第38話
その日の夜、俺はベンチで寝るなんて事はせず自分の部屋でしっかりと休息を取る。どうやらおれの同居人はヤーナツと同じ部屋なんて嫌だ、と言ってどこかへ行ってしまったらしい。これはラッキー、と思いながらベットの上で鼻歌歌いながら寝転がる。
そこへドアがどんどんとなる。
アリスだろうか?これまで避けていた事をちゃんと謝ろう。
俺がドアを開けるとアリスではなくリアがいた。
「どうしたのリア?」
リアは「中に入るわよ」と言ってズカズカと入室してきて同居人のベットに腰を下ろした。
「あなた今日随分と暴れたそうね」
「うんまぁね。一刻も早くこんな暮らしから解放されたいから」
言いながら俺も再びベットの上に寝転がる。
「どう?ギャフンと言わせた?」
「どうだろう。このままヤーナツの執念深さに怯えて何もしてこないといいけど」
「ま、わざわざ教室に行って授業なんか受けなくても冒険者として優秀と認められたら勝手に卒業できるわよ、この学校」
「そうなんだ」と適当に相槌を返す。
つまり俺があの技を披露すればワンチャン何もせずとも卒業の可能性有りということか。それとも冒険者としてある程度実績がないとダメなのだろうか?ダンジョンとやらには潜りたく無いんだよなぁ。怖いから。
「そういえばここ相部屋でしょ?もう一人は何処なの?」
「ヤーナツと一緒は嫌だと言ってどっか行った。らしい」
「ふーん。ヤーナツの名も偶には役立つわね」
そう言ってリアはベットにゴロンと寝転がった。コイツ同居人の代わりに思う存分寛ぐ気だ。
「で、何しにきたん?」
いきなり来たんだ。何か用があってきたはず。
「そうそう。今日Aクラスつまり主人公達が学校近くにある初心者用ダンジョンに潜ったはずなのよ。本来ならここで本格的にストーリーが始まるのだけれど、何も起こってないの。あなた光の柱は見た?」
「見てないけど」
「でしょ。これは非常に不味いわね」
ある意味これは俺にとって都合の良い展開ではないだろうか。ゲームの内容と大きく違えば俺に死の運命は訪れない。
だが一応何が不味いか聞いておこう。
「何が不味いん?」
「このままじゃ全てのダンジョンが暴走するわ。ゲームのストーリーなんてどうでも良くなるくらい悲惨な状況になるわよ」
「ダンジョンの暴走…モンスターが暴れ出すんだっけ?どちらにしろ起こるんじゃないの?」
「最後のダンジョンだけね。みんなの力でなんとかするんだけど、全てのダンジョンとなると最悪人類滅亡もあり得るわ」
驚愕のあまり俺はガバッと起き上がりリアの方を見た。死の運命とか関係なく死んじゃうじゃん。
「ヤベェじゃん。どうすんの?対策は?」
「とりあえずあなたはAクラスの動向を見守ってちょうだい。なにか有れば逐一私に報告してちょうだい」
「いやゲームを知らない俺がAクラスを見るよりリアが見張ってた方がいいんじゃないか?」
「もっともね。だけど私は来る時に備えて強くなっとくからあなたに任せるわ」
任せると言われてもな。何を報告すればいいかなんてわかんないよ。でも頑張らないと、死、確実。
「主人公の見た目教えてよ。後名前」
「黒髪で肩にかかるくらいの長さ、という事ぐらいしか分からないわね。名前も強いて言うならリア、としか言いようがないわね」
「なるほど」
リアは自分の名前でプレイしていたというわけだ。にしても肩にかかるくらいの黒髪か、クラスメイトにそんな子がいたな。その子を見ていると何故か胸がドキドキするんだよな。ワードの時みたく。
そこへ突然ドアがノックされる。
「もしかしたら私の追っかけかも」
と言ってリアが出ようとする。
「ちょ、ちょっと待ってリア俺が出るから」
俺は慌てて止めたが間に合わず、リアは扉を開いてしまう。
姿を見せたのはアリスだ。目を大きく開きアリスは俺とリアの姿を交互に見る。
「あ…あの、その…ご、ごめんなさい」
アリスは動揺した様子で走り去ってしまった。
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