第40話

 俺はリアに言われた通りAクラスの監視をしていた。茂みに隠れてこっそりとAクラスの生徒達を見る。

 Aクラスの生徒達は大きな運動場とも言える場所で授業を行っていた。その授業の内容は冒険者らしいもので魔法が飛び交ったり剣と剣がぶつかり合ったりと授業なのに危なくね、と感想を抱いてしまうほどだ。

 黒髪の生徒、主人公を探すがそれらしい生徒は見当たらない。代わりにアリスの姿を見つける。的の様なものに魔法を撃っている。ついでにワードとキングゥの姿も捉える。

 アリスの近くに男子生徒が近づいてくる。何やら話している様だ。何を話してるんだ気になっちまうぜ。気になりすぎて茂みから顔を出してしまう。


「何をしてるの?」


 突如後ろから声がかかる。

 後ろを振り返ると、肩にかかるくらいの黒髪の女の子メリーと、尻まで届こうかと言うぐらい長いボリュームのある髪に標準よりちょっとふっくらとした体型がどこか愛嬌があって可愛いらしい女の子がいた。メリーからメロンと呼ばれている女の子だ。だから俺もメロンちゃんと呼んでいる。

 彼女達は俺のクラスメイトで俺がクラスで暴れた日以来よく二人で行動をしている。彼女達もよく授業をサボるのだが、偶にこうやって俺の後ろをついてくることがある。なんでも堂々と授業をサボる際、俺がいると心強いらしい。

 俺とは違い平民なのだから授業に出ないとやばいんじゃないだろうか。一度言ってみようかな。いやいらぬお節介か。


「打倒Aクラスのために敵情視察をしている。君たちはここを去れ。重要な任務だ」


とりあえずメリーの問いに出任せで答えた。


「そんな子供じみたこと言って恥ずかしくないの?」


 と、言いながらメリーも俺の横で屈み茂みに隠れる。


「いやどっか行ってよ」


「嫌だ。メロンもこっちおいで」


メリーはメロンに手招きをした。しかしメロンはこちらには来ず木に重なる様にしてその身を隠した。が、


「隠れたつもり?全然隠れれてない。でっかいお尻が丸見え。こっちおいで」


 メリーの言う通り隠れたと言うにはお粗末なほど体のあちこちが見えていた。

メロンは顔を真っ赤にしこっちに来る。そのまま俺たちと同じように屈む。


「いや二人ともどっか行ってよ。メロンちゃんも迷惑してるならメリーにそう言った方がいいよ」


 メロンちゃんは首をぶんぶんぶんと横に振った。これは迷惑していないと言う事だろうか。


「私とメロンは大の仲良し。ヤーナツこそメロンを困らせないで」


 メリーはギュッと隣にいるメロンを抱きしめて仲良しアピール。でも若干メロンちゃんは困っている。そこはまぁ、言わないでおいてあげよう。


「とりあえず俺の邪魔はしないでよ。俺は忙しいんだ」


「これの何が忙しいの?逆に暇だからこんな事してるんじゃ無いの?」


「俺のこの行動が世界を救うかもしれないんだ」


 あながち嘘は言っていない。俺の行動一つでダンジョンの暴走を食い止められるかもしれない。


「大人になろうよ。ヤーナツ君」


 メリーが言った。

 抑揚のない声で棘のある言葉をちょいちょい言ってくるんだよな。この子。


「メリーこんなとこで何やってんだ」


 そこへ突然後ろからメリーの名前を呼ぶ声が聞こえる。次から次へと誰だよ、と思いながら俺は後ろを振り向いた。

 耳にかけた金髪にニヤッと左側に上がった口角、広い肩幅に、高い身長。服の上からでも分かるほど鍛え上げられた筋肉。

 こんなやつに絡まれたらひとたまりもない。俺はアルマジロのように体を丸めコロコロコロと、この場を去ろうとする。が、メリーに襟を掴まれてしまう。


「メリーそいつは誰だ」


 金髪の男が俺を指さす。睨まれているような気がする。メリーに気があると見た。


「ヤーナツ」


 名前だけをポンと言うのは違うと思うよメリーさん。


「ヤーナツ?聞いたことがある。ラウドの弟か?」


 この人、兄の友達か。なら怖がって損した。


「どうもヤーナツです。兄がいつもお世話になっております」


とりあえず挨拶をかましておく。兄の友達だ。失礼あっては兄に迷惑がかかる。


「ラウド以上の出来損ないらしいな。こんなとこでメリーと何をしていた」


どうやら兄の友達ではないらしい。わざわざ兄を下げるようなことを言って、相当兄のことが嫌いだな。というかメロンちゃんの事、無視しないであげて。


「メリーさん、メロンさんとは世界平和について話していました」


「本当に出来損ないみたいだな。もう向こうに行っていいぞ」


 やったぜ。メロンちゃんと一緒にここを離れよう。それにはまず襟を掴むメリーの手をどうにかしなければ。


「メリーさんや手を放してく────」


しかし


「メリーここで何を?それにヤーナツとフレード?もしかして何かされたのか?」


 俺の声を遮るように新たな男の声が聞こえる。勘弁してくれよと俺は後ろを振り返る。そこにはキングゥの姿。

 薄々勘づいていたが、どんどん確信めいたものに変わっていく。メリー、主人公は君なんだな。

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