第37話とあるなら転生者視点
「ヤーナツ離しなさいよ」
取り巻き達は叫ぶが、決してヤーナツに触れようとはしない。
ヤーナツはもがく貴族の女の子を肩に担ぐと教室の後ろに移動しそこでスクワットをし始めた。三回膝を曲げたところで
「重すぎるな」
と言って貴族の女の子を床に乱雑に放り顔に包めていたブレザーを取った。
「何すんのよ!!」
貴族の女の子は鬼の形相で大声を張り上げた。そんな女の子を無視して「次行こうかー」とヤーナツは教室を歩き出した。
「この中にやたら俺の服が好きな奴がいるよな。そいつに俺のシャツをあげよう」
そう言うとネクタイを外さないように器用にシャツを脱ぎ始めた。右手にはブレザー左手にはシャツをまるで剣を構えるようにして持つ。シャツからは水がぽたぽたと滴り落ちていた。
何かを察した男子生徒は立ち上がり教室の扉まで走ったがヤーナツがシャツをガバッと広げて通せんぼする。
「どこに行くんだよ。いつもみたいに遊ぼうぜ」
ジリジリとまるで獲物を追い詰めるハンターみたいに距離を詰める。
「調子に乗りやがって!お前らやるぞ!」
男子生徒の号令で他の生徒がヤーナツを囲む。それを見たヤーナツは嬉しそうに口の端を上げた。
「大人気で俺は嬉しいよ。お前らのために汚水に飛び込んだ甲斐があったぜ。きったねー、きったねー俺の小便入りの汚水によ」
シャツとブレザーを振り回して始めた。
教室内に水が舞い散る。クラスのみんなが悲鳴をあげながら机を盾に隠れる。ヤーナツは「くらえー!必殺汚水スプラーッシュ」と叫んでいる。やがてヤーナツの攻撃はやみ息を切らす事なく宣言する。
「いいかお前らよく聞け。今後も俺に何かしようってんなら相手になってやるよ。もしその時俺が無様な姿を晒して逃げ出したっていつか絶対に仕返しするからな。お前らが寝てようがうんこしてよう食事中だろうが関係ねぇ。執拗に追いかけ回して永遠に嫌がらせしてやるからな。お前らが謝っても許さねぇ。その精神叩き折って家から出られないようにしてやんよ。それだけじゃおわらねぇ。家に引きこもるお前らを引きずり出してずっとずっと嫌がらせを続けてやる。このヤーナツ様を怒らせたお前らが悪いんだからな」
「そんな事したら俺の父上が黙ってないぞ」
男子生徒が声を上げた。
「いいね。お前のお父さんの口目掛けてうんこ投げつけてやるよ。並んで土下座させてやる。とりあえずお前にはまだ借りがあるからな。楽しく遊ぼうや」
そう言ってヤーナツは男子生徒に近づく。
「バーインド」
そこへ私達の担任であるおじいちゃん教師ロドリゲスが現れヤーナツに拘束の魔法を掛ける。このロドリゲスも何かあってはヤーナツを笑い物にしていた。
「ヤーナツ君ここを何処だと思っているんだ。君の遊び場ではないぞ」
「学びの場ですよね。そんな事重々承知ですよ」
「では何故こんな事をした」
すると突然ヤーナツは笑い出した。
「冗談ですよね?それとも他のゴミ生徒どもにもその質問をしてるんですか?逆に聞きますけどここをどう言った場だと思ってるんですか?」
ロドリゲスは一瞬、間を置いた後
「知識や教養を身につける場だ」
と言った。
するとまた大きな声てヤーナツは笑った。が、ロドリゲスが「ザイレント」と沈黙の魔法をかけ笑い声はすぐさま消える。
「煩わしい子だ。そのまま頭を冷やしときなさい」
このままヤーナツを放置する気だ。
「嫌だね。言いたいことは全部言って今日はぐっすりと眠るんだ」
しかしヤーナツは止まらなかった。最弱キャラ筆頭のヤーナツが魔法を解いた事に違和感を覚えたが、それよりもこのヤーナツの逆襲を見てみたいと強く思ってしまった。
ヤーナツは振り向き真っ直ぐロドリゲスを見据える。その間もずっとヤーナツに魔法を唱えるロドリゲス。
「知識と教養を身につける場ね、教える事を放棄し、いじめを助長する先生がよく言えたものだ。俺はね冒険者を志望してたんだ。たしかに俺は弱い教えるのも一苦労だろう。だけどそんな魔法も撃てない俺を一からみっちり鍛え魔法も撃てるようにしてくれると期待してこの学校に来たんだ。蓋を開けてみれば優秀な生徒以外事実上の切り捨て。学校の名が聞いて呆れるね」
「黙れ!貴様何故魔法が効かん」
ニヤッとヤーナツが笑いロドリゲスの目の前まで迫る。
「それはあなたが先生としてだけじゃなく魔法使いとしても無能だからでは。見下してる相手に理由を聞かずちゃんと自己分析をしよう」
最後にヤーナツはロドリゲスの肩に手を置く。
「あなたに教わるよりも適当に剣を振ってた方が強くなれそうだ。言いたいことも言ったし俺帰るよ。お前らも覚えとけよ!」
最後に教室中に言い放ちヤーナツは帰っていった。これだけのためにこの教室に来たのだろうか?
すると主人公が立ち上がりヤーナツを追いかけていく。いじめられっ子の私が一人残るのも嫌だったので、机の上の食べ物を手掴みで弁当に戻しヤーナツと主人公の後を追う。
「え、何何、なんでついてくんの?」
ヤーナツは困惑した様子で歩く。
「どうやって魔法を防いでいたの…ですか」
主人公の声初めて聞いた。抑揚のない感情のわかりにくい声で、私も気になっている事をヤーナツに聞いた。この時期にヤーナツがダンジョンアイテムを持っているとは思えない。一体どうやって魔法を防いだのだろう?
「いや正直俺も分からん。後、敬語無理に使わなくていいよ」
ゲームの中だとあれだけ主人公に嫌がらせしていたのに、妙に優しい。出会いが違えばこうも変わるものだろうか?
そもそも主人公がAクラスにいない地点でおかしいのだ。ヤーナツに魔法が効かないことと言い、あまり深く考えてはならないのかもしれない。
「教えてくれないなら用はない。あ、でも、あなたのおかげで今日のいじめは免れた。だから一応ありがとう」
「今日はまだ続くから気、張って行かないと。それに君を助けるためにあんな事したわけじゃないよ。礼なんていらない、と、思わせて素直に喜んでおこうかな。ありがとうって言われると嬉しいよ」
えへへと笑うヤーナツはまるで期待するかのように私を見る。
これは私も言った方がいいのかな。
「あ、あ、あ、あぁ、あり…」
この世界に来てから親以外とは碌に喋ったことがない。同年代の子と喋るなんて初めてかもしれない。おまけに相手はヤーナツだ。前世での出来事も相まっていろんな緊張から上手く言葉が出ない。私はこんなにコミュニケーションがとれなくなっていたんだ。
気持ち悪がられていると思ったが、ヤーナツは頑張ってと言った感じて無言で私を応援してくれている。
「あ…あり…ありが…とう」
「頑張って言ってくれて嬉しいよ。喜びも二倍いや三倍だ」
ございます、と言う前にヤーナツが歓喜してくれる。
「いやでも実際、俺は俺のためにああいった事をしたからね。マジで礼を言われる筋合いなんてないんだ。無理矢理言わせたみたいでごめんよ。んじゃ俺風呂屋行くから、またね」
ヤーナツはバイバイと手を振って走り去っていく。
私と主人公も釣られて手を振ってしまう。
「なんか変な子だね。私達もこの後の授業サボろっか」
主人公の提案に私はう、うんと頷いた。
この時は知る由もなかった。私が主人公、メリーの親友ポジになるなんて。
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