第34話

 フレードとパーティーを組むまでは順調だった。ラウドも私とフレードを引き離そうと頑張って特訓し何度もフレードに立ち向かった。そんないじらしい姿を見ているとなんとも心が満たされた。

 でもそれは長く続かなかった。

 急にラウドは私とフレードに関わらなくなったのだ。まるで私に興味が無くなったのかのように。フレードとパーティー活動をしていない時はラウドの身の回りのお世話をするのだが、その時ですら全く話しかけて来なくなった。

 そしてある日、ラウドに


『もう来なくていい』


 と実質解雇宣言を言い渡された。

 急にそんな突き放すような事を言われてショックを受けたのを覚えてる。

 サンザンベル家から切られたら学校を去らなくては、と焦っていたが幸い学校側が特例処置として残る事を許してくれた。

 私はラウドの心境の変化の原因を調べることにした。答えは単純だった。ゲームの主人公と既に出会ってしまっていたのだ。ラウドは主人公に一目惚れしてしまったのだ。

 まだストーリーも始まっていないのに出会うのが早すぎると思ったが、私の存在がそうさせたのかもしれない。

 私は焦った。もしかしたら攻略対象達は主人公に恋心を抱くよう定められているのではないか。運命でそう決定づけられてるのではないか。

 そう思った私はフレードと主人公を会わせないように努めた。

 だが、そう上手くいくものでもない。いや、私が何をしても無駄だったのかもしれない。攻略対象と主人公は引かれ合う運命だったのかも。

 今日の朝、私はフレードに話があると呼び出された。嫌な予感しかしなかった。

 いつも二人で剣の練習をする場所。そこに呼び出されたから行った。既にフレードは待っていた。


「リア、俺とお前のパーティーは解消だ」


 開口一番、挨拶もなくそう告げられた。


「ちょっと待って!なんでいきなりそうなるの」


「一緒に組みたい奴がいる。リアは邪魔だ」


 主人公だ。


「一緒に組めばいいじゃない」


 主人公と組んでもきっと自分が惨めな思いをするだけだとわかっていたが引き下がりたくなかった。


「面倒臭い女だな。どんだけ俺様の事が好きなんだよ。別のいい女を見つけたんだよ。理解できたか?」


 そう言って去ろうとするフレードの腕を私は掴んでいた。


「ちょっと待ってってば!今までずっと一緒にやってきたのにあんまりじゃない」


 こんな未練がましく引き止めて尚更惨めだ。でも、ぽっと出の主人公に負けたくなかった。フレードとは長い時間ずっと共にいたんだ。


「分かったよ。もしメリーが許してくれるなら、たまにならリアの相手してやるよ」


 それを聞いた瞬間「馬鹿にしないで」とフレードを平手打ちし走り出していた。

 人目のない場所で呆然と空を見上げる。

 少し展開が早いような気がするけど主人公達のストーリーが始まろうとしている。ま、私のストーリーは終わりかけてるけど。

 ストーリーが本格的に始まる前にこの学校から去って高みの見物でもしようかしら。

 そんな事を考えながら思い出の場所でも見て回ろうと歩き出す。

 朝の予鈴がなり周りに生徒の姿が見えなくなる。誰もいないし一休憩しますかと言った感じて花壇の縁石に座る。

 花壇を見ているとサンザンベル家でガーデニングのお手伝いをさせられていた事を思い出す。

 今思えばヤーナツが一番心許せる相手だったかもしれない。同じ転生者で敬語も使わなくてよければ変に見栄をはったり猫をかぶる必要もない。料理の感想を言ってくれたり、ゲームの話をしたり、何気ないくだらない日常会話だったり、なんの面白みもない日常だったけど今考えてみれば幸せな日常だった。


「久しぶりリア」


 突然名前を呼ばれる。声のする方を向く。


「ちょうどあなたの事を考えてたの」


 その男は少しだけ目を潤ませていた。

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