事を知りたいんだろう?それになんだか様子がおかしい。
「三人でメリー、メリー、て頑張って気を引こうとしてたよ」
「その時決闘みたいな事が起こらなかった?」
「起こったね。オウミって言う赤髪が勝ったよ」
「そ、それは本当なの?フレードが負けたなんて正直信じられないわ。だって、だってアイツは私より強いのよ」
どこか取り乱した様子。フレードという男の負けに驚愕しているようだ。もしかすると親密な仲だったのかもしれない。
「まぁ事実としか言いようがないね」
「どんな風に負けたの?」
「魔法で一発だったよ」
それを聞いたリアは「ありえない。ありえないわ」と呟き、しばらく無言が続いた。そっとしとこうかとも考えたが、気になることがあったので聞いてみる。
「やっぱ好きな男には強くあって欲しいもんなの?」
ワードも確かオウミの強さを信じていた。やはりモテには強さが必要不可欠なのだろうか?気になる。
「は、はぁ?!何言ってんのよ!別に好きとかじゃなくて単純に私より強いのに負けたっていうのが信じられないだけ」
明らかに動揺している。
「フレード君の話は置いといてだ。好きな男には強くあって欲しいもん?」
「何よ、いきなり。気色悪いわね。そうね女の子なら一度は守ってもらいたいと考えるものじゃない?」
なるほどね。女の子を守るなんて俺には縁遠い話だ。
「つまり強くあって欲しいってことね。教えてくれてありがとう」
「なんなの?意味が分からないわ。そんなことより!転生者たる私より強い人がこの学校に二人。しかもゲームの主要キャラ。これは他の転生者が絡んでいると見ていいわね」
「その二人が転せ─────」
俺がリアに言いかけた途中
「ヤーナツいた」
メリーの声が聞こえる。横にはメロンちゃん。俺と同じく授業をサボっているようだ。
タッタッタッと近づいてくる。
「まさか主人公?あなた知り合いなの?」
「サボり仲間だね。あんまり関わりたくないと思ってるけど」
リアは何かを考えてるような仕草を取り「私も関わりたくないからそれじゃ」と言って立ち去った。俺も関わりたくないのにリアだけずるいや。
「今の人誰?」
すぐそばまで来たメリーが聞いてくる。
「知り合いだよ」
俺はそう答えた。
「ぃ、い、いい、いつぐらいからの、し、し、知り合い、で、ですか」
メロンちゃんが俺に喋りかけてくるなんて珍しい。
「三年半ぐらい前からかな」
「剣、教えてもらってたの?」
俺の傍にある木剣を見てメリーが言った。
「そうだよ。今から素振りするからメリー達の相手はできない。向こうで遊んでなさい」
メリーは「剣を扱えるんだ」と小さく呟いた。そして間をあけて
「私達三人でダンジョンに潜ろう」
と、言ってきた。
「ごめん無理!!」
俺が即座に否定するのと同時にメロンちゃんも首をぶんぶんぶんと横にふっていた。
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