第43話

 アリスとワードが近づいてくる。正直逃げたかったが、俺の心が『またアリスから逃げるのか?』囁いてくる。我が心よ俺に戦えと言うのか。いいだろういざ立ち向かわん。俺は勢いに身を任せ立ち上がり、アリスに「おーい」と大きく手を振った。

 アリスとワードが俺の目の前までやって来る。アリスに何を言おうか悩んでいた時、ワードが鋭い目つきで俺を睨んでいることに気づく。


「やぁご両人。ご機嫌よう」


 俺はワードの鋭い目つきに負けないように明るく挨拶をかましてやった。


「親が折角この学校に入れてくれたのですよ。なのに授業をサボって平民を連れ回して、もう少し真面目に取り組もうと言う気は無いのですか」


 ぐうの音も出ねぇ。睨め付けながら正論で殴るのはやめて下され。意気消沈した俺はその場で屈み込み、茂みに隠れてなんとかワードのレーザーの如き鋭い眼光から逃れた。

 まぁまぁとワードを宥めるアリス。


「ヤーナツ君だって色々あるんですよ」


 アリスが俺を庇ってくれる。

 だが


「女の人に守られて自分が恥ずかしいとは思わないのですか」


 逆にそれが気に食わなかったのか、ワードは吐き捨てるようにそう言った。

 俺は反骨精神で恥ずかしく無い!、と言い返しそうになったがワードの神経を逆撫でするだけなので小声で言うだけに留めといた。

 そんな俺の脇腹をメリーがツンツンと突いて「あの人怖い」と俺にだけ聞こえる声で言ってきた。そんな事言われてもメリー俺にはどうしようも無い。許せ。


「あのそちらの方は…」


 俺の脇腹を突くメリーを見てアリスがそう聞いてきた。自己紹介などする気がなさそうなメリーにかわり俺が紹介してあげる。


「この人はメリー、俺のクラスメイト。で、こっちのあれ…メロンちゃんは?」


「あそこ。でっかいお尻」


 メリーがスッと指をさす。その先には木に隠れきれてないでっかい尻があった。いつのまに隠れたんだろうか。気づかなかった。


「あそこに隠れてるのがメロンちゃん。あの子も俺のクラスメイト」


「三人で何をしてたんですか?」


 アリスが聞いてくる。なんだか追及されてる感覚に陥り冷や汗が頬を伝う。


「三人で何かしてたわけじゃ無いんだ。俺が打倒Aクラスの為に敵情視察をしていた所、二人がやって来たんだ」


 フッとワードが鼻で笑う。俺は気にすることなく続ける。


「そしたらフレードって奴もやってきて、殿下も来て、最後にあの赤髪の男が来たんだ。で、なぜかあの二人が戦うことになった。お、そろそろ始まりそうじゃん」


 フレードとオウミの二人が対面してる。フレードは剣を手に、オウミは杖を手にしていた。


「なんで二人は戦うことになったんでしょうか?」


「いやなんか無視したとかそんなくだらない理由だったかな。でも本心は別の所にあると思う。多分メリーにかっこいい所を見せたいんだよ二人とも」


「え、それって…」


「そんなんじゃ無い!!」


 アリスの声を遮るようにワードが大きな声で叫んだ。


「オウミとその子は昔からの知り合いってだけでそれ以上でもそれ以下でも無い。変な事言わないで!」


 最後にワードは「あなたも勘違いしないで」と付け加えメリーをキッと睨め付けた。そんなワードに対しメリーは目も合わせようともしない。

 え、何。ワードはもしかしてオウミってやつが好きなの。なんでこんなドロドロな展開になってんの?この先男と女の壮絶な争いが起こる予感。


「アリス、オイラなんだか怖いや」


「わ、私もびっくりしちゃいました」


 空気が重い気がする。


「よ、よーしそろそろあいつらの戦いも始まるみたいだし一緒に見学でもすっか」


 俺はなんとか空気を変えようと口から言葉を絞り出した。アリスに「アリスもこっちおいでよ」と俺のすぐ横の地面をトントンと叩く。「じゃ、じゃあ、失礼しますね」とアリスは俺の隣に座った。

 隣にはアリスとメリー、俺は冗談で


「両手に花だぜ」


と、言った。が


「も、もしかしてナツ君もメリーさんを…」


 と、アリスが心なしかしょんぼりとした様子で言った。


「その考えだとアリスの事も好きって事になっちゃうね」


「そ、そうですね。た、たしかにそうなっちゃいますね」


 アリスは顔を真っ赤にしている。なんだか逆に変な空気になった気がする。話題を話題を変えなければ。


「ア、アリスはさぁ、どっちが勝つと思う?」


「そ、そうですね。オウミさんは強いですけど、対戦相手のフレードさんという方は私でも聞いたことがあるぐらいこの学校では有名人です。だから───」


 俺とアリスが場の空気を変えようと話していると


「オウミが勝つに決まっています。黙って見てなさい」


 ワードが会話に割り込んでくる。多分ワードは俺に言ったんだろうがアリスまで巻き添えを喰らってしまう。俺とアリスは二人揃って「はい…」と返事をし、そのまま試合が始まるまで落胆した様子で口を閉ざした。

 そして試合が始まる。オウミとフレード、両者の間に立った先生が始めと俺たちのとこまで届く大声で合図を出した。

 開始早々オウミが火の魔法を放つ。それをフレードが手に持った剣で受けようとしたがが、うまく捌くことが出来なかったのか、オウミの放った魔法によって剣ごと吹き飛ばされてしまう。倒れ伏したフレードの体から黒煙が出ている。起き上がる気配がない。まさかもう終わり?フレードは強いんじゃなかったの?


「もう終わり?」


「ですかね?」


 あまりにも呆気ない一瞬の出来事。俺とアリスは正直よく理解できていなかった。


「流石です。オウミ」


 そんな俺たちとは違いワードは恍惚の表情でオウミの名前を呟いた。

 本当に終わったのだろうか?半信半疑である。そんな俺の横腹をメリーが突く。


「ヤーナツ逃げよ」


 そうだ逃げなければ。また奴らがここにやって来る。


「メロンちゃんはどこに?」


「あそこ。もう逃げてる」


 メロンちゃんは一足先に逃げていた。「メロンちゃんに続くぞ」と立ち上がろうとしたがアリスに


「どこ行くんですか」


 と、問われてしまう。無視をするのも気が引ける。


「何も聞くな。俺は逃げる!アリスも来るか?」


「はい!私も行きます!」


 授業中だと言うのになんの躊躇いも無い即答。何故かちょっと嬉しい。

 こうして俺たちは四人で逃げた。逃げる最中、メリーとはもう関わらない方がいいよなぁ、とそんな事を考えていた。

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