第36話とある野良転生者視点

 私は人よりちょっと正義感が強かったのかもしれない。だから本当は嫌われていたのかもしれない。

 ある日友達が私の部屋から18禁ゲーム『恋とダンジョンは迷路のように』のパッケージを見つけてそれを私にバレないように学校に持っていった。


『これ誰のだと思う〜』


 友達はヒラヒラと手に持ったパッケージを振りながら言った。教室のど真ん中で。

 そこから始まったいびられ生活。

 辛かったけど耐えられないほどでもなかった。けど嫌なものは嫌だったので先生に相談した。解決すると思ったのにいじめは激しいものに変わっただけだった。

 耐えられなくなった私は親に相談した。

 『うちの子がいじめられるなんて恥ずかしい』『いじめはいじめられる方にも原因がある』と言って私を突き放した。それどころか18禁ゲームを持っていることをこっ酷く叱られた。

 登校拒否をしたら母が金切声をあげて私を非難し始めた。私は泣く泣く学校に行った。

 高校進学に合わせて遠いところに行こうと泣きながら母と父にここの高校行きたいとプレゼンをした。その甲斐あってその高校の受験を許された。でも落ちた。

 怒った母と父は私を地元の国公立高校に通わせた。見知った顔、続くいじめ。不登校になって親から怒声を浴びせられながら殴られる日々。家に居たくなかったから家出した。

 コインランドリーで夜を過ごしているといじめっ子達に見つかってしまう。私は逃げた。ギャハハと笑いながら彼らは追っかけてくる。すごく怖かった。この恐怖から解放されたかった。だから私はカンッカンッカンッと電車の通過を知らせる踏切で立ち止まったんだ。




 次に目を覚ました時、私はこの世界にいた。

 よく知ったゲーム、そしていじめられる原因になった大嫌いなゲームの世界。赤ん坊の私を母と思われる人が抱いている。母と父はいい人だった。親以外とは関わろうとせずゲーム知識を活かしながらすくすくと育った。

 ある日極力人とは関わらないと決めていたのに私は人を助けてしまった。その方は力ある貴族の方で『君は才能ある子だ。君を冒険者学校に推薦する』と言ってきた。

 父と母は大喜び。私は行きたくないと言ったが、聞く耳持たず行きなさいと言ってきた。嫌な記憶が蘇る。でもこっちの親を落胆させたくなかった。絶対に平民いびりされるそう思ったが私は学校に通う事にした。

 主人公達と関わりたくなかったので試験ではをし無事Aクラス入りは免れる。だけど何故か主人公と同じクラスになってしまう。そしてゲームのキャラであるヤーナツも同じクラスになってしまう。ヤーナツといえばゲーム内でも屈指の屑キャラだ。もし目をつけられたら前世でのいじめなんて比にならない程酷い事をされるかもしれない。そう思ったが、ヤーナツが酷いいじめを受けていた。お気の毒だと思ったがヤーナツのおかげで私は平穏に過ごせると思ったが、やはり平民である私、そして主人公もいじめられた。

 今日はヤーナツがいないため私と主人公だけがいじめられている。


「お二人さん今日も仲良く豚飯ですか」


 一人の貴族の女の子が私の頭を叩きながら言う。後ろには取り巻きの生徒がいる。

 私と主人公は隣同士でいつも並んでご飯を食べている。別に何か話すわけでもないただ席が隣というだけだ。

 偶に主人公は攻略対象達に連れられどこかに消える。貴族の女の子達はそれに嫉妬して私に怒りをぶつける。今日はそうならない事を祈る。

 貴族の女の子が私の弁当を取り蓋を開ける。


「平民はこんな家畜の餌みたいなものを食べてるの?考えられないわ」


 そう言うと弁当を私の机の上にひっくり返した。グチャッと机の上に食べ物が乗る。主人公も同様の事をされていた。

 私は今からこれを食べなきゃいけないんだ。


「ほら家畜ちゃん召し上がれ」


 そう言うと私の頭を掴み散らばった食べ物に押し付けた。

 息が苦しい。もうこんなところ辞めたい。もしここでコイツらをみんな殺したら私の人生どうなるだろうか。きっと親に迷惑がかかる。

 だけど、ここでコイツらを殺さなきゃ私はまた死ぬ。そう思ったが今にして思えばあの時電車に轢かれる時私は全然怖くなかった。それよりもいじめっ子達に追われてている方がよっぽど怖かった。良くない考えが過ぎる。いや私にとってはいい考えなのかもしれない。

 急にダンっと大きい音を立ち教室のドアが開く。あまりとでかい音に一瞬教室内がシーンとなる。

 扉を開けた張本人が入ってくる。ヤーナツだ。ヤーナツはびしょ濡れで、歩くたびに髪の毛から水が垂れていた。

 そのまま私達の近くまで来る。


「楽しそうな事をしてるね。俺も混ぜてよ」


 大胆不敵と言った感じでヤーナツは笑っている。


「キモいから近づかないで」


 貴族の女の子も一歩も引かんと言った感じ腕を組み堂々としている。ヤーナツは笑みを崩さないまま私たちの方を指さした。


「こっちの嬢ちゃん達も君らに対してキモいから近づくなって思ってるよ。さぁ君はどうする」


「そんな舐めた考えを持ってるなら潰すけど」


 ゾワっと背筋が凍る。貴族が平民を潰すなんて造作もない事だ。なんて余計な事を言ってくれたのだヤーナツは。

 が、ヤーナツは


「つまりそう言う事だよ」


 と言うと水浸しのブレザーを脱ぎ貴族の女の子の顔面をブレザーで包んだ。

 取り巻き達から悲鳴が上がる。

 ヤーナツの高笑いが響く。

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