第39話

 追いかけなくては。

 俺は走り出し、出入り口の前で立っているリアを避けようと右側に移動したが、リアも俺を避けようと左側に移動し逆にぶつかってしまう。


「ちょっと痛いじゃない。落ち着きなさいよ」


「ご、ごめん。でも行かないと」


 いてて、と俺は立ち上がる。


「あなた、アリスを脅してるんじゃなかったの?まさか仲良い?」


「脅してるよ。でも仲が良いとも思ってる。だから最近避けていたことを謝らないと」


「そ。それじゃあ早く行ってあげないとね。取り返しがつかなくなっちゃうわ」


 俺は頷きアリスを追って走り出した。

 寮を出てちょっとした所でアリスがトボトボ歩いているのが見えた。夜、ライトに照らされ銀色の髪がキラキラ光っているからとても目立った。


「アリス!」


 と俺はアリスを呼び止めた。アリスは俺の呼びかけにピタッと止まってくれる。アリスの横まで駆け寄ると


「顔は見ないでほしいです」


 と言ってきたので「分かった」と答えた。そのまま何処に向かうわけでもなく二人並んで歩く。


「さっきの人はいいんですか?」


 リアのことを言っているのだろう。


「うん。俺の部屋にいた子にも早く行ってあげた方良いって言われたよ」


「どういう関係…ですか」


「元々サンザンベル家で働いてたメイドだよ。兄の付き添いでこの学校に入ったんだけど、どうも不当な理由で兄に解雇させられたらしくて。その愚痴を聞いてあげてた」


 本当はゲームストーリーの話をしていたんだけど馬鹿正直にその事は言えない。


「じゃあ私は大丈夫ですからその方の側にいてあげて下さい」


「いやアリスに謝罪しなきゃだからここにいる」


「謝られることなんて何も…」


「最近俺アリスを避けてたじゃん。嫌な思いさせちゃったよな。そのごめんな」


 ごめんのジェスチャーをしながら謝る。アリスは「いえ…」と言い無言になる。そのまま当分二人して無言になり、ちょっとしてアリスが口を開く。


「最近のナツ君は気分が落ち込んでいると言うか、元気がなかったので立ち直れたみたいで良かったです」


「うん。心配かけてごめんよ」


「いえ…その、部屋にいた方のおかげで立ち直れたんですよね?」


 嘘をついたって仕方がない。


「そうだねあの子のお陰で立ち直れた。俺にとっては姉の様な存在だよ」


「姉ですか?」


「そ。でさアリスはさ俺にとって…なんて言えば良いんだろうな。恥ずかしいところを見せたくない存在?みたいな?何言ってんだろうな。そもそもアリスに守られようとしてる癖に」


ハハッと動揺を隠す様に笑った。


「何で恥ずかしい所を見せたくないの?」


 掘り返してくんのか。


「何でだろ。何でか分かんないけど恥ずかしい所もカッコ悪い所も見せたくないよ。でも俺普通にダサい奴だからこれからもかっこ悪い姿を晒していくと思う。その時は指差して笑ってくれ」


「その時は慰めたいです。だから今度は逃げないでください」


 その言葉を聞いた瞬間俺はついついブフォッと吹き出してしまう。


「今思えばアリスから逃げてたのが一番ダサかったな。今の鋭い一言で気付かされたよ」


「気づいてくれて良かったです」


「アリスも言うようになったね。そうだ今度部屋にいた子紹介するよ。きっと兄に対する愚痴が聞けるよ。俺もその子の話を聞いた時、兄みたいな奴がアリスの婚約者だなんて任せておけん、て思っちゃったもん」


 事実ならばの話だが。


「ならどんな人なら私を任せておけますか?」


 ピタッとアリスが立ち止まる。少し俯いている。俺はアリスの方を見て


「誠実な人」


 適当に答えた。


「誠実な人…。でも私、正体を隠すだろうから気が引けます」


「案外受け入れてくれるかもよ」


「お父様とお母様にだって言ってないんですよ。怖くて言えないです。結婚、諦めた方がいいのかな」


 アリスがしょんぼりしている。


「最悪俺がいるよ。何つって」


 言っておきながら恥ずかしい。

 俺は羞恥心を誤魔化すかの様に後ろ頭を掻きながらガハハと笑った。

 アリスは黙って俯いている。が、よく見れば髪が変質しかけているではないか。これはやばい。


「アリス落ち着け落ち着くんだ。そうだ問題を出すよ。りんごが二つありました。ある日りんごが食べられてしまいました。犯人はヤーナツ君か、アリスちゃん二人のうちのどちらか。二人の言い分はこうだ。


アリス「私がりんごを食べたよ」

ヤーナツ「僕はりんごを食べてない」


二人のうちのどちらかが嘘をついている。さて誰が嘘つきでどっちがリンゴを食べたでしょう」


 問題を出した甲斐あってか、なんとかアリスのもん娘化は免れた。

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