第42話
「殿下あの二人の試合間近で見た方がいいですよ。盗める物があるかも知れない」
俺はキングゥにそう提案した。しかしキングゥは訝しげな目で俺を見た。
「お前とメリー二人きりにはしておけん」
キングゥはここに居座る気だ。というかメロンちゃんの存在を忘れすぎ。メロンちゃんが可哀想だ。
「恋にうつつを抜かしてたら、追いつけるものも追いつけ無くなっちゃいますよ。あの二人を超えてみたいとは思いませんか?」
「確かに超えてみたい…超えてみたいが…」
冒険者としてのプライドと恋心がキングゥの心の中で戦っているのが俺には見えた。
あともう一押しで行けそうだ。
「実はね殿下。ここにはもう一人、人がいるんです。メロンちゃん…。あれ?メロンちゃん」
俺は辺りをキョロキョロ見渡すがメロンちゃんの姿がどこにも無い。この騒ぎの間に彼女だけ逃げ切ったというのか。俺も連れて行ってよメロンちゃん。
「あそこ。でっかいお尻」
メリーがスッと襟を掴んでない方の手で指をさした。指を差した先には木に隠れきれていないでっかいお尻があった。そのお尻は震えていた。
「いたいた。殿下、あの子に俺を見張らせるというのはどうでしょう。いやちょっと待てよ。そもそもですよ、何かあれば声をあげるようメリーに言えばいいじゃないですか」
キングゥは思いつきもしなかったというような驚愕の表情で「た、確かに」と言った。
「だが、お前に誘導されてるような気がしてならん。お前は卑劣な奴だ。何をするかわかったもんじゃない」
随分とヤーナツの事を信用なされてる様子。
「その時は王子の権力を使って俺をこの学校から排除すればいいんですよ」
「俺がそういうの嫌いな事知っていて言っているだろ」
知らん。お前と話したのは今日が初めてじゃい。
「殿下俺は殿下の事を応援してますよ。冒険者として大成しメリーと結ばれる。しかし二兎を追う者なんとやらとも言います。ここが分岐点です。何をなすべきか考える時です」
キングゥは顔を傾けうーんと考える。そして何かを決断したかのように「よし」と言うとメロンちゃんの方を見た。メロンちゃんはビクッと体を硬直させた。
「メロンとやらこいつの事を見張っといてくれ。私はフレードとオウミの決闘を近くで見てくる。メリーこいつに何かされたら言ってくれ」
そう言うと運動場のような場所へ小走りで向かって行った。キングゥなかなかにちょろい奴なのかも知れない。メリーを連れて行けば解決するのに。俺的にもそっちの方が良かったかも。
「で、今のやり取りなんだったの?どうやって私の手から逃れるの?」
メリー君は何も分かっていない。もう危険は去ったんだ。殴られる心配もない。
「もう逃れる必要がなくなった。あいつらがどっか行ったからな。俺達もここであいつらが戦うの見とこうぜ」
攻略対象と思われる奴らの戦闘力を見ようじゃないか。
「でもあの人たちは戻ってくる」
失念してた。メリーに襟を掴まれたままじゃ逃げれない。
「もうめんどくさいからみんなで逃げようぜ」
破れかぶれの打開策。メリー達は逃げる必要が無いから意味のない提案だよな。
「のった。三人で逃げよ」
やったぜ。言ってみるもんだな。そこでようやっとメリーは襟から手を離してくれた。
メリーがこう言うということはあいつらみんなメリーからウザがられてる、てことじゃね。おいおいゲームストーリー大丈夫かよ。
まぁまずは攻略対象共の強さを見ていくか。俺達は身を屈め、茂みから覗き見るように観戦する。
Aクラスの子達も授業を一旦止め、決闘を見学するようだ。授業中に決闘だなんてよく先生も許したもんだ。
「どっちが勝つと思う。やっぱフレードって奴かな」
俺はメリーといつの間にかメリーの横にいたメロンちゃんに聞く。
「多分オウミが勝つ」
メリーはオウミが勝つと思っているらしい。俺は思った事をメリーに聞いてみる。
「もしかしてオウミって子と昔からの知り合い?」
メリーはコクンと頷いた。
やっぱりか。やっぱ恋愛ゲームに幼馴染というのは必要不可欠なんだろうな。オウミが攻略対象かどうか定かではないけど。
その時俺はある光景が目につく。キングゥがワードと何か話し、こちらをチラリとワードが見る。その後ワードがアリスと話し、アリスとワードがこちらに駆け寄ってくる。
「誰か来る。会いたくない人もいる」
会いたくないと言う割には無感情な声音だ。
アリスかワードどちらと会いたくないのだろうか。気になるところではあるがそれどころではない。かく言う俺も今の状況をアリスに見られたくない。後普通にワードとも会いたくない。
「それじゃあどうする?」
俺は極めて平然と言ったが、心中は穏やかではない。何故今の状況をアリスに見られたくないのだろうか?考えたって意味はない。ここはメリーの返答次第で行動を決めるとしよう。
「ヤーナツがなんとかして」
なんと無慈悲か。
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